短編
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「あ?目が腐ってんのか、テメェ」
どう見てもナマエちゃんは女の子だろうが、と勘違いした住民に食って掛かるサンジ。サンジの脚からは炎が上がり、あまりにもやり過ぎだ。そんな暴走気味なサンジが可愛く見える私の頭もきっと暴走寸前なのだろう、サンジが男を蹴り倒す前にそのスーツに隠れた細い腰に腕を回して俵のように抱き上げる。
「悪いね、これでも女なんだ。この子の方が可愛いから勘違いしちまう気持ちは分かるさ」
そう言って、サンジの勢いに押されて尻もちをついていた男に空いた手を差し伸べる。
「……そんな野郎に手なんか貸さなくていいだろ」
「どこかの猫ちゃんが脅かしたせいで可哀想に」
サンジから不貞腐れたニャーという鳴き声が返ってくる。目の前の男は未だにサンジが怖いらしく、一度だけ頭を下げるとその場から走って逃げてしまった。
「ほら、猫ちゃんが引っ掻くから」
「鼠の方から食われに来たんだよ」
俵のように抱かれたまま、サンジはぶすくれたように返事を返してくる。飼い主の為に牙を剥いたのに説教のようにチクチクと言葉で刺されるのは不本意だとでも思っているのだろう、だが、甘やかすだけが躾では無いのだ。動物も人間も。
「それに今更だろ、私が男に間違われるのなんて」
「ナンパ目的で近付いてきた野郎なんて信用ならねェもん」
青年の恋愛対象は同性らしい、そこに嫌悪感などは勿論ないが声を掛けた相手が女で申し訳ないとは思う。
「っ、はは」
「ナマエちゃん?」
「……初対面で私が女だって分かる奴なんてサンジしかいないよ、しかも、信用ならねェナンパ目的で近付いてきた」
目をハートにして台風のような勢いで私に愛を叫んだサンジの声があの日から脳内で止む事は無い、こんな性別不詳の女にわざわざ声を掛けてレディなんてむず痒い呼び方をしてきたのは後にも先にもサンジだけだ。
「信用ならねェのに海賊船にまで追っ掛けて来ちまったくせに」
この角度からサンジの顔は見えないのに声色を聞いただけで表情まで鮮明に想像出来る、今はきっと意地の悪い顔をして笑っているのだ。
「可愛い子だったから逃したくなかったんだよ、私も」
「……その、可愛いってどういう意味」
「はは、それは君の方が得意だろ。サンジ」
口説き文句は君の得意分野だ、と返す私にサンジは納得がいっていないようだ。
「ナミさんやロビンちゃんは口説くのに!何で!おれの事も口説いてくれねェの!?」
「女同士の可愛いお遊びだろ」
「こないだ、ナミさんにマウント取られたけど!?サンジくんより私が可愛いって……いや、それは正しい、ナミさんが可愛いのは世界の常識だが……でも、おれだって君の前では猫ちゃんみてェに可愛いんだろ?」
可愛い、可愛くない、そんな話題でここまで必死になれるサンジは可愛いに決まっている。
「それの続き知ってる?」
「続きなんてあるのかい?」
「……秘密」
騒ぐサンジを抱えたまま、私は一人赤い顔をしてサニーまでの道を急ぐ。
「ナミは可愛いね」
「美少女なのは認めるけどサンジくんが妬いちゃうわよ?」
「……サンジは格好いいんだ、私の世界で一番」
私をヒロインに出来るのはきっと、この世でサンジだけだろう。