第五章 那田蜘蛛山
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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伊之助達が回復するまで、私の任務は五度あった。
私の戦闘スタイルは、あくまで援護と救護である為、皆が心配してくれるような怪我はほとんどなかった。
伊之助は、私が帰る頃には必ず門の外にいて、出迎えてくれる。
「おっせーぞ!!怪我してねぇだろうな!!」
そして私の全身をくまなくチェックして、怪我の有無を確かめるのだ。
「こんなに足出してたらすぐ斬られちまうだろ!!」
「うぇっ!?ちょっ!!こらっ!!」
スカートで見えない部分の怪我を確認する為に捲り上げて来た時には、頭頂部を手刀で叩いた。
「レディの肌を晒すんじゃない!
そしてじろじろ見るんじゃない!!」
「ってーな!!なんでだよ!!見ただけだろ!!」
「それがだめなんじゃい!!!」
「じゃあ怪我はねぇのかよ!!」
「ないよっ!!心配ありがとっ!!」
下着は見えないようになってはいるが、人間としての常識を覚えさせるためにも私は伊之助を叱った。
…心配してくれるのは、もちろん嬉しいが。
それでも、血気術を使う異形の鬼と出くわした時は、さすがに切り傷を作ってしまった。
その日藤の家に帰ると、伊之助は怒鳴り、善逸はギャーギャー騒ぎ、炭治郎は二人を宥め、一大事になってしまった。
「おい小波てめぇ!!なに怪我してんだァァ!!!血ぃ出てるだろうが!!」
「うわぁぁ!!!小波から血が!!
ちょっとなに怪我してんの!血が出てるよぉぉ〜!!治る!?ねぇそれ治るよねぇ!?」
「伊之助!善逸!小波だって剣士なんだから、怪我は付き物だ!あまり小波を責めるんじゃない!」
…なんとも申し訳ない気持ちになり、私はその場を炭治郎に任せて、医者に手当てをしてもらった。
縫うほどの怪我ではなかったので、自分でも処置出来たのだが、医者に見てもらえと伊之助と善逸がうるさ…心配してくれたので、そうさせてもらった。
それ以降は、今まで以上に怪我に気を付けるようになった。
そもそも私は、医療行為と戦闘を兼ねる数少ない隊員であるため、自身は倒れてはいけないという事を師匠に叩き込まれていた。
改めてそれを思い出すことができたので、結果的には伊之助達に感謝している。
そんなこんなで歳月は経ち、伊之助達は皆、無事に完治した。
すると直ぐに、炭治郎の鎹鴉が任務を伝えに来たので、私達は支度を整え、お婆さんに切り火を打ちかけてもらい、藤の家紋の家を後にした。
「どのような時でも、誇り高く生きてくださいませ。
ご武運を…。」
誇り高く…お婆さんの言葉を胸に、私は炭治郎、善逸の後に続いた。伊之助はほんの少しだけ、お婆さんの方を見て何か考えていようだが、直ぐに踵を返し私達の後ろを走った。
「誇り高く?ご武運?どういう意味だ?」
伊之助が後ろから大きな声で尋ねてきた。
先程の、お婆さんを見つめる余韻はこの事を考えていたのだと分かった。
しかし、なんと説明すると伊之助に伝わるかが悩ましい。
私が、んんん…と考えあぐねていると、炭治郎が口を開いた。
「改めて聞かれると難しいな…
自分の立場をきちんと理解して、その立場である事が恥ずかしくないように正しく振る舞うこと…かな。
それから、お婆さんは俺たちの無事を祈ってくれてるんだよ。」
炭治郎の模範解答に私は舌を巻いた。
素直に天晴れと思った。
伊之助がそれをすんなり理解するかどうかは別として、伊之助ではない人に同じ事を尋ねられたら、炭治郎のこの回答を受け売りさせてもらおうと思った。
