第四章 鼓屋敷
名前設定
鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
宿では、3時間程仮眠をした。
宿泊では無いので布団が用意されている訳ではなかったが、私は座布団を枕にし、伊之助は畳の上に大の字になって二人とも死んだように眠った。
7日間の疲れを癒すには、3時間の睡眠では物足りないのは致し方ないが、それでも無いよりはましだ。
目を覚ました私は、暫く横になった体勢のまま頭を留守にしていた。
この時間が私にとっては非常に重要で、これをせず無理矢理起こされた日には、私は暫くムスッと口を尖らせて無言になる。
つまり寝起きが悪いのだ。早起きも苦手だ。
「んー……」
少しの間ボーっとしてからむくりと体を起こして、猫がやるように伸びをしたり首を鳴らしたりする。
たか兄にはよく、首を鳴らすと良くないぞと言われていたなぁと懐かしんだ。
目がスッキリ覚めてきてから、伊之助はまだ寝ているだろうかと、部屋を見渡した。
しかし、同じ部屋に居るはずの伊之助は居なかった。
伊之助の刀が、私のと共に未だに部屋の隅にある事を確認してから、厠か、2回目の風呂かどちらかだろうと思うようにして私は支給された隊服にやや興奮気味に袖を通した。
シャツも制服もピッタリだった。
下がスカートだった事に若干の驚きを隠せなかったが、試しに穿いてみた。
「寸法は素晴らしい程にジャストマッチ……!
流石隊服のプロ!
んんー、スカートなんて初めて穿いたなぁ。」
着る物といったら何時も剣士らしく袴を穿いていた。
和服ならではの、丈の長さ、着る手順の多さ、衣服自体の重さ等々、特に気にした事もなかったが、こうして初めて「洋服」というものを身に付けてみると、文明の発展の素晴らしさを実感する。
「簡単に脱ぎ着できて、軽くて動き易いなんて…海の向こうのお国は発展してるんだなぁ。」
凄いなぁ、などと独り言を言いながら部屋中を歩き回り、スカートの慣れないスースーとした感覚を楽しんでいた。
しかし、流石に戦闘中も、ただの布きれ1枚を腰に下げてスースーを感じながら刀を振るうのはただただ嫌だと思った。
ズボン型の隊服と、スカート型の隊服、同じ女性でも違いがあるのは何故だろう…。
隊服の希望なんて聞かれてもないしなぁ。
スカートを穿いた隊士もごく稀に見かけるが、皆どうしてるのだろう。
私は中に履ける物を探すのと、食事をするという二つの欲を満たすために町を歩こうと考えた。
「伊之助まだかな…」
外の様子を知るために、障子を開けると、私の足元に伊之助が腰掛けて外を眺めているのが分かった。胡座をかいて座る哀愁漂う背中を危うく蹴りそうになったが、なんとか寸での所で足を止めた。
「あ、いたのね。何してたの?」
「人がいっぱいいるんだな。」
私は伊之助を真似るように同じ方向に目を向けた。
「そりゃ、町だからねぇ。伊之助がいた山より、私がいた海より、人は沢山いるよ。」
「うみ?なんだそりゃ。」
「ふふっ…今度、連れて行ってあげるよ。」
「おう。」
寝起きだからか、何か考え事でもしているのか、感傷に浸っているのか、いつもの伊之助には欠かせない語尾の「!」が少ない。
いつもと様子が違う伊之助を少し気にかけながら、私は再び町に視線を戻す。
友人と談笑しながら歩く人、親子で手を繋いで店に入っていく人、連れ立って歩く男女の姿、客に声をかける店主…色々な人が沢山いる事が実感できる。
伊之助の方を見ると、瞳が左右に動いているので、そういった人達を目で追っているのだと分かる。
動物が、人間の行動を注意深く観察しているのと同じような伊之助の姿を見ていると、こんな風に言葉も覚えていったのかなぁと、微かに切ないような愛おしいような気持ちになった。
「ねぇ、町を歩いて、何か美味しい物でも食べない?ご馳走するよ。」
ずっとここで町を眺めているのも飽きないが、鬼殺隊としての任務が来る前に、空腹も自身の隊服の事も何とかしたかった。
「あぁ!腹減った!!食いもん!!」
伊之助は私の言葉をきっかけに自身の空腹を思い出し、騒がしく部屋に戻った。
私は食事処や服屋の位置を方向音痴なりにも出来るだけ把握する為に、もう一度町を見渡してから部屋に戻った。
伊之助はその一瞬で浴衣から服に着替え、猪頭も被って私を急かした。
私も羽織を羽織って、刀を身に付け、二人で部屋を後にした。
─ねぇ、隊服着てみたんだけどさ…
─あ?
─あ?じゃなくて、ほら、鬼殺隊の黒い服。着たのよ。
─あぁ?あぁ!!服が黒いな!!俺と同じだ!!
─…あ…うん、そうね。同じね……。