第五章 那田蜘蛛山
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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山の中は獣道すら見付からないほど、鬱蒼と茂っていた。
「チッ!蜘蛛の巣だらけじゃねーか!邪魔くせぇ!!」
「確かに…蜘蛛の名前が入る山だけあるね…。
でも、伊之助が払ってくれるお陰で、私達は大分歩き易いよ。」
伊之助の言う通り、彼方此方にかかる蜘蛛の巣が本当に鬱陶しい。
先頭の伊之助は前を見、二番目の私は左右前方を見て、負傷者や敵を確認しながら歩く。
私は伊之助と炭治郎を追うように最後尾にいたのだが、炭治郎が間に入れと背中を押してくれた。
炭治郎は無自覚に紳士的な行動が出来るので、世間の殿方にも見習って欲しいところだ。
「伊之助、小波」
「何の用だ!」
「ん?」
炭治郎は歩みを止めて私達を呼んだ。それにつられて、私達も足を止めた。
「ありがとう。
二人も一緒に来ると言ってくれて心強かった…。
山の中からきた捩れたような…禍々しい匂いに俺は少し体が竦んだんだ。
ありがとう。」
恥ずかしげもなく、包み隠さず気持ちを伝えてくる炭治郎。
私だって体が竦んだ事も、伊之助と炭治郎が居てくれて心強い事も同じなのに、わざわざ改まって感謝を伝えようとする炭治郎に胸が熱くなった。
「そんな…私も同じだよ!二人が居てくれて良かった。
こちらこそ、ありがとうだよ!」
私は炭治郎の肩をバシバシ叩きながら、うんうんと力強く頷いた。
伊之助は何も返事をしないが、炭治郎の言葉はしっかり届いている様子だった。
猪頭のせいで、何を考えているのかはハッキリとは分からないが、炭治郎の方をじっと見つめている事はなんとなく分かる。
ボーッと何かを思い出すような…以前にも似た感覚を感じた事があるのだろうか?
伊之助を纏う空気が、若干緩んだ気がした。
しかし、炭治郎が遠くに鬼殺隊の隊士を見つけると、私達は急いで駆け寄った。
その隊士は緊急の手当が必要な怪我はしていないようだった。
私達の階級が癸である事が分かると、一層青ざめた表情をした。
「なんで柱じゃないんだ…。
癸なんて、何人来たって同じだ…!意味がない!」
確かに、この隊士は最低階級の私達よりは上の階級である事は推測できる。
この人が恐怖で身を隠すくらいなのだから、きっと私達では力不足だと感じるだろう。
しかし、それを聞いた伊之助がどう出るか…
殴るか蹴るか…
…ゴッ!!
「うるせぇ!!意味のあるなしで言ったら、お前の存在自体意味がねぇんだよ!
さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が!」
…殴ったか。
正直、「来たって意味がない」とまで言われ、私だって何も感じていないと言ったら嘘になる。
人を殴っていい理由にはならないが…
状況を説明して欲しかったのは、私も同じ意見だったので、その先輩の言葉を待った。
「鴉からの司令で、十人の隊員がここに来た。
山に入ってしばらくしたら、隊員が隊員同士で斬り合いになって………!!」
そこまで言った時だった。
茂みの奥から、数人の隊員がゆらゆらと出てきて、何のモーションも無しに襲いかかってきた。
私は隊員の攻撃を避け、峰打ちで刀を弾き飛ばした。
距離をとって隊員達の様子をよく見てみると、その人達は意識の無い者ばかりだった。
既に亡くなっている者もいて、何かに操られているとしか思えなかった。
「コイツら全員馬鹿だぜ!隊員同士でやり合うのは御法度だって知らねぇんだ!!」
「違う!何かに操られてるんだ!」
隊員同士でやり合うのが御法度なのを知らなかった伊之助が異常なだけで、普通はそんな事は当たり前に把握している。
炭治郎も私も、打開策を見つけようと隊員達を分析した。
そして、私は山に入る前に、何かに引っ張られるように飛んでいった隊士を思い出す。
閃くより前に、身体が動いていた。
私は操られている隊員の頭上を刀で空振りした。
炭治郎も私と同じ行動をとっていた。
すると、私と炭治郎に襲いかかっていた隊員は、それぞれ地面に崩れ落ちた。
伊之助も仕掛けにすぐに気付いたようだ。
目を凝らして見てみると、隊員の背中には細く透明な糸が繋がっており、その糸は私に切られた事で宙を舞っていた。
そして糸は、白く小さな蜘蛛が這って、繋げる事も分かった。
「鬼が蜘蛛を使って、糸を繋げて操ってる!
