伊之助との短い物語
名前設定
鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私のお弁当を食べた翌日の朝、伊之助くんは私の元へ駆け足でやって来た。
まあ、基本いつでも彼は走ってるのだが。
「おい!のぶこ!」
「こら伊之助!小波さんだよ!おはよう!」
「小波!」
そんな彼を追うように炭治郎くんも後から私の席までやってきた。
目立つキャラではない私の名前を炭治郎くんが覚えていてくれていた事に嬉しさを感じながら、私は二人を見上げる。
「え…あ…おはよう!
…あ、お弁当?」
私は伊之助くんが今日もお弁当を必要としているのかと思い、私のカバンからお弁当箱を取り出そうとした。
昨日、学食を久々に食べ、その美味しさに感動した私は、お弁当でも学食でもどちらでもいいやという気持ちになった。
伊之助くんにまたお弁当をあげることになったら学食で、そうでなかったら自分のお弁当を食べようと思った。
そうなると、私のお昼は伊之助くん次第という事になるが、第三者にお昼を左右されるのも楽しいかと思った。
といいつつも、二日連続で私のお弁当でいいのか…というか、すぐお腹が減るならもっと大量にお弁当を持ってくればいいのではと思う。
しかし、おばあさんと二人暮らしという事で、大量にお弁当を作るのは大変なのかなとか、色々考えてしまう。
だから私は今日もお弁当を彼にあげようとしたのだが、逆に伊之助くんから紙袋を差し出された。
「弁当美味かった!これババアから!」
紙袋の中には、綺麗に洗われた私のお弁当箱と、お饅頭が二つ入っていた。
お店のではなく、手作り感がある。
「わぁ、手作り!?美味しそう!
お昼にいただくね!ありがとう!」
お饅頭を家で作るのはハードルが高いと思う。
おばあさんは料理が好きなのだと思った。
伊之助くんのお弁当もいつも美味しそうだし。
「ほら、伊之助こそお礼言わないとだろ。」
炭治郎くんが伊之助くんを肘でぐいと押す。
まるで保護者のようで、思わずくすりと笑ってしまった。
「あぁおう。あ…ありがとう。」
伊之助くんはたどたどしくて、言い慣れない言葉だったようだが、ちゃんと私の目を見て言ってくれた。
いつも荒々しいが、暴れていない時の彼は普通に綺麗な顔をしている事に気付いて少し恥ずかしくなってしまう。
「どういたしまして!お役に立てて良かったよ!」
そう言うと、伊之助くんはふふんと笑って、満足気に自席に戻っていった。
「どうだ!ちゃんと言えただろ!」
「そうだな!さすが伊之助だ!ちゃんと言えて良かったな!」
そんな親子のようなやりとりを聞きながら、私は貰った紙袋を見た。
そして手で口元を隠して彼らの姿を見送った。
しかしその約二時間後、伊之助くんは私の元へ来て、私はお弁当を彼に渡した。
そんな私と伊之助くんのやりとりを面白く思わない女の子達の視線に気付かない程、私は馬鹿ではなかった。
友達にこの事を相談すると、伊之助くんが私のお弁当を選んでるんだから、自信をもちなさいと言ってくれたので、私はそれ以上は気にしない事にした。
元々料理が好きだった私は、食べてくれる人が出来たことでより腕を奮うようになった。
家のキッチンも嬉しそうだ。
調理用具もいくつか新調して、お菓子作りにも手を出した。
席替えをして、隣の席になった伊之助くんは好き嫌いなく、お菓子もバクバク食べてくれた。
うまい!うまい!と食べるので、近くの席のクラスメイトも手を伸ばして食べてくれる。
休日には友達と一緒に、マカロンやシュークリーム等の難易度の高いお菓子にも挑戦するようになった。
結果的には伊之助くんのおかげで、沢山のクラスメイトと打ち解けられるようになった。
ある日の昼休み、私は手作りのラングドシャを伊之助くんを含めた近くの席の人達と一緒にむしゃむしゃ食べていた。
すると、別のクラスの女の子が二人、近付いてきた。
「小波さん?」
話しかけられるのは初めてだが、よくうちのクラスの前の廊下で見かける事があった。
「あ、はい小波ですが…?あ、これ食べます?」
私は、どうぞ、といってラングドシャの入った箱を差し出した。
「ヘ…あぁ、ありがとう。…あ、美味し……じゃなくて、ちょっと来てもらってもいい?」
「?…はあ。」
私は箱を皆の中央に戻して席を立った。
伊之助くんは相も変わらずむしゃむしゃ食べ始めたが、こちらを気にしているようだ。
私は二人の後をついて教室を出た。
人気のない方へ歩いている事に気付いてからは嫌な予感しかしない。
あぁ、多分面倒臭いやつだなコレ…そう思いながらも私は素直に二人と一緒に空き教室に入った。
私は警戒心剥き出しで二人の言葉を待つ。
すると私に声をかけた方が口を開いた。
「えっと…喧嘩をしたい訳じゃないの。ただ、色々と聞きたい事があって…。」
「はぁ… 」
「どうして伊之助くんに毎日のようにお弁当を渡してるの?」
あぁ、やっぱりその事だよね。
私は、伊之助くんにお弁当を渡すようになった事の経緯を全て話した。
「ふぅん。でもそれって、小波さんである必要はないよね?付き合ってないんでしょ?」
すると、今まで喋らなかった方の女の子が口を開いた。
そこには少し、いやかなり棘を感じる。
喧嘩腰じゃないか。受けて立つぞこら。
「うーん。伊之助くんが私の所に来てくれるから、渡してる感じだなぁ…」
面倒な事になるのは嫌なので、受けて立つのはやめにした。
あくまで私からのアクションではないと主張すると、彼女達は目を合わせて頷き合った。
「悪いんだけど、明日からもう伊之助くんにお弁当渡すのやめてくれる?」
やっと本題に入ってきた彼女達は微笑みながら威嚇してきた。
しかしそこに私は違和感を感じた。
伊之助くんはいつもお腹が空いているから、お弁当を貰えるなら誰からでも嬉しいのではないか…?
「え、お弁当渡したいの?渡したら喜んで受け取ってくれると思うけど…」
「受け取って貰えないからあなたにこうしてお願いしてるんだよ?
彼女でもないのに伊之助くんとカップルごっこしないでくれる?」
いやお願いって…脅しでしょうよ…
私はどうしても伊之助くんにお弁当をあげたい訳ではなかったが、彼女達のお願いをすんなり受け入れるのも癪だった。
いや、毎日伊之助くんがお弁当を貰いに来るかどうかソワソワしてるのは事実だし、貰ってくれたら嬉しい。
どうしたものかと、私がため息を吐くと扉が勢いよく開き、伊之助くんが入ってきた。
「おいてめぇら!聞いてたぞ!!
俺は小波の弁当が食いてぇから小波に貰ってんだ!!他のはいらねぇ!文句あっか!!」
伊之助くんはそう啖呵を切ると、いくぞ、と言って私の腕を引いた。
彼女達の表情は窺えないまま、私は腕を引かれてくるっと踵を返した。
伊之助くんは大股でずんずん歩いていく。
私は小走りで着いていった。
私は後ろから、伊之助くんの風を切るシャツを見つめていた。
掴まれた右腕がやけに温かかった。