第四章 鼓屋敷
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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小波や伊之助が屋敷内の部屋を移ること、3日と数時間が経った。
移ると言っても、鬼の血気術によって勝手に部屋が変わる仕組みである。
しかしここに来て、不規則に鳴っていた鼓の音がぱたりとしなくなった。
(伊之助が屋敷の鬼を倒したのかな…)
小波は自らの体力の限界を感じながら、外に出る手段を考えていた時だった。
「任務完了!任務完了!小波、おつかれさまァー!」
鎹鴉のクロがどこからともなく現れた。
「ぅわっ!びっくりした…そっか、やっぱり伊之助が倒したのね。流石だねぇ。」
小波は素直に感心して、外に出ようと屋敷の中をうろつき始めた。
いや、彷徨っていると言った方が正しいだろうか。
「いやちょっと待って、さっきこの部屋来たよね…あれ、この部屋とあの部屋は繋がってて…あれ、右に曲がった筈だよね……ぬぬぬ。解せぬ。」
小波は方向音痴だった。
本人も自覚している為、外に出ようとした時には既に嫌な予感はしていた。
とりあえず小波は外に出られれば何でも良かった。
しかし、縁側だろうが小窓だろうが、外と隔たっている所を探すのにも一苦労だった。
そもそも自分が1階に居るのか2階に居るのかさえ分からなかった。
「はっ!あそこ、光が漏れてる!」
小波はやっと光の漏れる雨戸を見付けた。それを両手で勢いよく開ける。
「外だー!出られたー!」
まず、小波の目に入ってきたのは3日ぶりの青空だった。
そして次に目に入ってきたのは白目を剥いて倒れる伊之助、伊之助と対峙するように立つ炭治郎、そして怯える善逸だった。
さらに小波の知らない少年少女も3人見えた。
「え、なに、どーゆー状況?」
小波がいた場所は、2階の縁側だった。
その突然の謎の状況に、一度は思考を停止して顔を顰める小波だったが、炭治郎の自分を呼ぶ声で直ぐに戻った。
「おーい、小波!小波も屋敷の中に居たんだな!」
「炭治郎ー!久しぶり!本当に会えたね!
ちょっと待って、降りるねー!」
そう言って小波が柵を飛び越え、1階部分の屋根から地面に飛び降りる。
炭治郎も善逸も、大胆に降ってくる小波を支えるために慌てて駆け寄っていく。
「え!?ちょっと!危ないよ!
飛び降りるんじゃないよ!
怪我したらどうするの!」
善逸は青白い顔で小波に詰め寄る。
「善逸くんも久しぶり!大丈夫だよ!伊達に鬼殺隊入ったんじゃないんだから!
まぁでも、ご心配ありがと。」
そりゃそうなんだけどさぁと、善逸は歯切れの悪い返事をした。
「というか、私より、善逸くんの怪我、酷いよ!?痣だらけ!!
炭治郎も、顔切れてる!
伊之助はたんこぶ作って倒れてるし…
………はい、とりあえずこれで傷口拭いて!
ちょっと、そこの少年!君も足怪我してるね!?見せてみ?……あ、炭治郎に手当てしてもらった?じゃあ平気ね?
とりあえず…皆座りなさい!」
小波はその場の全員を座らせ、手際良く手拭いに消毒液を染み込ませて2人に渡し、伊之助の所へ駆け寄って額の血を拭った。
(綺麗な顔に傷を作るんじゃないよもう…
黙ってる伊之助は、お人形さんみたいだなぁ)
そんな事を考えつつ、額の消毒を行った。
目立った切り傷は無さそうだと判断し、小波は炭治郎と善逸の方へ体の向きを直した。
「……なるほど。伊之助が、炭治郎の大事な箱を庇う善逸くんを事情も聞かずボコボコにして、それを止めようと炭治郎が伊之助に頭突きしたのね。まったく…。
………こら伊之助!あんたが悪い!あんたの手当てはしないからね!!!」
炭治郎と善逸から事の顛末を聞いた小波は、気絶している伊之助の肩をペシりと叩いた。
「いや、原因は俺だし、思い切り伊之助の肋折っちゃったから、許してやってくれ…。」
炭治郎は申し訳無さそうに伊之助と小波を見る。
「…へっ?伊之助の肋折ったの!?
