第一章 出会い
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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初めて彼を見た時、おじいちゃんが何か珍しい動物を飼い始めたのだと思った。
首から下は当時の私と同じくらいの背丈で、ヒトような体なのに、頭部は猪だったのだ。
私はその得体の知れない生き物に近付く勇気はなく、いつも襖の影から様子を伺うだけだった。
その生き物は、おじいちゃんにおかきを貰ったり、百人一首を読み聞かせてもらったりしていて、その間、私はおじいちゃんと一緒に居られないことを少し寂しく感じていた。
でも少しずつ、その生き物の仕草は人間じみて来て、私はそれは小さな子供なんだと感じるようになってきた。
その子供がおじいちゃんから貰った食べ物を食べる時、猪頭をずらす行為を見た時に、男の子か女の子かの区別は出来なかったが、子供であることが明確になった。
お父さんお母さんはどこにいるの?どうしていつも1人なの?
そんな疑問が浮かんだが、それは自身が尋ねられたら困る質問でもあったので、気にするのをやめにした。でも私の、その子の観察はしばらく続いた。
ある日、私はいつものように襖の影から二人の様子を見ていた。最近はそれが楽しみになっており、寂しさは感じていなかった。
おじいちゃんはある時、その子のお包みの端に何か書かれていることに気付いた。
おじいちゃんは両手で大事そうに持ち上げ、目を細めながらその子と文字を見つめた。大好きなおじいちゃんの優しさを感じ、私は胸がいっぱいになった。
「嘴平伊之助って書いてあるな」
はしびらいのすけ…私はおじいちゃんとその子を交互に見た。
その子の頭には「?」が浮かんでいるように見えて、私はそれが少し可笑しかった。
それと同時に、嬉しさか喜ばしさかなんとも言えないけれど、心が温かくなるのを感じた。
「これがお前の名前じゃろう。大切にせいな。」
その子…名前からして男の子であろういのすけくんは、「名前」の意味が分かっていないのだろうか。未だに「?」が浮かんでいるようだった。
得体の知れない生き物…であったその男の子の正体がはっきりしたのもあってか、私は勝手にいのすけくんとの距離が近付くのを感じた。
だからなのか、自然と体が前に出ていき、私は初めていのすけくんに声をかけることができた。
「名前っていうのは、みんな持ってるんだよ。でも、みんな違うんだよ。」
いのすけくんは、初めて話しかけてきた私に顔を向けた。私の声に彼は少し驚いたように見えたが、威嚇も逃げもせずに聞いてくれた。
どうにかいのすけくんに自分の名前を大切に思ってもらいたくて、名前がある事を喜んでもらいたくて…でもそれを伝えるための言葉が私には足りなくて、すごくもどかしかった。
「名前はね、生まれてきてくれてありがとうっていう気持ちが込められた、初めてのプレゼントなんだよ。」
私は必死になって伝えた。
おじいちゃんはそんな私達を、優しく見守ってくれていた。私のたどたどしい説明に口を挟むこともなく、小波の言葉で伝えなさいと、背中を押してくれている気がした。
いのすけくんは、自分の名前と私を交互に見ながら、聞いてくれている様子だった。
しかし、理解してるのか、それ以前に私の言葉が伝わっているのか、猪頭で表情が見えないせいで、私はどんどん不安になっていく。
その時、たか兄が帰ってきた。
「あ、この人の名前はね、たかはるっていうんだよ!」
そういのすけくんに教えると、たか兄は
「小波もじいちゃんも、猪のバケモンに言葉教えたって喋れるわけねぇだろうが!」
そう言って怒り出した。今までの我慢が爆発したのだろうか。
「シッシッ!どっか行け!うちに来んな!!」
矢継ぎ早に暴言を吐き、いのすけくんを追い出そうとするたか兄に、
いのすけくんは化け物じゃないよ、人なんだよ、ちゃんと名前があるんだよ、と伝えようとしたその時、
「シッシシッシうるせぇんだよ!!こんのタコ助が!!!」
その小さな体のどこにそんな跳躍力が潜んでいたのか、暴言を返しながら、たか兄の頬に両足蹴りをかましたいのすけくんは、尚も続けた。私はいのすけくんのやっと見えた自我に釘付けだった。
「おかきを持って来い!ここは俺の縄張りだ!」
いのすけくんは、背丈の割に声が低くて、男の子で、言葉を話せて、でも口が悪くて(それはたか兄の言動に少し似ていて)、おかきが好きで、この家はその子の縄張りで…。
今日私は沢山の情報を一気に脳に詰め込んだのだった。