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伊之助との短い物語

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鬼滅の刃
たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
ヒロインの名前



俺の前の席には、小波ちゃんという女の子が座っている。

小波ちゃんは、真面目で、優しくて、いつも笑っていて、

勉強も得意で、でもそれを鼻にかけるなんて事は全然なくて、優しいから良く友達に勉強を教えている姿も見かける。


たまにお菓子を作ってきて、近くの席の人達にお裾分けしたりもしてて、そこにも「お菓子配る私可愛いでしょ」みたいなあざとさなんて微塵もなくて……


彼女の良さをこうして列挙してみると、なんとなく高嶺の花みたいな感じがする。


禰豆子ちゃんやカナヲちゃんとはまた違った魅力をもった子だ。


でも彼女は表情豊かで、笑う時は大きく口を開けて笑い、驚いた時には目をまん丸くして、その大きくて綺麗な瞳が零れ落ちるんじゃないかってくらい大袈裟に顔に出してくる。



だから男女問わず、彼女の事がみんな好きだった。

小波ちゃんてどんな子?と聞かれたら、全員が口を揃えて、

「いい子で面白い子だよ。」

と言うだろう。



そんな小波ちゃんと俺の席は窓際から2列目。

別に、常日頃から前の席の小波ちゃんを観察している訳では無い。


そんな事をしたらあらぬ誤解を生んでしまう。



しかし、最近彼女の様子がおかしい。


彼女は基本的に、授業中は常に黒板と先生に目線を向けながら、学習に集中している。


ただ、保健や美術、音楽等の授業は彼女にとっての息抜きなのか、時折ノートに落書きをしたり右隣の禰豆子ちゃんに何やら話しかけてクスクスと2人で笑ったりする姿も見られる。


可愛い女の子2人が、顔を見合わせて悪戯っぽく笑う姿を、1番の特等席で見られる俺はなんて幸せなのだろうとよく神様に感謝していた。



しかし、もう一度言うが、最近小波ちゃんの様子がおかしい。


国数英理社の彼女にとって必要な学習以外は、だいたい外を眺めているのだ。



初めてその事に気付いたときは、禰豆子ちゃんと何か気まずいことでもあったのかと心配になったのだが、休み時間等には禰豆子ちゃんとカナヲちゃんと3人で談笑していたので、それは杞憂に終わった。



いい意味で隙のない彼女の、ぼーっと外を眺める姿に俺は心配だ。


いや、たまには小波ちゃんだって、疲れて心を無にしたい時もあるだろう。


しかし、外を眺める小波ちゃんの心は「無」なんてものではなかった。



俺は小波ちゃんから出る音に耳を澄ました。

これは完全に俺のエゴで後ろめたい気持ちもあったが、どうしても、いつも完璧な彼女を、こんな姿にさせる原因を知りたかった。


俺は前の席の子に集中した。

小波ちゃんの音だけに集中した。




…彼女から出る音は意外にも穏やかだった。


美しいものを美しいと感じる時に出る、優しい音だった。


その音はあまりにも綺麗すぎて、切ない程だった。


温かくも冷たくもない、涙のような音だった。



小波ちゃんが泣いているのかと思った。

俺は慌てて彼女の表情に目線を移した。



そこで俺は気付いた。




ああ、外を見ているのではない、と。





彼女は左隣の伊之助をただじっと見つめていた。

外を眺める振りをして。




そうか、そういう事か。





伊之助は授業中だというのに、手を頭の後ろで組んだり、頬杖をついたり、爪のささくれを引っこ抜いたりしている。



おいおい、こんな奴がいいのかよ。

俺は誰にも聞こえないくらいの小さな溜め息を吐いた。





伊之助が、小波ちゃんの視線を感じたのか、顔を彼女の方に向ける僅かコンマ数秒前、彼女は視線を伊之助から校庭に移した。


それから伊之助と目を合わせた。


あたかも、私は外を眺めていたら隣の席の君と目が合ってしまったのよ、とでも言うように。




伊之助と目が合って、小波ちゃんはほんの僅かに口角を上げて、目線を黒板の方に移した。

その音は、悲しいくらい幸せで温かかった。







…おい、伊之助。


隣の席の高嶺の花が、いつもお前を見てるんだぞ。



気付いてるか、この音に。
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