短編
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サンジと過ごすクリスマス、それのキッカケになってくれたのは島の雑貨屋でたまたま見つけたスノードームだった。球体の中は白銀に染まり、真ん中に配置されたメインのツリーの前にはミニチュアサイズの男女が肩を寄せ合っていた。それを手に取ったサンジは直ぐにレジに持って行き、支払いを済ませると私の手にスノードームが入ったラッピング袋を置いた。
「何で私に……?」
「おれもこんな風に過ごしてェなァって、君とホワイトクリスマスを」
こいつがキッカケになりますように、そう言ってサンジは私の瞳を真っ直ぐに見つめて柔らかく微笑んだ。
「素敵な提案ね」
私はラッピング袋をぎゅっと大事に抱える。決して高価なプレゼントではないが今この瞬間、私の中で一番大切にしたいものになった。そして、片思いが両思いに変化するのにも時間は掛からなかった。
それが二年前のクリスマス、あの日からドレッサーの上に飾られているスノードーム。定期的に磨いているスノードームはキラキラと輝いて、今日も球体の中で男女は幸せなクリスマスを謳歌している。だが、幸せは私の不注意で突然終わりを告げた。丈の長いカーディガンの裾がスノードームの球体部分に引っ掛かり、床に派手に倒してしまったのだ。パリン、と硝子が割れて床を汚していくのを私は唖然とした顔で見つめる。そして、バラバラになってしまった男女のミニチュアに手を伸ばした。幸せなクリスマスを壊してごめんなさい、と。
自身が思っていたよりもダメージが大きく、まるでネガティブホロウに掛かってしまった時のようだ。そのせいか、恋人であるサンジの事も避けてしまっている。二人のキッカケを壊してしまった、なんて言える筈もない。だが、隠し事をしている後ろめたさが私の心に重く影を落とす。ナマエちゃん、とサンジに話を振られる度に曖昧な返事を返す私にサンジだって何かを察したのか注意深くこちらを静かに見つめていた。
私が口に出せたのはクリスマスが終わって数日が経ってからだった、サンジと数人で未だに片付けを済ませていなかったクリスマスツリーを解体して飾りを同じ種類順にまとめていく、解体されたクリスマスツリーが自身の割ったスノードームの中にあったクリスマスツリーと被って、ポロッと無意識に涙がこぼれてしまったのだ。
「……ナマエちゃん、こっちおいで」
周りにバレない程度の音量でサンジはそう言うとこちらに手招きをしてくる、私はサッと涙を手の甲で拭うとコクンと頷いた。
「残りはおれ達がやっとくからレディ達はお部屋に戻って大丈夫だよ、野郎はナマエちゃんとのラブラブタイムに邪魔だからさっさと散れ」
そう言ってサンジはこの部屋から皆を上手く追い出すと、私の体を抱き上げて自身の膝に座らせる。トントンと落ち着かせるような一定のリズムで背中を撫でるサンジに私の涙も少しずつ落ち着いていく。
「……ごめんなさい」
「っ、くく、別に謝る必要ねェよ」
「泣いた事もそうだけど、私……」
貴方から貰ったスノードームを壊してしまったの、そう言って私は何度も頭を下げる。大事に出来なくてごめんなさい、キッカケを壊してしまってごめんなさい、と。
「ナマエちゃん、顔上げて」
恐る恐る顔を上げれば、予想とは真逆の優しい微笑みが視界を埋める。両頬に添えられた手が優しく、私の顔に触れる。
「たとえ物が壊れちまってもさ、スノードームをあげた時の気持ちは変わらねェよ。ナマエちゃんの気持ちだって変わらねェから辛ェなって思うんだ。それにさ、おれは知ってんだ。君が物も人も大切に出来る素敵なレディだってことをね」
だから、スノードームの思い出は壊れねェよ、とサンジは言う。ぽろぽろとこぼれる涙を掬うように私の少しだけ赤くなった目尻に口づけを落とすサンジ。
「大切にしてくれてありがとう、レディ」