第五章 那田蜘蛛山
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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しばらく走ると川が見えた。
川を渡るか、渡らずに上流を目指すか迷いつつ走っていると、上流の方から、木が薙ぎ倒されるような衝撃音が聞こえてきた。
その音の方を目指して走ると、伊之助の姿が見えた。
近くに鬼はいないようだ。
しかし、炭治郎もいない。
「伊之助!」
「小波!怪我はねぇか!!」
「ありがとう大丈夫!伊之助の方が酷い怪我じゃん!!
手当するから腕出して!
それから炭治郎は!?」
私は羽織から消毒液を出しながら伊之助の腕を掴むと、伊之助はブンブンと首を四方へ向け、見渡しながら私の手当しようとする手を制した。
「怪我なんかしてねぇ!!
それより、鬼が消えやがった!!
俺様にビビって、どっかに隠れやがったんだ!!
んで、権八郎はさっきそいつに遠くに飛ばされちまった!!」
伊之助はまさに今この瞬間も鬼と対峙中である事が分かり、手当は一旦諦め、私も身を引き締めた。
いつどこから襲ってくるか分からない相手の気配を感じようと集中した。
伊之助は敏感な触覚をフル稼働すると、頭上に気配を感じたらしい。
「そこかぁぁ!!逃げてんじゃねー!!」
「うわぁ…顔に…毛が生えてて蜘蛛っぽさ出してきたわー。
歯とかも…牙でかっ!歯並び悪っ!
てか普通に気持ち悪っ。」
想像以上の不気味さに、私は顔を顰めた。
怖いとか、危険だとかではなく、単純に気持ち悪かった。
そう、ゴキ〇リを見た時の感覚だ。
鬼をゴキ〇リと例えてしまったら、逆にゴキ〇リに失礼か。あの茶色い昆虫だって、懸命に生きているのだから。
この鬼の風貌が蜘蛛のようだから、この山が那田蜘蛛山と言われているのだろうか。
だとしたらこの鬼が親玉?父親だけに?
私は先程の少年のような鬼が気にかかった。
「ん…なんか…ちょっと様子がおかしくない…?」
鬼はブルブルと身震いをしている。
「フハハ!!俺様に恐れをなして震えてやがる!!」
「いや違うと思う。」
その鬼の重量は私達の4~5倍は優に超えていそうだが、器用に木に登り枝に乗っている。
私達に見付かっても逃げも隠れもしない様子を見ると、伊之助に恐れをなしているという事は有り得ない。
私は嫌な予感しかしない。
なにか隠し玉でも持っているのだろうか。
私は刀を鞘から出し、構えた。
すると、その鬼の表面がズルズルと剥けていった。
「…は?」
「…え?」
溶けたのではなく、剥けたのだ。
昆虫が脱皮するかのように…蜘蛛って脱皮するんだっけ…
「脱皮した!気持ち悪っ!」
木はその巨体の重さにメキメキと音を立てて、今にも折れてしまいそうだった。
「お前さっきから気持ち悪ぃしか言ってね…
……え。」
「…え?」
鬼はドシンと音を立てて、その巨体で木から降りてきた。
その重さによって、鬼の両足は地面に少しめり込んでいる気がする。
「こいつ、さっきよりでけぇ。」
「え、そうなの。」
私は木に登っている姿しか見ていないので比較できないが、あの伊之助が呆気にとられているという事から、かなり大きくなったのだと思った。
重量でいったら、私達の10倍以上はあるかもしれない。
私が再び刀を構え直した瞬間、鬼は拳を振りかぶって伊之助を狙う。
「伊之助!」
私が叫ぶのと伊之助が木に叩きつけられるのは同時だった。
この巨体のどこにその俊敏さを隠しているのか。
その重量が拳に伝わり、相手の体に叩きつけるエネルギーはとてつもなく巨大だ。
海の呼吸 参の型……津波喰い!!!
私は自身の刀を、渾身の力で斜め方向に振り降ろした。
それは鬼の右脹ら脛を斬りつけたが、想像以上に硬く、思うように刃を通してくれなかった。
技の勢いで鬼の脹ら脛の五分の四程度は斬れたが、私は歯を食いしばって刀を前へ押しやり、後は力技で刃を通した。
「おまっ…斬れた!?
……っ!危ねぇ!!」
伊之助は叩きつけられた体を起こしながら何か言っていたが、鬼の咆哮で聞き取れなかった。
「ッグォオオオ!!!」
刃が通って、一瞬気を緩めたのが失敗だった。
私は自身の右下脇腹に、鬼の拳を食らってしまった。
伊之助同様、木に叩きつけられる。
受身は取れたが、拳を食らった右側の肋が折れ、内臓を傷付けた。
さらに鬼が殴り倒した木が降ってきて、私の左足も潰した。
「っぐぅ……」
全身の痛みに耐えながら、私は鬼の足元を見た。
刃は確実に足を切断したはずだ。
しかし、五分の四程斬った所で刀の振る速度が落ちてしまい、脅威の再生スピードで私に残りを斬られながらも、五分の四の切り口を繋ぎ合わせてしまったのだ。
伊之助は鬼の攻撃を身を翻して躱すと、鬼の首を狙って技を出した。
しかし、刃は食い込む所か、虚しい音を立てて折れてしまった。
恐らく首が一番硬いのだろう。
脹ら脛は刃を通したが、同時に再生されてしまった。
首も同じ結果になる事は目に見えていた。
しかし考えるより前に、私は木の下敷きになった左足を這い出さねば次の手は打てない。
痛みに耐えながら自身の左足を引っ張るが、ビクともしなかった。
刀さえ手にしていれば木を切る事ができたのだが、私の刀は寸でのところで届かない場所にある。
「オ"レの家族に近付くな"ァァ!!!」
刀を手放すなんて剣士失格だ、と自身を責める思いが込み上げた時、今まで雄叫びや咆哮しか聞けなかった鬼の、明確な言葉を耳にした。
顔をそちらへ向けると、伊之助が首元を掴まれ、地面から浮いていた。
鬼は伊之助の首を潰す気だ。
私はミシミシと自身の骨が潰れるのを無視して、両腕を使って左足を引き抜こうと藻掻く。
伊之助も鬼に首を絞められ、苦しそうに藻掻いている。
「俺は死なねぇぇぇぇ!!!」
伊之助は叫びながら、2本の刀を鬼の首元に突き刺した。
しかし、硬い首を切り落とす事はできず、首の痛みに一瞬苦しんだ鬼は、伊之助の首を絞める力を強めた。
伊之助の被り物から、大量の鮮血が溢れ出す。
…ドクンッ
私の中で、自我が崩壊する音がした。