苦しむ人を無理やり動かすなんて……許さない!!」
外道だ…!…私は怒りで頭がおかしくなりそうだ。
そしてそれは皆同じ気持ちだった。
「よし!!じゃあその鬼をぶった斬ってやる!!」
「でも!この隊員達はどうするんだ!!」
「だーっ!!権八郎!お前うるっせー!前に進めねぇじゃねーか!!」
いくら隊員の糸を切っても、操っている鬼を討たなければ何の解決にもならない。
「伊之助、小波!もし、鬼の位置を正確に把握する何らかの手段があるなら、協力できるか!?」
「ごめん!私はない!無念!」
もちろんそんな手段を持っていたら直ぐにやっている。
…しかし、私には鬼の位置を把握するどころか、伊之助や炭治郎のように鬼の気配を察知する事もできない。
でも、伊之助なら…
「僕達家族の静かな暮らしを邪魔するな」
その時、頭上から少年のような声が聞こえてきた。
白い髪、白い肌、白い着物の少年のような鬼だ。
伊之助がその鬼に斬りかかるが、高い位置の蜘蛛の巣の上に立っており、届かない。
その鬼は「家族」といった。
複数いるという事が分かる。
急がなければいけない。
「伊之助!」
「あーあーあー!!分かったっつうの!!」
伊之助は刀を地面に突き刺し、獣の呼吸を使って神経を研ぎ澄ます。
私は伊之助に襲いかかろうとする隊員達の糸を切っていった。
「見つけたァ!そこか!!」
そして、伊之助は鬼の位置を把握する事ができた。
「伊之助!炭治郎!糸を操る鬼は任せる!!ここは私と、えーっと…」
「村田だ!」
「村田さんで何とかするから!」
私の長い刀は糸を切るのに都合が良かった。
また、伊之助達が鬼を討った後に、この人達を手当するのも私の役目だ。
私はここに残る事にした。
「はぁぁ!?それじゃあお前を守れねぇ!!
小便漏らしに小波を任せられっか!!
小波も来い!!離れんな!!おい!!権八郎離せ!!」
伊之助の嬉しい言葉に、一瞬胸の辺りがきゅっとした事は今はしまっておこう。小便漏らし発言に吹き出しそうになった事も村田さんには内緒だ。
「伊之助!私は大丈夫!!多分、鬼は1人じゃない!!私も後で追い付く!!」
「誰が漏らしたクソ猪!!とっとと行け!!」
「すまない!小波、村田さん!先に行きます!蜘蛛に気をつけて!!」
伊之助は炭治郎に引き摺られるようにして、二人は先に進んだ。
「二人も、無理はしないで!私が処置しきれない怪我したら許さないから!!」
私は村田さんと協力しながら、ひたすら刀を振った。
村田さんに蜘蛛がついたら私が糸を切り、私に蜘蛛がついたら村田さんが切ってくれた。
「守るとか離れるなとか…君らそういう関係なの…?あの猪と…?」
「え?そういう関係ってどういう関係です……かっ!!
というか、集中してください!!
この人達はもうこれ以上動いて欲しくないんです!!」
村田さんの質問の意味が理解できず、理解する為の余裕もない私は、生意気にも先輩に苦言を呈してしまった。
しかもさっき、ここに残る事も私が先輩に指示した気がする…後で謝ろう。
今は、伊之助達が本体の鬼の首を斬るまで隊員達の動きを封じる事に集中した。