Genius10
【お守り】
一つ屋根の下とはいえ、合宿所は広いし人も多い。
練習中はもちろん、意中の彼女と四六時中行動を共にすることは出来ない。
今も彼女は中学生たちと楽しそうに談笑中である。
それでも200人以上いるこの空間で一日一回は対面で話せる俺はかなり恵まれてる方だと思う。
しかし寂しいものは寂しいので、彼女に会えないときはスマホの画像を漁る。
俺の最大の武器『コミュ力』を駆使して何度も撮った彼女とのツーショット写真が画面に並ぶ。
画像を見るとその時の思い出も浮かんできて顔がにやけてしまうので絶対に一人の時しか見ない。
しっかり専用フォルダを作り厳重にロックしているから見られることは絶対にない。
…覗き込まれなければ。
「これ、あの子のスマホや」
とある日の談話室。
誰もおらず静まり返った室内にポツンと残されたスマホには可愛らしいケースが見えるよう裏返されており、彼女の物であることが分かる。
忘れ物だろうか。
「無用心やなぁ。しゃーない届けたろ」
そう言ってスマホを持ち上げた直後、ポコンと音がした。
これは何かの通知音だ。
見てはいけないと思いつつ、そろりそろりとスマホを裏返してみた。
もしかしたらこのスマホを見つけた人に向けたメッセージかも…。
しかしそこには『新着メッセージ 1件』と無機質な文字が並んでいた。
なんやオモロない…いやいや!人のやり取り勝手に見たらアカンのや。これで良かったんや。
「早よ渡しに行こ………ん?」
ふと画面の背景に目がいった。
テニスラケットを持った見たことある黄色のジャージの男がこっちに手を振っている……。
「これ………俺か?」
俺の願望が目の錯覚を起こしているのかと何度目を擦っても頬を引っ張っても、画面の中には変わらず俺がいる。
彼女が自分で撮った写真だとすれば、周辺の様子からするに唯一見に来てくれた秋の新人戦のものだ。
確かにあの日観客席の中に彼女を見つけて手を振った覚えがある。まさかその時に…。
「あれ、毛利先輩」
「!!」
後ろから急に声を掛けられ、ビックリした俺は危うくスマホを落としかけた。
何とかキャッチして振り向くとスマホの主が立っている。
「驚かせてすみません」
「だ、大丈夫やで!せやこれ自分のスマホやろ」
「あ!探してたんです、ありがとうございます!」
「そこのテーブルに置きっぱなしやったで。気ぃ付けや」
「はい、すみません」
スマホが戻ってきてホッとしている彼女に満足するのも束の間、やっぱり気になるものは気になる。
本人に見られたって知ったらどんな反応するんやろ。
「あのな、気悪くしたらごめんなんやけど」
「はい?」
「その…画面、見てしもて」
その瞬間、彼女がスマホを胸に押し付けた。
「み、見たんですか…」
「拾った瞬間画面がついたんや!決して自分でつけた訳ちゃうんやで!」
「………」
必死の言い訳も耳に入ってないのか、彼女は依然胸にスマホを抱えたまま俯いてしまった。
流石に怒らせたかな…と反省していると、ふと見えた耳が真っ赤になっているのに気付いた。
…もしかして、照れてる?
「わ…忘れてください……」
「え?」
「画面のこと、忘れてください…」
少しだけ上げた彼女の顔は耳よりも真っ赤で、眉間のシワから感情が爆発するのを我慢しているのが窺える。
分かるでその気持ち。俺もようそんな顔になる。
「別にイヤや言うてる訳ちゃうで?むしろその…」
「これ、誰かに見られたら効力がなくなっちゃうお守りなので!だから、忘れてください…!」
「へ、おま…も…え?」
「……忘れてくれました?」
「は、はい!忘れました!!」
俺の言葉に安心したのか、彼女は改めてスマホを拾ったお礼を述べてその場を後にした。
いや何今の。可愛すぎん?
誰かに見られても忘れてくれたらノーカンなんか?
