第二章 成長
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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伊之助とは1年程、頻繁ではないが共に過ごしていた。
ずっとこんな日が続くと思っていた。
もしかしたら、伊之助は家に住み着いて、気付いたら一緒に住む家族のようになるのではないか、そんな風にまで思っていた。
しかし幼心の淡い期待は、正真正銘ただの期待で終わってしまった。
伊之助がぱったり家に来なくなって数年が過ぎた。
名前を呼び捨てに出来るようになるくらい親しくなったにも関わらず、彼の来訪はいつからか途絶えてしまった。
最初の頃は山で何かの事故にでも巻き込まれたか、野生動物に襲われたか、そんな不吉な事ばかり考えて眠れない夜が続いた。
そんな私を心配して、たか兄は山に伊之助を探しに行ってくれた。
数日探しても、彼はいなかった。彼の変わり果てた姿も見付からなかった。
たか兄とおじいちゃんは、住処を移したのだろうと言っていた。
野生動物にはよくある事だと。
伊之助を野生動物として扱う2人の言葉に、妙に納得してしまった。
納得する他に、私には何の手立てもなかった。
ただ、友達だと思っていたのは私の方だけだったのだと、その事だけは心に刺さって抜けないでいた。
伊之助と合わなくなってから、私は6歳になり、尋常小学校へ通うようになった。
通うためにはお金がかかることを知っていた私は、おじいちゃんにもたか兄にも「通いたい」などと言ったことは無かった。
尋常小学校に行かなくても、働ける場所は沢山あったし、特に自分には必要無いと思っていた。
しかし、私の6歳の誕生日の時に、おじいちゃんとたか兄が鞄をプレゼントしてくれた。
「小波も尋常小学校に通える歳になったんだ。もっともっと賢くなって、立派な大人になるんだぞ。」
たか兄はそう言って、私にピカピカの黒い鞄を渡した。
きっと高かったであろうその鞄は、実際よりずっしりと重く感じた。
私のためにそんなにお金をかけてくれるなんて、勿体ないと思った。
それに尋常小学校に通えば、毎月お金がかかる。
色々な事を考慮する余り私が返事に詰まっていると、
「何困ってんだよ。素直に喜べよ!
お前は俺と違って、賢いんだ!
胸はって通えば良いだろうが!
卒業して、いい所で働いて、そしたら俺達に楽な暮らしをさせてくれ!な!」
たか兄はそう言って、ニカッと笑いかけてくれた。
「頑張るんじゃぞ。」
おじいちゃんにも励ましてもらえて、私は嬉し涙を浮かべながら、鞄を抱きしめた。
尋常小学校では、読書、作文、習字、算術、修身などに励んだ。
初めての経験を積み重ねる度に、私は勉学が好きになっていった。
自慢ではないが、私の成績は学級内で常にトップの方だった。
小学校が終わると、私は町の甘味処で働いた。
自分にかかるお金は自分で稼ぎたいと思う気持ちからだった。
元々、甘いものを食べるのも作るのも好きだった私にとって、働いている時間は楽しかった。
そうして、勉学も仕事も充実した時間を過ごしていくにつれ、私の中の伊之助の存在は段々と薄れていった。
尋常小学校は4年間が義務教育で、その後は高等小学校となり、さらに授業料が上がる。
高等小学校に進学するのは男子が多かったこともあり、私は進学を選ばなかった。
おじいちゃん達は、遠慮しなくていいのにと言ってくれたが、私は尋常小学校で身に付けた力を生かして生きていける自信があった。
私は、いつまでも2人の脛を齧っている訳にもいかないと思っていたので、しばらくの間甘味処で働き 、自立する為のお金を貯めていた。
私の中で、おじいちゃんとたか兄は確かに家族だ。
しかし、「世話になっている」という感覚もどこか拭いきれないでいた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私がいずれ家を出て自立したい、という事を告げた時、2人はにっこりと笑うだけだった。
私は大好きな2人に支えられながら、自分の人生を歩んで行ける事に感謝していた。
「頭が上がらない」というのは、こんな気持ちを言うのだろうか。
私は幸せな日々を歩んでいた。