短編
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恋がはじまった日、恋が進展した日、恋が儚く散った日、いつも私の横にいたのは恋人だった男ではなく友人のサンジだ。私専用の甘いチューハイとサンジ専用のビール缶が入ったコンビニ袋を揺らしながらサンジは私の家に押し掛けて来る。
「君の失恋に乾杯」
「……性格悪い」
「そ、おれは性格悪ィの」
そう言いながらもサンジは毎回、私の長い長い愚痴に耳を傾けてくれる。飽きた顔もせず、聞き役に回って最後には私専用全肯定マシーンになってくれる。ナマエちゃんにはもっと素敵な恋が待っているよ、と。
「サンジは恋してないの?」
「おれ?」
サンジは私に一言断りを入れて煙草に火をつける。煙を燻らせながら、ぽつ、ぽつと自身の事を話し出す。
「……おれは落ちてくるのを待ってる最中」
落ちてくるの一言で某アニメ映画のワンシーンが私の頭を過る、バルスと口にすれば隣に座るサンジがおかしそうに笑った。
「違ェって、ナマエちゃん」
「空から女の子が落ちてくるのを待ってるんじゃないの?」
「はは、半分正解」
「なら、あと半分は何?」
やけに憂いを帯びた顔をしたサンジは、心だけが腕の中に落ちてこねェ、と言う。
「もう、ずっと近くにはいるんだ。ただ、心だけが届かねェ」
こちらまで心臓が締め付けられるようだ、黙り込む私に気を遣ったのかサンジは適当にチャンネルを回してバラエティ番組にチャンネルを合わせる。
「お、君が好きな俳優」
「……サンジは相手に言った?」
「んー、言ってないよ」
別の話題に移ってはいけないような気がした、直感と言えばいいのだろうか。今、ここで話さないままでいたらサンジはもう此処に来ない気がしたのだ。
「それはどうして」
「安心して欲しいから」
いや、違ェな、そう言ってサンジは煙草を咥えたまま自身の片目を覆い隠す長い前髪をクシャリと乱暴に握った。
「……君が愚痴った野郎みてェになりたくねェんだ、下心で近付いてる時点で終わってるのなんて重々承知だが君が一人で泣くのも、おれが知らない君がいる事も気に食わねェ」
「私?」
「あァ、おれはずっと君の心が落ちてくるのを待ってる」
空から落ちた天使を真っ先に見つければ良かった、とサンジは悔しげに奥歯を噛む。
「最初の野郎みてェにレディを軽視したりなんてしねェ、二番目の野郎と違っておれは君を大事にするつもりだ。三番目の……チッ、あのクソ野郎は地獄に落ちればいいんだ。おれが閻魔だったらアイツを絶対に許さねェ」
「私の見る目が悪かったんだよ」
「君のせいじゃねェよ。ナマエちゃんはちゃんと恋をして、恋にちゃんとケジメをつけた」
君は立派だ、と頭を撫でて私を甘やかすサンジの手の上に自身の手を置く。
「次は間違わない気がするんだけど、どう思う?サンジの意見を聞かせて」
「……っ、落ちても大丈夫だよ。おれが君を受け止めるから」
その言葉を合図に私はサンジの首に勢い良く腕を巻き付けた、背中に回された腕は私の心を掻き集めるようにワンピースを強く握った。きっと、この感情は間違いじゃない。今までの恋だって間違いではなく、この腕に辿り着くまでの回り道だったのかもしれない。私はサンジの腕の中でそんな事を思った。