それより忘れさせるためとはいえ俺の写真を『お守り』て、何なん可愛すぎてキレそう。
今までずっとしまってたけど、俺もあの子の写真背景にしよかな…。
「なぁなぁ、W杯出場したら新しく写真撮ってくれる?」
「忘れてないじゃないですか!」
一つ屋根の下とはいえ、合宿所は広いし人も多い。
練習中はもちろん、意中の彼女と四六時中行動を共にすることは出来ない。
今も彼女は中学生たちと楽しそうに談笑中である。
それでも200人以上いるこの空間で一日一回は対面で話せる俺はかなり恵まれてる方だと思う。
しかし寂しいものは寂しいので、彼女に会えないときはスマホの画像を漁る。
俺の最大の武器『コミュ力』を駆使して何度も撮った彼女とのツーショット写真が画面に並ぶ。
画像を見るとその時の思い出も浮かんできて顔がにやけてしまうので絶対に一人の時しか見ない。
しっかり専用フォルダを作り厳重にロックしているから見られることは絶対にない。
…覗き込まれなければ。
「これ、あの子のスマホや」
とある日の談話室。
誰もおらず静まり返った室内にポツンと残されたスマホには可愛らしいケースが見えるよう裏返されており、彼女の物であることが分かる。
忘れ物だろうか。
「無用心やなぁ。しゃーない届けたろ」
そう言ってスマホを持ち上げた直後、ポコンと音がした。
これは何かの通知音だ。
見てはいけないと思いつつ、そろりそろりとスマホを裏返してみた。
もしかしたらこのスマホを見つけた人に向けたメッセージかも…。
しかしそこには『新着メッセージ 1件』と無機質な文字が並んでいた。
なんやオモロない…いやいや!人のやり取り勝手に見たらアカンのや。これで良かったんや。
「早よ渡しに行こ………ん?」
ふと画面の背景に目がいった。
テニスラケットを持った見たことある黄色のジャージの男がこっちに手を振っている……。
「これ………俺か?」
俺の願望が目の錯覚を起こしているのかと何度目を擦っても頬を引っ張っても、画面の中には変わらず俺がいる。
彼女が自分で撮った写真だとすれば、周辺の様子からするに唯一見に来てくれた秋の新人戦のものだ。
確かにあの日観客席の中に彼女を見つけて手を振った覚えがある。まさかその時に…。
「あれ、毛利先輩」
「!!」
後ろから急に声を掛けられ、ビックリした俺は危うくスマホを落としかけた。
何とかキャッチして振り向くとスマホの主が立っている。
「驚かせてすみません」
「だ、大丈夫やで!せやこれ自分のスマホやろ」
「あ!探してたんです、ありがとうございます!」
「そこのテーブルに置きっぱなしやったで。気ぃ付けや」
「はい、すみません」
スマホが戻ってきてホッとしている彼女に満足するのも束の間、やっぱり気になるものは気になる。
本人に見られたって知ったらどんな反応するんやろ。
「あのな、気悪くしたらごめんなんやけど」
「はい?」
「その…画面、見てしもて」
その瞬間、彼女がスマホを胸に押し付けた。
「み、見たんですか…」
「拾った瞬間画面がついたんや!決して自分でつけた訳ちゃうんやで!」
「………」
必死の言い訳も耳に入ってないのか、彼女は依然胸にスマホを抱えたまま俯いてしまった。
流石に怒らせたかな…と反省していると、ふと見えた耳が真っ赤になっているのに気付いた。
…もしかして、照れてる?
「わ…忘れてください……」
「え?」
「画面のこと、忘れてください…」
少しだけ上げた彼女の顔は耳よりも真っ赤で、眉間のシワから感情が爆発するのを我慢しているのが窺える。
分かるでその気持ち。俺もようそんな顔になる。
「別にイヤや言うてる訳ちゃうで?むしろその…」
「これ、誰かに見られたら効力がなくなっちゃうお守りなので!だから、忘れてください…!」
「へ、おま…も…え?」
「……忘れてくれました?」
「は、はい!忘れました!!」
俺の言葉に安心したのか、彼女は改めてスマホを拾ったお礼を述べてその場を後にした。
いや何今の。可愛すぎん?
誰かに見られても忘れてくれたらノーカンなんか?
それより忘れさせるためとはいえ俺の写真を『お守り』て、何なん可愛すぎてキレそう。
今までずっとしまってたけど、俺もあの子の写真背景にしよかな…。
「なぁなぁ、W杯出場したら新しく写真撮ってくれる?」
「忘れてないじゃないですか!」