第六章 機能回復訓練
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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「っひぃぃぃ!!いだいいだいいだい!!
むりむり死ぬ死ぬ!!」
元々身体の硬い私にとって、柔軟は痛くて痛くて地獄だ。
涙が零れる。
「小波さん、身体硬いですね。
ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね。」
「いやいやちょっとどころじゃないよ!!
骨折れてない!?砕けてない!?」
だって、二週間以上もろくに体を動かしてないんだよ?
身体バキバキでしょ?
ウォームアップとかないわけ?
余りの痛さに、つい善逸みたいな悲鳴を上げてしまう。
なのに当の本人は、うふふあははと顔を緩めてにこやかにふにゃふにゃと柔軟を受けている。
見ているこっちが痛い体勢でも余裕そうだ。
伊之助ですら痛いと言う程の柔軟なのに、善逸はギリギリと激痛が走っていても笑い続けていた。
さすがの伊之助も感心していた。
柔軟の次は反射訓練だ。
「なるほど。
とりあえずお茶をかけられないようにして、相手にかければいいのね。」
湯呑みを持ち上げる前に相手に抑えられたら持ち上げられない、というシンプルなルールだった。
善逸も伊之助も、すごい闘志で勝利した。
善逸はアオイさんに「俺は女の子にお茶をぶっかけたりしないぜ」とか何とか言って格好付けてたけど、さっきの変態発言があったら決まらないよなぁと思った。
伊之助はアオイさんに容赦なくお茶をかけてたけど。
安定の伊之助だ。
アオイさんが可哀想だと思った。
でも残念ながら炭治郎は勝てなかった。
強いはずなのに、どうしてなのか。
それに、アオイさんには申し訳ないけど、彼女の動きはそこまで速くは見えない。
最後は私の番だ。
私は正座が出来ないので、椅子と机を出してもらって、そこで訓練を行った。
相手の湯呑みを抑えたり、持ち上げたりと、動きはややこしいが善逸達の動きを見ていたおかげでシュミレーションはできている。
「始め!」
その声と同時に私は湯呑みを持ち上げる。
抑えようとするアオイさんの手は追い付かなかった。
湯呑みを持つ私の手は宙に浮いて一瞬止まった。
まさか私は伊之助みたいに女の子にお茶をかけたりしない。
しかも日頃お世話になっているアオイさんならなおさらだ。
「…カンパーイ。」
私は湯呑みを持っている右手をアオイさんの額にコツンと当てた。
アオイさんも皆も、何が起きたか分からないと言ったような顔で呆気にとられていた。
変な空気が流れて、私は何かルールを破ってしまったかと思った。
もしかしてフライングだった?
「…え、あの、私何かやっちゃった?」
そしてハッとした炭治郎が返事をしてくれた。
「凄いな小波!一手で勝つなんて!
速くてほとんど見えなかった!」
善逸やなほちゃん達も、わーわーと私の周りに集まってきた。
「えへ…いやぁ、勝てたよ。良かった。」
「小波さん凄く速かったですね!
病み上がりなのに、さすがです!」
アオイさんにもそんな風に褒めてもらって、私は調子に乗ってしまいそうだ。
ふと伊之助の方を見ると、ぐぬぬぬ、とわなわな震えていた。
悔しいのだと思う。
仕方ない。
自分は今までアオイさんに負けていたのに、私は初めてにして勝ってしまったのだから。
私は伊之助に向けてピースをしてみた。
「チッ!次の女には小波より速く勝ってやる!!!」
伊之助は猪頭の鼻からプシューっと勢いよく息を吐き出した。
「次の女…?」
私が意識を取り戻してから、何回か見かけた事のある女の子が出てきた。
そして私は思い出す。
最終選別を終えて、私は伊之助を探すために急いで藤襲山を降りようとしていた所に、後から山の麓に到着した人だ。もう一人男の人がいた気がする。
明らかに雰囲気がアオイさんとは違う。
簡単に言うと強そう。
アオイさんに勝った善逸や伊之助でも、カナヲさんには叶わなかった。
私より速く勝ってやると豪語していた伊之助は、お茶でびしょ濡れになって今にも心が折れそうだ。
いや、折れてるか?
