第三章 再会
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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(この人、奥さんがいるなんて嘘。私を騙して何処かに売ろうとでも考えているんだ…。)
危険を察知した私は、その男との距離を取りながら首と両手を横に振った。
宿を探していると聞かれた時に否定していれば良かった…つい先程の自分の浅はかな言動に悔いた。
「あの、大丈夫です。本当に、町まで行けますので………っ!」
その男は、私が距離を置くのを妨げるように、私の手首を強く握って自らの方に引き寄せた。
私の剣術は手首に負担がかかるため、いつも手首を強くする鍛錬を行っていた。
それでも7日間刀を振り続けた私の手首は酷い炎症を起こしていた。
そこを掴まれ、顔を顰める私に男はさらに続ける。
「遠慮しないで家においで。
お嬢さんのような可愛い子は大歓迎さ。
ほら、行こう。
私の家はすぐそこなんだ。」
痛む手首を強く引っ張られ、下品な笑みで無理矢理私を連れていこうとする傲慢で汚らしい男に私は腹を立てた。
私は剣士だ。
こんな男に対して、泣いて助けを求めたり、被害者になったりはしない。
「……いい加減にしろクソジジ…「その手を放せクソジジィィイイ!!!!」
私は掴まれている反対側の手でその男の顔面目がけて渾身の一撃を打ち放ったつもりが、それは空振りに終わった。
その代わりに、その男の顔の左側を両足蹴りする足が見えた。
私は思わず一瞬目を瞑ってしまったが、次に目を開けた時には、男が吹き飛ぶのと、その足の持ち主が華麗な着地を決めるのが視界に入った。
吹き飛んだ下品男は尻もちを着きながら後ずさりしていた。
下品男から、両足蹴りで助けてくれた人に目線を移した。
すると一目散に私の目に飛び込んで来たのは、頭が猪で上半身は裸の男の後ろ姿だった。
私は脳と心臓をもみくしゃにされて、瞳が零れ落ちるんじゃないかというくらい目を見開いた。
浅くなった呼吸で、声を絞り出すようにその男の名を呼んだ。
「…………伊之助……?」
下品男が汚い悲鳴を上げながら走り去っていくのなんてもうどうでも良かった。
私がずっと会いたくて求めてきた人が目の前にいる。
その事実だけが、今の私の心を満たした。
「…おう!!!」
伊之助は、下品男を威嚇するのを辞め、私の方に顔を向け、力拳と逞しくなった腕を見せながら私に応えた。
「久しぶりだな!!!小波!!!」
今度は腰に手を当てながらしっかりと私の名前を呼ぶ伊之助を見て、私の渋滞していた感情は堰を切って溢れ出した。
「………ぅぅ…、伊゙之゙助゙ぇぇぇぇ、ぁぁあ…も゙う、
なんでいな゙くなっちゃうの゙ぉぉ……
…すごい心配しだんだよ゙ぉぉぉぉ………ゔぅぅ」
私は地べたに座り込んでしまい、幼子のように泣き出してしまった。
伊之助に会えた嬉しさ、今までの不安、緊張、そして安堵…色々なものが涙に変換されて、私の目から次々に絞り出されてくる。
私は泣くのは嫌いでは無かった。
むしろ、感情を言葉にして表現する事が苦手な私には、必要不可欠な事のように思っていた。
だから自分の事は泣き虫だと思っている。
しかし、人前では余程の事ではない限り、絶対に涙を見せなかった。
そんな私が、人通りは無いとはいえ、人里の道の真ん中で、伊之助の目の前で、子供のように大泣きしている。
これがいわゆるギャン泣きというやつか。
「は!?小波!?おいっ、おまっ!!
なんでっ!そんなっ!泣くんだよ!!
ちょ…おい!」
伊之助は私の目の前でオロオロと慌てふためいていた。
山育ちで野生の彼が、泣いている人を宥めるなんて高度な技を持ち合わせているとは考えられなかった。
どれくらい泣いていただろうか、顔はもうきっとぐちゃぐちゃだろう。
伊之助に見られるのも気が引けた。
嵐から小雨くらいになった涙を拭っていると、伊之助は私の左隣に腰を降ろした。
そして私の左肩に手を置いて、自身の額を私の額に擦り寄せてきた。
動物の、親が子を愛でるような、そんな動作だった。
「………悪かった。」
耳元で聞こえた伊之助の声、肩に置かれた手の温かさ、額に当たる毛皮のくすぐったさ全て、私の涙を止める術として十分過ぎた。
私が落ち着いたのを確認し、伊之助は額を離した。
その猪頭の中は、どんな表情をしているのだろう。
困ったように眉を下げているのか、呆れているのか、どちらにせよ、今の私の方が酷い顔をしているのには違いない。
「ふぅ……泣き疲れた…。」
あんなに大泣きしてしまい、冷静になった後には流石に恥じらいが出てきたので、わざとおどけてそう言ってみた。
私は一息ついて顔の濡れている部分を拭い、伊之助と目を合わせるようにゆっくり顔を上げた。
「やっと顔が見れたぜ。」
満足気にそう言うと、伊之助は私の右手を取って強く握られて痛めた手首の痣を見た。
悔しそうに舌打ちしたあと、そこを優しく撫で、反対の腕を掴んで私を立たせた。
「ここにはずっとはいれねぇしなぁ…。」
辺りを見回す伊之助は、私よりも背が高く、猪頭以外には昔の面影は無かった。