短編
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甘ったるいお砂糖じゃなくて塩が欲しい日もある、調味料ではなく恋人からの対応の話だ。サンジは飴を与えるばかりで鞭の存在すら無くしてしまうような男だ。私が気を引く為にサンジの前で他のクルーに抱き着いてみても、怒りをぶつけられ、蹴られるのはいつも相手だけだ。
「めっ、だよ」
母親が幼子に言い聞かせるようにサンジは私に注意をする、声を荒げる事も手を出す事もない。それが気に入らない私は注意されている立場にもかかわらず、甘いだけの男は駄目ね、と吐き捨ててその場から立ち去る。
最初はサンジに塩対応されてみたいというただの興味だった、冷たくして、とお願いする度にサンジは丁寧に断ってきた。
「おれが?君に?」
「優しいだけの男はモテないわよ」
「手厳しい君におれはメロメロなんだけどなァ?」
そういうのは後にして、とつれない態度を繰り返す私にもサンジは優しく笑っていた。最初はその不毛なやり取りすら楽しかったのに、段々とそれが苦痛になっていった。ナミにロビン、出会ってきたレディ、その他大勢と私が変わらない事に気付いてしまったのだ。違うのは恋人という関係上の名前がある事だけだ、サンジは私にも私以外のレディにも分け隔てなく飴を振り撒く。
サンジに雑に扱われる特別が欲しいと思った。男と変わらない態度で唯一頼ったり、怒りをぶつけてもらえるような立場になりたかったのだ。だけど、計画は上手くいかず周りにも迷惑を掛け、きっとサンジだって呆れている。
「……駄目なのは私」
あの場から逃げるように立ち去った私は船の端っこで海を見つめていた。目の端に涙の粒が浮いては、水面にポロポロとこぼれ落ちていく。
「ナマエ!!」
サンジの切羽詰まった声が後ろから響く、それと同時にサンジの長い腕が私の腰を勢い良く自身の方に引き寄せた。向き合った体は身動きが出来ない程にサンジの腕に固定されている。
「……サンジ」
「お前はいつもそうだ、おれがどれだけ大事にしてやりてェと思ってもおれが見えない所で勝手に消えようとする……見張ってねェと他の野郎について行っちまうし、おれじゃ満足出来ねェ?おれじゃ役不足か?」
「ち、違うわ!」
サンジは私の体から腕を離すと、真横の壁に蹴りを入れる。足ドン、というには乱暴過ぎるその仕草に私は身を縮こませる事しか出来ない。
「……なんで、死のうとしてたの」
先程よりも覇気のない声でサンジはそう言った。
「誰が死のうとしてたの」
「ナマエちゃん」
「してないわよ?」
「だ、だって!今!身を乗り出して海に入ろうとしてただろ!君が美しいマーメイドのような見た目だとしても助からねェぐらい海は危険なんだよ……!」
さっきまで手に付けられないくらいに怒っていたのに、今では泣きそうな顔で私を止めているサンジ。誤解よ、とストップをかける私の声が届いていないのかサンジは、絶対に死なせてやらねェからな、と私の体を自身の腕の中に閉じ込めるのだった。