善逸との短い物語
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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嫉妬
(①省略)
②自分の愛する者の愛情が他に向くのをうらみ憎むこと。また、その感情。りんき。やきもち。
広辞苑より
私の彼氏である善逸は、ビビりだけどとても優しくて、金髪だけど真面目で、女の子が大好きだけど私を1番に想ってくれる。
彼に不満なんて一切ない。
これは私の問題なのだ…
「善逸くん、この大量の歴史本、図書室まで運ぶの手伝ってくれる?」
2、3限目の間の業間、クラスで1番可愛いと噂されている女の子が、善逸に声をかける。
煉獄先生に頼まれちゃって…と言いながら小さく頬を膨らまして首を傾げる。
(おい!あざとい!何が頼まれちゃって…だよ!
それくらい、1人で運べるでしょ!
てか、今1人で持ってるよねぇ!?
というか、なんで善逸なのよ!)
炭治郎くんと伊之助くんも近くにいるにもかかわらず、善逸一人に声をかけることにも腹が立つ。
「へっ!?え、おおおお俺…?」
(何ちょっと嬉しそうなのよ善逸!どもるんじゃないよ善逸!)
「もし忙しくなければ…手伝ってくれるとありがたいんだけど…」
(いーや、忙しくないの分かってて声かけてるよね?可愛い顔に下心出てますよ?)
「確かに重そうだな。じゃあ、俺達で運んで来るよ!な、善逸、伊之助。」
(おー!炭治郎くんナイス!流石長男!優しさの権化!ありがとう!)
炭治郎くんがそう言って席を立つ。
ちなみに伊之助くんは一連の流れを聞いておらず、黙々とお弁当を食べている。
あれ、今、まだ業間なんだけど。
しかしその子は、炭治郎くんに本を差し出さなかった。
「や、一応私が頼まれたし、3人に頼むのは申し訳ないよ…善逸くんお願いできる?」
「あ、うん、別に大丈………」
(だったらお前が1人で運べぇぇ!!!そして何故善逸なのだぁぁ!!!)
堪忍袋の緒が切れた私は、満面の笑みで現場に近付き、善逸の返事を遮った。
周囲から修羅場に思われないように、冷静に冷静に。明るく明るく…。
「あれ?その本、もしかして図書室に運ぶの?私、今から図書室行こうとしてたんだよねぇ!私でよければ手伝うよ!」
私は両手を差し出しながらその子に声をかけた。
「あ、小波!じゃあ、俺と小波で運んで来るよ!」
善逸もすかさず乗っかってくれた。
流石、私の考えを瞬時に理解してくれるから好きだー。
するとその子は一瞬、無の表情を私に向けてから、可愛らしく眉を八の字にして困ったように言った。
「んー、実は善逸くんに相談したい事があって、それで図書室まででもご一緒できたらと思ったんだけど……」
…そんな風に言われてしまったら、もうその子と善逸を二人にするしかないじゃないか。
私はそうすべきだと思った。
私の心臓は握り潰されているように痛く、喉の奥が詰まる感覚を覚える。
善逸は私とその子を見比べて青白い顔をし、可愛い形をした眉は垂れ下がり、口をパクパクさせている。
皆に分け隔てなく優しい炭治郎くんも困り果てた表情で、伊之助くんも流石に変な空気を感じたのか、頭に?を浮かべて私達の様子を見ていた。
私はこれ以上惨めな思いをしたくなくて、無理矢理明るいトーンの声を出した。
「あぁ、なるほどね!
そっか気付かなくてごめんね!
