森田村(ほのるん)
「保乃ちゃん」
アルコールが回っているせいで
ふわふわしている頭が勝手に言葉を放つ
「もし、さ…」
ほんの少し残った理性がやめろと叫んでるけど
アルコールが回ってるせいでなにも聞こえないふりをした
「まだ…好きだって、言ったら…どうする、?」
5年。
5年もの間、
身勝手にケジメをつけた思いの火種がまだジリジリと燃えているのを見て見ぬふりをしていた
他の人と恋愛をして
関係をもって
彼女を友人だと、自分に言い聞かせて
おこがましく燃え続ける火種を忘れるように、
していたのに。
たかが少しだけ呑むペースを間違えただけで、
その5年を無駄にした
身勝手な行動をしたにも関わらず
友人としてそばに居てくれる彼女の情を裏切ってしまった。
顔を見ることは出来なかった。彼女の顔を見るのが怖くて、
彼女の目線から逃げるようにさっきまで口にしていた缶コーヒーの口をただ眺めることしか出来なかった
たった少しの間が何十時間にも感じる。
彼女はきっと困った顔をしている
もしかしたら、ドン引きしたような顔をしてるかも
いや、きっとそうだ
なんだコイツって
逃げるタイミングを伺っているのかもしれない
ネガティブなことばかりが浮かんで
今更になって理性が戻ってくる
私。なにしてんだろ。
残りを一気に飲み干して
勢いよく立ち上がる
「急に変なこと言ってごめんっ、帰る、」
逃げるように早歩きでその場から離れる
5年もの間何をしていたんだろう。
これじゃ5年前と全く変わらないじゃないか。
ほんと。なにしてんだろ、
「待って!」
「え、」
びっくりした。
5年前のように不甲斐ない自分を責めながら泣き腫らすんだと
それでまりなを呼び出して朝方までどれだけ好きだとか、いっそのこと全く知らない人と結婚するか〜なんて悪酔いするんだろうって思ってた
だから、
まさか腕を取られて引き止められるなんて思わなかった。
少し強引に振り向かされて見えた彼女顔は
怒ってるように見えた。
「…待ってよ…また言い逃げするん…?」
「…」
急に掴まれた腕に力が入って
少し痛かった
「…保乃やって…」
「ん…?ごめん、なんて、?」
「だからっ…保乃やって…ずっと好き…
…って……言ったらどうする、?」
腕に込められた力とは反対に彼女の声は小さくて
少し聞き取りずらかった
でも、ずっと、ずっと彼女に嫌われたくないと
ずっと傍に居たいと務めてきた私には
日頃から彼女の細かなことまで見逃さないようにしてるせいか
しっかりと聞こえた。
きっと最後のは、私の真似をしたんだろう
「なぁ…どうするん、?」
あまりの出来事に固まっていると
顔を赤くしてキッと睨まれた
それがまた。愛くるしくて仕方ない。
私はいったい5年間もの間なにもしていたんだろう。
答えを聞くのが怖くて
終わってしまうのが怖くて
ずっと逃げていた、
ぶつかってみないとどうなるか分からないのに。
「なぁ、ひぃちゃ、ンッ」
「保乃ちゃん、好き」
「っ、」
「ふふ、顔もっと赤くなったね」
「もうっ、ひぃちゃんのせいやろっ」
「ふふ、ごめんごめん、
もし…保乃ちゃんが同じ気持ちなら…私の彼女に、ンッ」
「なる。ひぃちゃんの彼女になりたい」
「もう、最後まで言わせてよ」
「ひぃちゃんやって言ってる途中でしてきたやん」
「ふふ、すぐ真似する」
「やって好きなんやもん」
「なんか、さっきから保乃ちゃんずるい」
「えぇ〜?どこが??」
「あ。浮気したら速攻でシバくで」
「するわけないじゃん」
「何言ってんねん、前の人たちの時は散々浮気してたくせに」
「あれはぁ、若かったからァ、」
「歳なんて関係ない」
「大丈夫、しないから
あの時は保乃ちゃんを忘れたくて必死だったんだ
でも不思議な事に、忘れようと思えば思うほど
好きになっちゃって。って…恥ずかしい、
そういう訳だから。浮気とか絶対大丈夫だから」
「ふふ、保乃にベタ惚れやな!」
「…まぁ…はい、」
「ふふ、顔あかぁ〜い
ひぃちゃん可愛い〜」
(絶対さっきの仕返しだ。)
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