短編
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「勝った方が相手を好きに出来るっていうのはどうだい」
何の変哲もないコインを彼女の目の前に翳して、サンジは何やら愉しげな声を上げる。まるで最初から勝敗が見えているとでも言いたげな機嫌の良さだ、負けず嫌いの彼女はそんなサンジの提案にひとつ頷いて見せるとサンジの手に置かれたコインの裏表をよく確認する。
「はは、用心深いね」
「確実に勝ちを確信してる顔だもの、疑って当然よ」
「お見事、良い推理だ」
だけど、コイントスは運がものを言う、そう言ってサンジは彼女の目の前でコインを宙に投げる。宙を舞うコインが部屋の灯りでチカチカと反射しながら、サンジの手に吸い込まれていく。目の前で行われていた筈なのに右か左か確信が持てない程にサンジのテクニックは目を見張るものがあった。
「……あなた、次の島でマジシャンの真似事でもしたら?ナミがきっと喜ぶわ、稼いで来なさいって」
「フッ、アルバイトでするにはお粗末なマジックだよ」
「私はいいと思うけど」
彼女の口からこぼれた言葉に嘘はない、それをサンジも理解しているようで機嫌よく笑っている。
「レディに褒められるなら光栄だ」
それじゃ、君に種明かしをお願いしようか、そう言ってサンジはニヤリと片側の口角を上げた。サンジは彼女を見つめて、さぁ、答えを、と片目を閉じる。
「右」
「本当に右でいいのかい?」
「判断が鈍るわ、揺さぶらないでちょうだい」
「はは、悪いね」
サンジは指定された右手を開いて、彼女の目の前で手のひらを振る。そして、同じように左手も開くがどちらにもコインは入っておらず、彼女は予想外の展開に目を丸くする。
「どっちにも入ってねェみてェだ」
「だって、さっきサンジの手に入ったわ……!」
「君のカーディガンの右ポケットを見てごらん」
サンジに言われた通りに彼女はカーディガンのポケットの中に手を入れ、中身を確認する。そうすれば先程、自身の目で細工を確認したコインが手にひやりと存在を主張する。
「いつ、入れたの……?」
目を白黒させている彼女にサンジは茶目っ気たっぷりに、こう答えた。
「勝てねェ勝負はしねェ主義なんだ」
君の美しさには負けてばかりだけど、そう言ってサンジは彼女の手からコインを受け取ると自身のスラックスのポケットにしまい込み、未だにコイントスの結果に夢中な彼女の腰を抱いて自身の方に引き寄せる。
「勝者は相手を好きに出来る、その約束はまだ有効かい?レディ」
言葉に滲んだ欲に気付いた彼女はどうにかその腕から逃げようとするが、サンジの口から飛び出す甘ったるい誘い文句の数々に雁字搦めにされる。勝負に乗った数分前の自身を恨みながら、その誘いに渋々、頷いてみせるのだった。