…行ってらっしゃい!」
八つ当たりのように善逸の背中を強めにバシバシ叩きながらそう言うと、善逸は困った顔をする。
分かっている。
私を想ってくれているからこそ、今自分は本を運ぶべきではないと…そう善逸が考えてくれている事を。
善逸は女の子好きで、可愛い子を見ると顔を赤くはするが、私が本当に嫌がる事はしない。
しかしその私に行ってこいと言われてしまって、本当に困惑している事にも気付いていた。
私が行かないでと言えば、善逸は助かるのだろうが、私の心の中は黒いものが渦巻いていて、自暴自棄になっていた。
「頼りにされてるねぇ!よっ!風紀委員!」
笑顔を貼り付けて二人を送り出す。
「小波………ぅ…うん。」
善逸はずっと眉を下げたまま、その子から本を受け取って教室を出た。
二人の後ろ姿を見たら堰き止めていた感情が溢れてしまうと思ったので、見ないように顔を背けた。
「小波…大丈夫か?」
炭治郎くんは心配そうに私の顔色を窺う。
涙がギリギリの所で零れないでいてくれる。
伊之助くんも、心配してくれているのか、強く握り締めた私の手の甲をちょん、とつついてきた。
善逸が私を大事に想ってくれているのは十分に分かっている。
善逸は私にだけ愛情を向けてくれて、そしてその与えられている愛情に満足している筈なのに、それでも彼を独占したいという、私の意地汚い我儘なのだ。
そう、こんな感情は嫉妬ですらない、我儘だ。
「うん、大丈夫、善逸は何も悪くない。あの子も悪くない。しょうがないよ。」
自分自身に言い聞かせるように頷くと、今まで落とさないように堰き止めていた涙が一粒零れてしまった。
私は慰めからも心配からも逃げるように、教室を出ていった。
私は人が居ない所、気付かれない所に逃げ込んだ。
ここは屋上手前の踊り場の隅だ。
屋上は普段立ち入り禁止になっていて、屋上に続く階段には「侵入禁止」と書かれたカラーコーンが置いてある。
私はそれを無視して階段を駆け上がってきた。
「…っ、ひっ……ぅう」
私は嗚咽を押し殺して泣いた。
体育座りで突っ伏せば、胸と腕の隙間から、床に小さな水溜まりを2つ作る。
すると、水溜まりがまだ小さいうちに、足音がこちらに向かってきた。
2段飛ばしで駆け上がってくる。
炭治郎くんかな、泣き顔見られちゃったし…。
私は階段に背を向け、できるだけ身を小さくした。
「ハァ…ハァ……小波、見付けた。」
しかしそれは善逸の声だった。
全力で駆け上がってきたせいで、途切れ途切れだった。
私が顔をあげると同時に、善逸は腰を降ろし、私を包むように抱き締めた。
元々身を小さくしていた私はすっぽりと収まってしまった。
「小波、ごめん。俺がしっかり断ればよかったのに…。
小波からでる辛い音に気付いてたのに…。
ほんとにごめんね。」
私の頭に、自身の頬を擦り寄せながら善逸は謝ってきた。
何も悪くないのに。
ただただ優しいだけなのに。
私は、もう感情を抑えられなくなってしまった。しゃくり上げながら、切れ切れに答える。
「善逸は、何も悪くないの。私が勝手に、我儘になってるだけで…だから、謝らないでよ……。
ほんと、私が悪いの。……ごめん。
…困らせちゃって、ごめんね……」
私の言葉を最後まで聞き取ると、
「全然困ってないよ。」
と優しく背中をさすってくれる。
「教室を出て少ししたら、小波の泣いてる音が聞こえてきて、あぁもう、小波が辛いのは嫌だって思って、本なんて、その辺にいた人に押し付けちゃったよ。」
あの女の子の仲間からは総スカン食らっちゃうかな。
善逸は少し笑って、宥めるような優しい声で語りかけてくる。
「俺はね、小波が何処で何してるのか、何時でも分かるんだよ。
あ、今俺の事考えてくれてるなぁとか。
でも小波は、俺がどれくらい小波の事を考えてて、好きで好きでたまらないのか、聞こえないもんね。
今だって、俺の音を聞かせてあげたいよ。」
そう言うと、善逸はぴったりくっ付いていた私達の体を少し離し、私の涙を拭った。
「小波が大好きだよ。」
そう言って善逸は私にキスをする。
善逸から振ってくる優しい言葉に、柔らかい唇に、学校というシチュエーションに、私の心臓はバクバクと大きな音を立てる。
悲しみではない涙が生理的に頬を伝う。
今の私の音も聞かれているのならばと、私は善逸の胸に手を当てた。
硬い胸からは、私以上の大きな心音が掌に伝わってきた。
あぁ、善逸も同じなんだ。
その事実が嬉しくて、善逸の心音がやけに愛おしく感じた。
私は善逸の柔らかい髪を撫でるように触れると、善逸も私の髪、肩、背中、腰を優しく撫でる。
足の間にお互いの体を挟むような体勢で密着すると、一つにくっ付いて離れられなくなるような感覚に陥る。
お互いの心音も体温も感じるように、私達は角度を変えて、何度も何度もキスをした。
─あ、チャイム鳴っちゃったね。
─へへっ、遅刻だね。
─いいのかな、風紀委員さん。
─もう少し、小波とこうしてたい。
そうだ!あえて二人で遅刻してさ、みんなに見せつけてやろうよ!
─ふふっ、いいね!