第一章 出会い
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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後日、いのすけくんのお包みの名前の裏には、生年月日も書かれていたことが分かった。
私達は1年のほとんどは同じ歳だったが、数ヶ月だけ、私が年上になる期間があった。
お包みに名前や生年月日を書き記したのは、いのすけくんの親だと思われるが、彼が何故一人で山にいるのかを知る術はなかった。
また私自身も、訳ありでこの家に住まわせてもらっている身なので、人の生い立ちをとやかく言うつもりもなかった。
たか兄の話によると、私の家は私がまだ生まれて間もない時に鬼に襲われたらしい。
当時私は眠っていて、その悲惨な出来事に気付かなかった。
私の親は、私が起きた時に泣き声が漏れないよう、私をお包みでぐるぐる巻きにして、押し入れに寝かせた。
藤の花の香袋も添えてくれたおかげで、私は一人、幸運にも助かったのだ。
…いや、「運」ではない。私の両親が命懸けで私を守る施しを行ってくれたから、今、私は生きているのだ。
鬼に襲われた翌朝、親戚にあたるおじいちゃんとたか兄が様子を見に来た時、私は押し入れの中で泣いていたそうだ。
暗闇の恐怖か、家族を失った事を感じ取っていたのか…ただただ声を張り上げて泣くことしか出来ない私を、たか兄は抱き上げ、おじいちゃんと3人でしばらく泣いていたという。
家族を失った私は、おじいちゃんの家で育ててもらってきた。
家族を失ったといっても、両親の記憶がない私にとっては、おじいちゃんとたか兄が私の父であり母であり兄だった。
私にとっては、その輪の中にいのすけくんを加えることはさほど難しいことではなかった。
ある日、私は一人で庭に咲く百合の絵を描いていた。
その日は、おじいちゃんが町の医者に体を診てもらう日で、たか兄も付き添いで不在だった。
定期検診というものらしい。
そんな事情を知らないいのすけくんは、いつものように家の庭に現れた。
しかし、いつもの縁側と雰囲気が違うことを感じた彼は、茂みの影から私の様子を窺っていた。
それに気付いた私は、以前の私達と立場が逆転している事に笑い出しそうだった。
しかしここで笑ってしまったら、折角のこちらへの興味に水を刺すと思い、それを必死に堪えた。
なるべく刺激を与えないように、道端で出会った野良猫に話しかけるように、静かにそして穏やかに伝えた。
「いのすけくん、こんにちは。今日ね、おじいちゃんは家にいないんだ。おじいちゃんに会いに来たんだよね。」
それを聞き、彼はそのまま姿を消すと思ったが、以前聞いた、いのすけくんの声を思い出し、返事が返ってくることに僅かな期待を抱いていた。
去りも話しもしない彼と向かい合って数秒経ち、私は無意識に首を傾げていた。
いのすけくんは何やら言いたげで、もぞもぞと動いている。
あっ、と閃き、私は自分のおやつを取って来ようとしたその時、
「お前は、なにしてるんだ?」
という短い返事が返ってきた。きっと、先程の沈黙は、私への言葉を一生懸命探していたのだと思った。
その「おじいちゃん」に用がある訳でもなく、ただふらっと来てみただけで、あわよくば何か食べ物を貰えるのではと淡い期待を抱いて覗いてみたのだ。そしたらお前がいて、おじいちゃんに用か、と聞かれ、否定も出来ないが訂正をする言葉も見つからない…
といったところか。そして今、この返事に至ったのだということが推測できた。
町で出会う、私の生い立ちを知る大人達は、いつも同情の言葉をかけてくる。しかしその中身が空っぽである事に気付けるようになったのはいつだったか。私は恐らく、同年代の子供よりも、相手の心中を察する事が得意だろう。比べたことはないけれども。
いのすけくんのその言葉は、おじいちゃんでもたか兄でもなく、私の事を尋ねるものであった事に少し驚いた。
「百合の花の絵を描いてるの。その白い花。毎年咲くんだよ。可愛いよね。匂いも好きなの。」
自分に興味を持たれるという事に嬉しさを感じたのか、少し饒舌気味になってしまった。
「お前、花が好きなのか?」
いのすけくんはまた尋ねてくれる。
「うん。花、好き。可愛いし、綺麗だし。いのすけくんは花、好き?」
彼の事を知ろうと、質問返しだ。
「かわいい?きれい?花はかわいくて、きれいなのか。」
うーん、わかんねぇ。と腕を組み、首を大きく傾げながらそう答える。その仕草がたか兄に似ていて可笑しかった。
本当に分からないんだ、男の子にこの質問は失敗だったと少し後悔した。
「いのすけくんは何が好き?」
そう尋ねると食い気味に、
「俺はツヤツヤのドングリが好きだ!」
と叫ぶように答えたのであった。