短編
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明日、君とキスしたい、そう言ってサンジは彼女の唇を指で押し返した。今でいいじゃない、と詰め寄ってくる彼女の柔肌は酒のせいで赤く火照り、つい味見をしてしまいそうになる。だが、酒で過ちを犯してしまいたいわけではない。ここで味見をしたら本番のメインディッシュは二度とサンジのテーブルには並ばない事をサンジは理解している。
「君が覚えていたら、キスしよっか」
人違いじゃなく、おれを覚えていたら、とサンジは言う。彼女が酔って甘えたい相手はもしかしたら自身じゃないかもしれない、悔しい事に男ばかりの海賊団だ。
「君が誰かのものになったら……っ、駄目だな。考えただけで手元のグラスを割っちまいそうだ」
「サンジ、グラス割るの?」
既にうつらうつらと船を漕ぎそうになっている彼女はサンジの独り言に不思議そうに首を傾げる、きっと部分的にしか理解していないのだろう。それが今のサンジにとってはありがたかった、男の嫉妬はいつだって醜く惨めだ。
「ん、割らねェよ。君が怪我したら大変だからね」
サンジは彼女の手からグラスを引き抜くと、彼女の揺れる体を抱き上げる。今日はお開きにしようか、と彼女の大して重さもない体をしっかりと腕で支えて女部屋に向かう。きっと、どちらかは起きているだろうと音量に気を付けながら女部屋の扉をノックする。扉は直ぐに開かれて、中から鮮やかなオレンジが顔を出した。
「ナミさん、遅い時間に悪ィ。ナマエちゃん眠ィみてェでさ、寝かせるから中に入ってもいいかな?」
ナミから了承を貰い、女神の楽園に足を踏み入れるサンジ。今日は二人とも部屋で軽く飲んでいたようで簡易テーブルの上にはワインとグラスが置かれていた。
「あ、おつまみとか必要だったよね……?すまねェ、おれも飲んでたから気が回らなかった」
「いいのよ、この子の我儘なんて珍しいし」
ナミとロビンは視線を合わせて美しい笑みを浮かべる、そしてベッドの上で身を小さくしながらスヤスヤと寝息を立てている彼女に視線を向けて母親のような顔をして、良かったわね、と囁いた。
「我儘……?」
「ふふ、あなたを独占したいんですって」
は、と口からこぼれた言葉にならなかった音は静かな部屋にやけに響いた。サンジは自身の口を押さえると彼女が眠るベッドに視線を向けた。
「……独占なんて、それじゃ、ナマエちゃんがおれを好きみてェじゃねェか」
「それは本人が起きてから聞いてあげて」
その後、直ぐに女部屋を後にしたサンジはキッチンに向かうと扉に背を預けたままその場に崩れ落ちる。自身の金髪を乱雑に掻き混ぜて、小さな唸り声を上げる。
『君が覚えていたら、キスしよっか』
先程、口にした言葉が自身の首を絞める。
「……君が覚えてなくても、キスしていいかい?」
ちゃんと告白の後で、そう言ってサンジは落ち着かない夜を過ごす。朝まで一睡も出来なそうな自身に苦笑いをこぼし、サンジは晩酌の片付けに取り掛かるのだった。