第六章 機能回復訓練
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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小波が意識を失ってから、四日が経った。腹部の切傷、肋の骨折、左足の複雑骨折、著しい体力の低下等、程度は深刻だった。
小波が意識を手放す前に、止血を行っていなかったら失血死していたという。
切り傷はもちろん、体内の出血も酷かったからだ。
生死に関わる程の容体ではなかったものの、初めの二日間は、出来る限り安静な状態で処置を受ける必要があった為に、何人たりとも小波の病室に入る事は許されなかった。
伊之助でさえも、小波の為だと思って我慢した。
三日を過ぎてからは、絶対に静かにするという約束で、病室に立ち入る事ができるようになった。
面会可能になった初日、伊之助は例の約束を守りつつ、炭治郎、善逸と共に緊張した面持ちで小波の病室へ足を踏み入れた。
小波は点滴に繋がれ、静かに眠っていた。
少しでも体力を回復しようとする身体の防衛本能か、脈と呼吸のみにエネルギーを使い、それ以外は全てシャットアウトしているようだ。
骨折した左足は少し高い位置に吊るされている。
炭治郎は苦い表情を浮かべ、善逸は泣きべそをかいている。
二日会っていないだけというのに、伊之助にとっては数ヶ月振りの再会に思えた。
血塗れで重く瞼を閉じた小波が脳裏に焼き付いて離れない時間の密度は、それ程のものだった。
伊之助は朝から晩まで小波の傍を離れなかった。
椅子に腰掛けて、小波の手を握っていた。
いつでも小波の脈を感じられるようにしていた。
(…腕がこんなに細っちくなっちまった…
こんなんで戦えんのかよ…
…でも、体はあったかくなって良かった…)
あの戦いの後、隠が来るまで冨岡の言う通りに小波の応急処置を行った伊之助は、段々と弱くなる脈を感じながら冷えていく小波の身体を抱いていた。
小波を失う恐怖に怯えるその時と比べたら、今の状況は幾分か気が楽だ。
伊之助は、小波のしっかりした脈を感じながら、意識が戻るのを待ち続けた。
「伊之助、小波の具合はどうだ?」
「ふふっ…見てこれお饅頭、取って…貰ってきたよ。伊之助も食うだろ?」
時折炭治郎が様子を見に来たり、善逸が何処かから拝借してきた食べ物を差し入れしに来たりした。
「おう。あー、全然目が開かねぇ。でも、多分良くなってる感じは…する。」
伊之助は善逸から饅頭を受け取りながら答えた。
そして"饅頭"という名を小波に教えてもらった遥か昔の出来事を懐かしんで胸がピリリと痛くなる。
(…なんかチクッとした。)
胸の辺りを抑えて首を傾げる伊之助。
炭治郎と善逸もつられて首を傾げる。
「どうした?」
「…わかんねぇ。なんか変な感じだ。」
「もう…お前が変な感じなのはずっとだろ!
しおらしいお前なんか、ほんと女みたいで気持ち悪いよ!!」
確かにここ最近の伊之助には全く覇気はない。
小波が目覚めた時、一番に自分の顔を見せたい為に、猪頭も被らずに大人しい伊之助は女の子に見えなくもない。
「はぁ!?うるっせえお前!!
静かにって言われたから静かにしてるだけだわ死ね!!」
「おーおー、久しぶりにイノ子ちゃんから伊之助に戻って良かったよ!」
「こら二人とも、うるさいぞ。小波が起きちゃうだろ。」
そういいつつ、久々に元気な伊之助と善逸のやりとりに安堵する炭治郎。
「小波〜、早く起きてくれよぉ〜。
伊之助が本当に女の子になっちゃうよー?」
「なるわけねーだろ!!女になったら山の王じゃなくなっちまう!!」
山の女王でもいいんじゃない?と半ば呆れ気味の善逸と炭治郎が小波の病室を後にしようとした時、村田が「よっ。」と入ってきた。
「小波さん、まだ目が覚めないのか。」
「はい、良くはなってると思うんですけどね。」
炭治郎は善逸に村田の紹介をすると、村田が持ってきた花を花瓶に生けた。
村田は那田蜘蛛山の任務について柱合会議に呼ばれ、鬼殺隊員の士気が下がっている事、命令に背く者がいた事等を問いただされたそうだ。
「そんな事俺に言われてもって感じだよなー。
でも、小波さんは優秀な鬼殺隊員になるよなー、絶対。俺にまで指示出してきてさ、なんかもう、格好良かったわ!」
普通に悔しいけどな、と村田は炭治郎に笑いかけた後、小波に目を向ける。
すると、そこに蟲柱の胡蝶しのぶが笑みを浮かべながらやって来た。
「あらぁ?何のお話ですか?」
こんにちはー、としのぶが軽いノリでやって来れば、村田は取り乱しさようなら!と立ち上がる。
「お、俺はそろそろ行くな!小波さんも、きっともうすぐ目を覚ますさ。そしたらまた来るよ。お前らもお大事にな!」
村田は尻尾を巻いて小波の病室を後にした。
伊之助は厠へと向かい、炭治郎と善逸は村田としのぶを交互に見やってから、視線をしのぶへと移し、その後の話を待った。
伊之助が小波の病室へ戻ると、そこに炭治郎達の姿はなかった。
伊之助は定位置に腰掛け、小波の手を握る。
饅頭を腹に放り込んで満腹中枢は刺激され、伊之助をうたた寝へと誘う。
(小波……もうすぐだよな
早く俺の名前呼んで、笑えよ)
伊之助は小波の白く柔らかい頬に手を添えて、額と額を擦り合わせた。
小波の匂いが鼻をくすぐって、また胸がツンとする。
しかし嫌な感じではない。
むしろ心地良さの中、伊之助はベッドに突っ伏して眠りの中に入っていった。