「その立場ってなんだ?恥ずかしくないってどういうことだ?正しい振る舞いって具体的にどうするんだ?」
「…」
「なんでババアは俺達の無事を祈るんだよ。何も関係ないババアなのになんでだよ!ババアは立場を理解してねぇだろ!」
「…」
炭治郎の模範解答も残念ながら伊之助の理解には届かず、矢継ぎ早に更なる質問を重ねてくる。
伊之助のババア呼ばわりが癇に障ったのか、多くの質問から逃げようとしてか、炭治郎は走る速度を上げた。
私は少し速度を下げ、伊之助の隣を走りながら自分なりに答えてみた。
「私達は鬼殺隊だからさ、鬼を討って人々を守ってくださいねって事を伝えたかったんじゃないかな。
それと…お婆さんは私達を大切に思ってくれてるんだよ。
だから無事でいて欲しいって言ってくれたんだね。私の考えだけど…
というか、炭治郎、随分進んじゃったよ?」
「大切だと無事でいて欲しいのか…」
伊之助はそう呟いて私の言葉を飲み込もうとしてくれている様子だった。
私達は善逸を追い抜いて、炭治郎に追いつこうと速度を上げた。
任務地の山に近付くと、善逸は道の真ん中に綺麗な体育座りを決め込んでしまった。
そしてハッキリとした口調で意思表示をしてきた。
「ちょっと待ってくれ!目的地が近付いてきてとても怖い!!」
確かに目の前の山からは、私でも分かるようなおどろおどろしい空気が漂っている。
五感の冴えた3人ならば、より一層恐怖感というものを感じるだろうと思う。しかし伊之助には善逸の行動も思いも理解出来ないようだ。
「何座ってんだこいつ…気持ち悪い奴だな」
「お前に言われたくねーよ猪頭!!
気持ち悪くなんてない!俺が普通でお前らが異常だ!」
善逸の言葉も分からなくもない。
確かに、正直に言えば私も少し怖い。
しかし、怖いから行かないという選択肢は、私達鬼殺隊には存在しない。
善逸もそれは分かっているとは思うのだが…それでも足が竦んで動けなくなってしまうというのは人間としては普通の事だと思う。
恐怖を感じていない伊之助と、恐怖に負けない炭治郎が逞しすぎるのだ。
先に進みたい伊之助、炭治郎と、震える善逸との間で困惑していた時、私は背後に人の気配を感じた。
「たす…たすけて…」
そこには鬼殺隊の隊服を着た隊士が、血まみれで倒れていた。
手には刀を持っており、私達よりも先に鬼の討伐に来たのだと思われる。
「鬼殺隊員だ!何かあったんだ!!大丈夫か!どうした!」
「酷い出血ですよ!早く止血しないと、手遅れになりま……!?」
炭治郎、伊之助、私が駆け寄ろうとした瞬間に、その隊士は一瞬で空中に飛び、遠ざかってしまった。
決して隊士の意思でそうしたのではなく、何かに引っ張られているような感じがした。
「繋がっていた…俺にも!たすけてくれえ!!」
繋がっていた…やはり何かに引っ張られて山に引き摺り込まれてしまったのだ。
重い空気に包まれる中、炭治郎は1歩前に出た。
「俺は…行く。」
重く、覚悟を決めた1歩だった。
しかし、その1歩を軽々と越えるように、伊之助は刀に手を添えながら、炭治郎を押し退けてずいと前に出る。
「俺が先に行く!お前はガクガク震えながら俺の後ろをついて来な!!
腹が減るぜ!!」
「腕が鳴るだろ……」
伊之助の堂々たる言い間違いと、善逸の震えながらもツッコミを忘れない姿勢に、私自身の恐怖は8割方減っていた。
確実に危険な鬼が存在する山に恐れもせず立ち向かおうとする伊之助の背中は、鬼殺隊として"誇り高い"姿だと思った。
「もちろん私も行く!怪我人が沢山いるはず!」
山の中に怪我をした隊士が多数いる事は推測できた。
善逸には、本当に申し訳ないと思ったが、私も遅れを取らないよう二人の後をついて行った。