第三章 再会
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鬼滅の刃たかはるとその祖父と3人で暮らしていたヒロインと伊之助の物語。
一応原作沿い。途中、抜けている部分があります。
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善逸くん、大丈夫かな…
んー…、置いてけぼりはさすがに可哀想だったかな…いやでもあの足の速さならきっと7日間生き延びるさ。
うんうん、大丈夫だよ、と自分に言い聞かせるように私は1人で何度も首を縦に振った。
どれくらい移動しただろうか、私は今までの移動距離と山の直径距離を想像しながら茂みに隠れて足を休めていると、ドサッという音を聞いた。
鬼か、人が殺られたか…
ここでは否が応でも不吉な事を考えざるを得なかった。
恐る恐る音がした方を見ると、緑と黒の市松模様の羽織を着た、善逸くんくらいの背丈の少年が両手膝を着いて苦しそうにしていた。
さっきの善逸くんは黄色の鱗模様だったし、皆鮮やかな羽織を着てるんだなぁ。
海勢頭さんに貰った私の羽織は、無地の白地で裾と袖口に水色の波模様の入ったものだ。
え?誰が坂〇銀時よ!
いやあれはあれで格好いいけどもね!!!
あの着物よりはもう少し女の子らしくて可愛い模様だよ!貝殻とか珊瑚の絵付も入ってるもん!
そんな呑気な事を考えながら、周囲に気を配ってその少年の所に歩み寄った。
「あの…大丈夫ですか?あら、おでこから血が出てる…。」
その少年は額に深い傷を負っていた。
「…50人、人を喰ったと言う鬼がいた。
そんな鬼は多分そいつだけだろうから、きっともう大丈夫だろう…
でも君も、油断せず気を付けて。」
自分の体がボロボロなのに、それでも私や他の人を気遣うこの少年を心底尊敬した。
その少年は全身を強く打ったようで、私が背中を摩ると、ゔっ、と鈍い声を上げて痛がった。
この優しくて強い少年を助けなければ、私が師匠の元で剣術の鍛錬と併せて、医術を学んできた意味が無いと思った。
「私は、大波小波って、いいます。あの、あなたは?」
「あ、助けてもらったのに名前も名乗らず申し訳ない…。俺は竈門炭治郎です。」
炭治郎くんは傷が辛そうではあるが、礼儀正しく返してくれた。
「まだ、助けてないよ。
じゃあ、今から応急処置をするね。
炭治郎くん、少しびっくりするかもしれないけど、我慢してね。」
分かった、と言い彼は私の動きに注目した。
私は彼の額の血を拭い、自身の羽織に常に携帯している消毒液で患部を清潔にした。
そして、私は右手をその傷に当て、左手を上に添えた。
海の呼吸………伍の型 海の恵御(めぐみ)!
この技は、自身の呼吸を研ぎ澄ませて右手に感覚を集中し、触れた部分の細胞に干渉する事ができる。
しかし、炎症の緩和や止血、解毒は出来るが、治癒、回復はできない。
さらに、私自身の体力を消耗してしまうため、私は体力向上の修行を毎日欠かさなかった。
「はい、とりあえず止血しました。
あと背中の打撲と………
よし、他に痛い所は無いですか?」
私が炭治郎くんの腕や足をギュッギュッと掴み、痛みを感じる箇所がないか確認していると、私の初めて見る技に目を点にしていた炭治郎くんは、ハッとしたように私の手を取った。
「小波、凄いなその技!!!
どこで誰に教わったんだ!?
他人の体の傷を治せるなんて、魔法みたいだ!!!」
炭治郎くんのキラキラした瞳に少したじろぎながらも、同世代の人にこんなに堂々と褒められて私も嬉しくなり、へへ…とだらしなく口元を緩めた。
「私の師匠は海勢頭鉄忠(てつただ)さんっていう凄く良い人でね、私自身は自分で水から派生させた海の呼吸っていうのを扱ってるけど、私の型はほとんど海勢頭さんの水の呼吸のアレンジみたいなものかなぁ。
でも今の止血をした技は、人体の構造と呼吸の仕組みから考えて、自分で編み出したの!」
私は初対面なのに炭治郎くんに聞かれてもいない事までベラベラと喋ってしまった。
私は、自分の事はあまり話さない方なのに、この短時間で彼には心を開いていた。
私は、彼の底知れない優しさと誠実さを何となく感じ取っていたのかもしれない。
「新しい呼吸を派生させたり、技を編み出したり、小波は相当努力したんだな!」
屈託の無い笑顔でそう言われ、私は心が何か温かいもので満たされる感覚をしっかりと掴むように炭治郎くんを見つめ返す。
「ありがとう!
そう言ってもらえると凄く嬉しい。
炭治郎くんも、強い鬼を倒せるくらいの力があって、凄いと思う!」
私達は最終選別中であるにも関わらず、表情を緩ませてお互いを褒め称え合った。
「でも、私の処置はただの止血で、治ってる訳じゃないから無理しちゃ駄目ね。
身を潜めて、安静にしてね。
この山にいたら安静なんて難しいかもしれないけどね、極力、ね。」
よっこら、と海勢頭さん譲りの掛け声をかけて立ち上がり、私はその場を去ろうとした。
すると炭治郎くんも立ち上がって私に手を差し伸べてきた。
今まで同じ高さにあった彼の顔の位置が、少し高くなった事に若干の違和感を感じながら、差し出された手を取った。
皮膚の厚くなった手は私と同じだった。
女の子なのに豆だらけで可愛くないなぁと思っていたが、剣士は皆こうだと言い聞かせてきたので、彼も同じだと分かり安心した。
「小波、本当にありがとう!今度は鬼殺隊員として、また会おう!」
善逸くんとは打って変わって清々しく別れられる事に安堵しつつ、強く握られた手を私も強く握り返した。
「こちらこそ、沢山凄いって言って貰えて嬉しかった!
会えて良かったよ!
またね、炭治郎!」
私達は、こうしてお互いの無事を祈りながら別れた。
─良い人だったなぁ。
両者が互いの事を思い出しながら、同じ事を考えていたのであった。