第一章 出会い
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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「ツヤツヤのドングリが好きだ!」
その勢いの良さに、彼の本気が伝わってきた。
ツヤツヤのドングリ…ただのドングリでは駄目なんだな。
確かに、私も大きなドングリや帽子がついたドングリを見付けると嬉しくなる。
いのすけくんも同じなんだと親近感が沸いた。
恐らくいのすけくんの方が、形の良いドングリを見付ける事が得意だろう。沢山落ちている場所も知っていそうだ。
私はいのすけくんがドングリを探す姿を想像し、その隣に自分の姿も写した。
そこへ連れて行って欲しいな、一緒にツヤツヤのドングリや綺麗な花を探したいな、などと私の中には願望が芽生えた。
おじいちゃんやたか兄に迷惑をかけないよう、わがままは我慢してきた。
〜したい、〜に行きたい、というお願いもあまり言ったことはない。
しかしここに来て、初めての同年代で、私の知らない事を沢山知っていそうな子と知り合って、私の興味も広がっていった。
そう思ったら、私はすぐに言葉にしていた。
「いのすけくん、私も一緒に山に行ってみたいな。おじいちゃん達が、いいよって言ってくれたら、連れて行ってくれる?」
いのすけくんは、その言葉の意味を少しずつ咀嚼しながら考え、呑み込んでいった。
そして胸を張って、
「おう!俺の縄張りだけど、お前は許す!」
快い返事に私は満面の笑みで感謝を伝えた。
おじいちゃんとたか兄が帰ってきたら、一緒に山に遊びに行っていいか聞いてみよう。
それまで、どうやっていのすけくんをここに留めさせようか…と考えていた。
そして、先程閃いた事を思い出した。
「いのすけくん、お饅頭食べる?」
おじいちゃん達が、私が留守番をする代わりにと、いつもより豪華なおやつを用意してくれていたのだ。
私1人のために、お饅頭を4つもお皿に乗せて置いておいてくれていた。
帰りが遅くなり、お腹が空いてしまわないようになのか、それとも私がいのすけくんにお裾分けするのを見越していたのか…だとしたらおじいちゃん達はエスパーだ。
そんな事を考えながら私はお饅頭を縁側まで持って来た。
すると、「お饅頭」の言葉に「?」を浮かべていたいのすけくんが、それのことか!と言いながら、縁側まで走ってきて私の隣に腰掛けた。
皿を間にして座り、私達はお饅頭を頬張った。
猪頭をずらしたいのすけくんの顔をまじまじと見るのは失礼な気がしたので、お饅頭を取る時に、チラッと覗くように見てみた。
いのすけくんは甘いお饅頭に夢中だったが、私の視線を感じたのか、顔を上げるので私達は目が合ってしまった。
彼にとっては何ら変わり映えしない私の顔だが、私にとっては初対面のようなものだ。
彼の、穏やかな海のような、翡翠色の瞳に一瞬見とれてしまって、少し小っ恥ずかしい気持ちになった。
それを誤魔化すかのように、
「美味しい?」
と尋ねてみた。
「うめぇ!ずっと食ってみたかったんだ!これ!!」
いつものいのすけくんのまま、そう答えてくれたので、私の先程の、くすぐったい気持ちはすぐに無くなっていった。
「良かった!おまんじゅうって名前なんだよ。中には、小豆でできた、あんこが入ってるんだよ。」
またいつか、いのすけくんとお饅頭を食べられる日を期待して、この白くて丸い食べ物の名前を覚えてもらおうと何度も強調して伝えた。
すると、いのすけくんが何か思い付いたように、急に姿勢を正した。
「お前の名前は何なんだ?」
お饅頭のついでにはなってしまったが、いのすけくんのおかげで、私は自分の名前をまだ告げていなかったことを思い出した。
私にも名前があるのだと、そう気付いてくれた事が何より嬉しかった。
「私は、大波小波。下の名前が、小波、だよ。」
いのすけくんが聞き取りやすいように、ゆっくりと、何回か名前を告げると、大波小波…大波小波…小波…小波…と何度も繰り返した。
お饅頭の名前を教えた時とは比べ物にならないくらい、真剣に覚えようとしてくれた。
その姿が何とも可愛らしく、とても嬉しかった。
私は「ニコニコ」と顔に書いてありそうな表情で、私の名前を呟く彼を見ていた。