短編
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「何してるの、サンジ?」
「君に恋してる」
サンジは煙草の煙を吐き出しながら語尾にハートマークをひっつけて、私にそう言った。誇張ではなくサンジが話す度にぶわりと無数のハートが浮かび私を目掛けて飛んでくるのだ。その現象に気付いているのは私と自らの口からポコポコとハートを生み出しているサンジだけだ。その現象が始まってから数日、サンジは無意識の内にこぼれ落ちていくハートにヤケを起こしたのか、言葉でも私に想いを伝える事にしたらしい。浮かび上がる大小バラバラのハートを手で掻き消しながら、サンジは私に甘い口説き文句を贈る。腹を括るサンジと未だにこの事態についていけない私、サンジの想いを受け取る所か私は視界を埋め尽くすハートが気になってその想いに集中出来ない。
「君はハートに夢中みてェだけど、おれのハートには興味ナシ?」
自身の心臓を指差して、サンジはそう私に問い掛ける。戯けるようにサンジはそう言うが流石に私の態度に物申したくなったのだろう。真剣に聞け、と。
「だって、この不思議な現象もサンジの気持ちもはじめて知ったのよ」
この海には不思議が溢れている、悪魔の実だってそうだ。だが皆、その不思議に段々と慣れていくのだ。当たり前のように不思議を受け止めて、当たり前のように理解する。
「ロビンちゃんに聞いたんだ」
「このハートの正体?」
「あぁ、それで分かったのはおれのせいだって事」
我慢が下手だと怒ってくれていいよ、とサンジは言う。我慢とは何の事だろうか、サンジが続きを話し出すのをジッと待つ私。
「……君に言えなかった言葉があるんだ、好きだとか愛してるだとか一方的な愛の言葉がね。引かれちまうくらいにそれはもう山程」
それを身体の中で抱えきれなくなっちまった、いつだって愛が喉をせり上がっていくんだ、そう言ってサンジは困ったように眉をハの字にする。
「巻き込んで悪ィ」
今だってサンジの表情と不釣り合いなハートが視界いっぱいに飛んでいる、雪崩れて、跳ねて、意志が宿っているようなハートだ。
「サンジの想いを覗き見してるような気分だったの、覗き見なんて趣味が悪いわ……でも、今は見えて良かったと思っているの。あなたが想いを捨ててしまう前で良かった」
理由が分かれば何も怖くはない、このハートだってそうだ。サンジが一人抱えた想いの具現化だと思えば、途端に不思議なものから愛しいものに変化する。
「まだ、あなたへの気持ちは分からないわ」
だけど、聞いてみたいと思うの、山程ある愛の言葉を、そう言って私は手元に転がってきたピンクの特大ハートを抱き締めた。いつか、このハートの代わりにサンジを抱き締める日を夢見ながら。