短編
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子供用のゾウの形をしたジョウロの中に水を入れて、サンダルに足を引っ掛けてベランダに出る。そして目的の鉢植えの前に座り込んで、声を掛けるサンジ。
「ナマエ、今日は天気が崩れるって」
ジョウロから花に水を与えるサンジは、ナマエと彼女の名前を呼びながら愛おしげに目を細める。君は綺麗だな、そんな歯が浮くような台詞を蜜のように甘い声で囁くサンジ、そんなサンジに耐えられなくなった彼女が網戸を開けてサンジの縮こまった背中に声を掛ける。
「……サンジくん」
「ん?どうかしたかい、ナマエちゃん」
彼女はベランダの縁にしゃがみこむとサンジの背中に頭を預けて、こう言った。
「……その子が羨ましいなぁ」
目の前にある鉢植えには星型の小花がたくさん花を咲かせている。サンジはその花達を彼女の名で呼ぶのだ、彼女が鉢植えを指して名前を聞けばナマエと答えるのに彼女が同じように自らを指差せばナマエちゃんと不思議そうに首を傾げる。
「私もナマエなんだけど」
唇を尖らして不満を訴えてくる彼女の分かりやすい嫉妬に気付かぬフリをして、知っているよ、と答えれば可愛らしい唸り声と共に彼女の頭がグリグリとサンジの背中を攻撃する。
「っ、くく、やめてくれ」
体格差のせいで大したダメージは無いがくすぐったくて落ち着かないのだ、それに彼女の麗しい髪が乱れてしまう。
「ナマエ」
「……不意打ちはズルいわよ」
「なら、次からは予告しよっか?」
「ナマエって呼ぶよ、って?」
あぁ、と頷くサンジに彼女は肩を震わせる。彼女の為なら何でもやってしまうサンジならやりかねないと容易に想像が出来てしまったからだ。
「何かおかしかったかい?」
「ただ、いつもお花ばかり良い思いをするのはフェアじゃないな、って」
お花ばかりに構うのは妬いてしまうわ、と彼女は植木鉢の花に視線を向ける。
「この花の花言葉を知ってるかい?」
「いいえ、なんて意味があるの?」
「潔白、才能、純潔」
君のような花だよ、そう言ってサンジは白い花弁を優しく指で撫でた。君の名を付けたら酷く愛おしく思えたんだ、とサンジは花に触れるように彼女の頬に指を滑らすと、ナマエ、と甘い蜜のような声で名前を呼んだ。
「おれの花の名前だ」
ジョウロに愛情を詰めて、今日も、明日も彼女という名の花に愛情を注ぐサンジ。花が折れてしまわぬようにサンジは強くなる、そして、花がここで微笑みを咲かせられるようにサンジは自身の全てを差し出すのだ。ナマエ、その愛しい名に誓って。