伊之助との短い物語
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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伊之助の好物は天ぷら。
それは伊之助界隈(伊之助に好意を抱く女子の集い)では有名な話だ。
だから伊之助の為に天丼や天重を差し入れする女子は少なくない。
しかし伊之助は受け取らない。
伊之助にとっては、一緒に暮らすひささんの天ぷらが一番であり唯一だからだ。
そんな伊之助だが、休み時間の度に私の所へ食べ物を貰いにやって来る。
「小波!腹減った!」
今日も一限目が終わると私の所にやって来た。
ひささんのお弁当は一限目の最中に完食してしまい、その次の食料確保のために私の所にやって来る。
そして私は伊之助にお弁当箱を渡す。
「伊之助!今日はね、生姜焼きだよ!!色んな部位の豚肉を使ってみたよ!どれが美味しかったか後で教えてね!!」
「おう!」
私は意気揚々と彼に説明する。
伊之助は返事はしたが絶対聞いてない。
もう包みから出そうとしている。
「もう食べるの!?二限目に食べるんじゃないの!?」
そもそも授業中に食べる事がおかしな話だが、私達の中では普通の事になっている。
「今日は腹減ってんだ!」
伊之助は包みから出したお弁当を立ったまま食べようとする。
「ちょ…立ちながら食べるのは行儀悪いよ!!」
いや、授業中の食事は良くて立ち食いは駄目な基準がよく分からん…自分でもそう思った。
自分の席で食べればいいのに、どれだけお腹空いてるんだ、と呆れていると、伊之助は私を見て鼻息を荒くした。
「ふんっ!座ればいいんだろ!」
「え、あ……ここかい!!」
伊之助はズリズリと私を椅子の隅に追いやり、私の空いた座席部分に腰掛けた。
傍から見たらラブラブなカップルだ。
まあ、ラブラブかどうかはさておき、私達がカップルである事は間違っていない。
私達が付き合う事になったきっかけ、それもまたお弁当だった。
「おい権八郎!腹減った!!」
伊之助くんは、その日一限目にお弁当を食べてしまっていた。
それでもまだ空腹で、友達の炭治郎くんに食料を求めていた。
いつもは数段重なっているお弁当を午前中に何回かに分けて食べ、昼は学食で済ませている。
(え!あの量のお弁当食べたのにまだ食べるの!?)
私は彼の引き締まったお腹の中にどこにそんな容量があるのかと驚いた。
だって、食べても食べてもお腹が膨れないのよ!?
それほど腹筋が硬いのか…。
私は食べるとお腹がぽっこり膨らんでしまうので、彼の身体が羨ましかった。
きっと筋肉質だから、基礎代謝量が高くてすぐエネルギーを消費しちゃう身体なんだ…。
そう思うと空腹でいるのも可哀想だと感じた。
私は、昼用と放課後の部活前に食べる用で、お弁当を二つ持っていた。
私は地方からこの学校に来たため、一人暮らしで、お弁当も自分で作っている。
自分では美味しいと思って食べているお弁当だが、いざ人に食べてもらうとなると勇気がいる。
しかし、腹減った腹減ったと言い回りながら、女の子達から貰う可愛いお菓子では腹は膨れないだろう
この学校の学食はとても美味しいため、お弁当派の学生が少ない事も彼にとって残念な事だ。
(お腹が空いてる時って、何でも美味しく感じるよね…)
私は覚悟を決めた。
自分の手作り弁当を渡す事。
そして隠れ人気のある伊之助くんに声をかける事。
「あの、伊之助くん?私ので良ければ…食べる?」
私はおずおずと近くに来た伊之助くんにお弁当を差し出す。
「おぉ!!いいのか!?でもお前は何食うんだよ!!」
わぁ…相手の事、ちゃんと考えられるんだ…
私は少し失礼な事を考えながらも、伊之助くんの意外性に驚いた。
「大丈夫だよ!私、お弁当二つ持ってるから!」
「なにっ!?お前やるなぁ…その細っちい身体でよく食えるな…」
伊之助くんは私が自分のように早弁するタイプだと誤解してしまったようだ。
伊之助くんはキラキラした目で私のお弁当を受け取ってくれた。
いやいや、やるなぁって…ライバル視しないでくれる!?
「いや、これは放課後の部活の前に食べる用で…」
そう言い終えるのを待たず、伊之助くんは自席に戻って私のお弁当を食べ出した。
炭治郎くんには、良かったな、と、あと何か言われているようだった。
うめぇ!うめぇ!という声が聞こえてきたので、私はニヤける口元を教科書で隠した。