……あっははは!!ちょ…炭治郎…意外とやっちゃうタイプなのね!!ふふっ…事情は分かったよ。」
小波は涙を流しながら大笑いをして、伊之助の腹部に手を乗せると、真剣な表情に戻った。
(海の呼吸 伍の型…海の恵御)
自身の呼吸を手に集中させて伊之助の患部の炎症と痛みを抑え、そして次に額のこぶに目線を移すが、小波はあえて痛みを残しておくことにした。
「……はい、じゃあ2人、とりあえず脱ぎなさい。」
小波の突然の要求に2人して顔を赤くして驚いた。
「折れてるんでしょ?治す事は出来ないけど…少しは楽になると思うよ。」
「なんだ、手当てか…びっくりしちゃったよ…」
「小波の技は凄いんだよな!それで、俺は最終選別でも助けてもらったんだ!」
「え!?炭治郎も小波に会ってたの!?」
炭治郎も善逸も、最終選別で小波と出会っていたという共通点に興奮気味に盛り上がった。
小波も、その2人が道中出会い、共に任務を行っていた事に驚いた。
「女の子に無理矢理求婚して振られる善逸くんには引くけど、でも、2人が出会ったのは凄い奇跡だねぇ!
……はい、終わり!肋骨折三兄弟です!後でお医者さんに診てもらいましょう。」
小波はさらりと善逸に棘を刺しながら、2人の応急処置を終えた。
その後は、失神している伊之助以外の全員の意見が一致し、屋敷内に残っていた亡骸を埋葬する事になった。
小波は、自身が助けられなかった男性を埋葬し、両手を合わせた。その時、
「勝負!勝負ぅ!!」
「ぎぃやぁぁぁぁ!!!」
目を覚ました伊之助は騒がしい声を上げて善逸を追い回していた。
善逸は小波に縋り付くように助けを求める。
「小波っ!助けてぇぇぇ!」
「くらぁっ!伊之助!!急に体を動かすんじゃないっ!」
そう言って小波は、事もあろうか伊之助の額のこぶをデコピンした。
その場にいた全員が「ひぃっ!」と声を上げて自身の額を抑えた。
「っいってぇぇえええ!!何すんだ小波!!やんのかぁ!?いいぜ!!かかって来い!!」
「やらん!かかって行かん!
あなたねぇ、今は私のおかげで痛み感じてないけど、本当だったら今の痛みがここにも常にキテるのよ?」
小波は腰に手を当て、目を吊り上げながら伊之助の折れた肋の辺りを指差すが、伊之助にたらればの想像をするのは難しかったようだ。
「あぁ!?何の事だっ!!俺は何処も痛くねぇ!!
………っておい!
お前ら何やってんだ!!」
小波は目元を抑えて首を振り白旗を挙げ、伊之助は亡骸を埋める炭治郎達を見て怒鳴る。
急激な突風を伴う嵐のような伊之助に、皆、目を点にしていた。
炭治郎のみが冷静に埋葬について伝え、手伝いを乞うが、意味を全く理解しない伊之助はより怒りを露わにする。しかし炭治郎の、
「体が痛むなら、休んでいるといい。」
という(嫌味のない言葉通りの)発言にまんまと?煽られた伊之助は、結果的に埋葬の手伝いを行うことになった。
日も暮れ、炭治郎の鎹鴉に連れられて私達は山を降りる事になった。
「3人だけで本当に大丈夫?家まで送って行くよ?」
小波は三兄弟の身を案じ、家まで送ると言い張ったが、鬼除けの藤の香袋を貰ったから大丈夫だと言う三兄弟の意思も固かった。
小波は根負けしたが、善逸は頑なに食い下がる。
「正一くんは俺を守るんだよぉぉぉ!!!」
正一くんは強い!俺より強いんだよぉ!と言って、三兄弟の真ん中、正一も共に連れて行こうとする善逸。
小波が止めに入ろうとすると、炭治郎が鬼の形相で善逸に手刀を入れて気絶させた。
温厚な炭治郎でも、疲労が溜まり流石に我慢の限界がきていたのだろう。
炭治郎は気絶した善逸を背負い、私は木々に頭突きをする伊之助を諌めながらゆっくりと歩いていった。