「えっと、カナヲさん、よろしくお願いします。」
「…うん。」
カナヲさんは何を考えているのか分からない。
そこがまた恐さに繋がる。
綺麗な顔は一切動かず、本物のお人形さんみたいだ。
私はフーっと息を吐いて、呼吸を整えた。
先程のようにはいかない。
一手で勝てるなんて思わない。
何手でも勝とう。
彼女より先に手を出せば勝てる。
それだけだ。
「始め!」
私達は攻防を繰り返す。
頭の中は真っ白だった。
何も考えず身体の反射運動に身を任せた。
何度目かの攻防の後、決着は突然やってきた。
私の湯呑みがするりとカナヲさんの手をすり抜けて持ち上がった。
しかし私達の勝負の直前に入れ直したお茶は熱々で、もちろん湯呑みも激熱だった。
湯呑みを掴んで持ち上がったはいいが、フッと指先の感覚神経が熱を感じ、脊髄が「あっちぃ!」と悲鳴を上げた。
脊髄反射ってやつ。
その瞬間私は湯呑みをぶん投げ、それと中身が宙に舞う。
割れてしまう!
そう思った私はまた反射的に宙に舞う湯呑みを掴んだ。
熱さを我慢してカナヲさんの頭の上に掲げた。
「これ…勝ちっていうかな?」
カナヲさんは驚いた表情を見せ、初めて見る彼女の感情に、やはり人形ではないのだと安心した。
「…小波さんの勝利!」
アオイさんも少し間を空けて決着の合図を出した。
良かった。
湯呑み投げるしお茶は空っぽだし…
でも一応勝てた。
というか、あんな熱湯を顔面にかけたら火傷してしまうよ。
かけなくて、かけられなくて良かったと安堵した。
「えぇぇぇ!!ちょ、小波凄いよ!!
人間業じゃないよ!!見えなかったよ!!
小波、何者なの!?
格好よすぎでしょ!!
さすが!俺の目に狂いはなかったよ!!!」
善逸は短い手腕で私の肩や腕を軽くポンポン叩いてくる。
「うん!本当に見えなかった!
凄いな小波は!
俺も頑張らないとなぁ。」
炭治郎は炭治郎で私の頭をポンポンと撫でてくる。
私が座っているから、頭がちょうど良い高さにあるからか。
しかし二人とも…さっき触るなって言ったばかりなのに…
まぁいいか。
いやらしい意味じゃないしね。
褒めてもらってやっぱり嬉しいし。
チラッと伊之助の方を見ると、ただ棒立ちしていただけだった。
先程のような悔しいという感情も感じられない。
「伊之助?」
「………」
顔も見えなければ言葉もない。
いつも素直な感情を言葉でぶつけてくれるのに、それがないと私も困ってしまう。
私は近寄って猪頭を外そうと、手を伊之助の顔に近付けた。
バシッ
伊之助は私の手を叩いて、そのまま私の横を通り過ぎてしまった。
「ちょ、お前!!
小波になんて態度取ってんだよ!!
悔しいからって、女の子の手を叩くとか最低だぞ!!」
「そうだぞ伊之助!謝るんだ!」
伊之助は二人に怒られる羽目になってしまった。
悔しいだけで、私の手を叩くだろうか…。
「うるっせぇぇ!!」
伊之助の気持ちは分からないが、それでも私は無理矢理声を明るくして言った。
そうしないと泣きそうだ。
「大丈夫だよ!全然痛くないから!
ね、ほら、訓練の続きやろうよ!!」
伊之助に手を振り払われたのは初めての事だ。
いつも私が彼に何をしようと、私の手を払う事はなかった。
強く叩かれた訳ではなく、むしろ彼にしては充分手加減していた。
それでも、叩かれた手と私の胸の辺りはジンジンと痛んでいた。