Genius10

【リーサルウエポン】


種ヶ島さんは人を揶揄からかうのが好きだ。
あのお堅い真田でさえあの人におちょくられまくって若干キャラが崩壊しつつある。

そして彼女にも例外なくちょっかいを掛ける。
俺の好きな子あんま苛めんといてほしいんやけど…。



「もう種ヶ島先輩なんて知りません!」

「そんな怒らんといて、冗談やって冗談!」



とある日、また何かされたのだろう彼女が頬をパンパンに膨らませながら早足で歩いていた。
その後ろを笑いながら種ヶ島さんが追いかける。
しかしいつもより怒っている気がする、声を掛けてみよう。



「また種ヶ島さんに苛められたんか?」

「あ、毛利先輩!聞いてくださいよ!!」

「苛めるなんて人聞きの悪いこと言わんでや」



怒り顔のままカクカクシカジカと説明するのを聞くが、まあ10:0で種ヶ島さんが悪い。
当の本人は悪いとも思っておらず、あくまでコミュニケーションの一環だと考えているようだ。



「今日という今日は許しません!!」

「えー!?」

「いや、流石に謝った方がええですって」

「そんなに?うーん。どのくらい許されへん?」



何やその質問は。なんか俺もだんだん腹立ってきた。
面と向かって「この子を苛めるなら俺が許さへん!」と言いたいが、現在片想いの身。
本人の反応が怖くて言えない。…くっ、俺のヘタレ!

悶々としている俺の隣では頬がしぼむ様子のない彼女が腕を組み少し考えている。
…ちょっとつついてみたいけど巻き添え食らいたくないからやめておく。



「今すぐ一人で飛行機に乗ってもらいたいくらい許せません」

「え」

「何ならW杯本番の移動手段、飛行機にしてもらうようコーチに言ってきます」

「え、ちょ!待って!!」



『飛行機』の単語に種ヶ島さんの顔から分かりやすく血の気が引いていく。
海外遠征にも飛行機に乗りたくないからと行かなかっただけはある。



「ごめん!ごめんて!!」

「毛利先輩、一緒に来てください」

「よっしゃ、ついてったろ」

「そこは止めるとこやで寿三郎!分かった!そんだけ怒ってんの分かったから飛行機だけは堪忍!!」

「イヤです」

「もうせん!もうせんから!!」

「諦めた方がええですよ」



その後再三の謝罪によりコーチへの進言は取り消された。
彼女へのちょっかいは減ったが、その分真田の叫び声を聞く日が増えたのは言うまでもない。
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