短編
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息を殺して、目の前の珍しい光景を観察する。観察対象のサンジは静かに寝息を立て、テーブルに頭を預けて寝てしまっている。
「……天使みたい」
美しいブロンドに薄く開いた唇、長い睫毛は白肌に影を落とし、どこか人外めいた雰囲気すらある。サンジは普段から私を天女だの女神だのと言うが実際はサンジの方がそれ等に近しい雰囲気を持っている。自身の煩く騒ぐ心音でサンジが起きたらどうしよう、と自身の胸を押さえるが未だに心音は落ち着く素振りを見せない。私のチョロい心臓は寝顔一つでオーバーな音を立て、サンジを起こしてしまいそうになる。
普段は誰よりも先に起きて、朝食の準備をしているサンジ。島に下りた時だってそうだ、先に起きて宿のベッドの上で好き勝手に私の寝顔を堪能してはニヤケ面を隠そうともしない。放っておいたら三時間でも半日でもサンジは飽きずに私の寝顔を観察するだろう。何度、注意した所で眉を下げて、駄目かい、と下手に来られたら私の意思は簡単に揺らいで許してしまう。だから、この天使のような寝顔は私にとって貴重なものなのだ。時々震える睫毛にテーブルの上で潰れた頬、規則的な寝息。サンジの寝顔を隠してしまおうとするブロンドのカーテンを指で払い、私はサンジと同じようにテーブルに頭を預ける。正面からサンジの寝顔を見つめれば、想像よりも幼いその寝顔に私の悪戯心が刺激される。
「……起きないでね」
囁くような小さな声でそう言うと私はサンジの頬を人差し指でつんと突く。肉付きの悪い頬は想像よりも柔らかく、私の指はその触り心地を求めるように何度もサンジの頬をつんつんと突く。サンジは眉間に皺を寄せて、ん、と低い声を出して私の手を払う。寝ている時ならレディ相手でもちゃんと拒否出来るじゃない、と的外れな事を思いながらサンジの無意識の反応を楽しむ。
「……チッ、んだよ」
サンジは眉間に深い皺を浮かべて、鋭い眼差しを私に向けた。そして、私の悪戯な手はサンジにガッチリと掴まれたままだ。
「……は」
私の顔と自身の手に握られた私の手を交互に見ると、今までのガラの悪い表情を投げ捨てサンジは破顔した。
「なぁに、可愛い事してんの。レディ」
「天使に触れてた」
「っ、くく、おれの寝顔が天使だって?」
頷いた私にサンジはテーブルに顔を預けたまま、視線だけを私に向ける。垂れた目をふにゃりと蕩けさせて、天使はおれの前にいるけど、とサンジは言う。まだ、寝起きの空気を纏ったままのサンジの表情と口調はどこか甘ったるい。
「かあいいなィ」
「可愛くない」
素っ気なく返す私にサンジは腕を伸ばして、私の頭をポンポンと撫でる。おれが知ってるからいーの、とまた蕩けそうな笑みを向けてくるサンジに私のチョロい心臓は心音を上げて派手なビートを鳴らす。サンジは喉を鳴らして笑うと私の心臓を服越しに指した。
「寝ながらでも君のラブコールが聞こえたって言ったら、ナマエちゃんは笑うかな?」
熱烈な爆音をドーモ、ナマエちゃん、そう言ってサンジは私の腕を自身の方に引くと私の無防備な唇に熱を送る。
「おはようのちゅーでもいかが?レディ」
「……ん、っ、もう、してるじゃない」
私の唇を貪るように何度も同じ行為を繰り返すサンジは天使には見えない、だが、悪魔か、と問われればそれも何故かしっくりとはこない。
「クソ海賊」
「はは、君と一緒だ」
天使でも悪魔でもない海賊の顔をしたサンジは熱烈なラブコールにあてられたと言う、そんな言い訳を繰り返すサンジの唇に齧り付いた私も天女や女神ではない。同じく、ただの野蛮な海賊だ。