Genius10

【エンタメ性】

「何読んでんの…うわっ」



とある日の合宿所、意中の彼女が真剣に本を読んでいるものだからと覗き込んでみれば目の前に広がる串刺しの人間の図。
敢えて言おう。めっちゃグロい。
声を掛けられた本人が若干疲れた顔をして振り返る。



「あ、毛利先輩…。遠野先輩に『明日までに気に入った処刑法を選べ』と言われて…調べてたんです」

「あの人か……けどしんどいやろ。無理に読むのはやめんせーね」

「でも選んで来なかったら私が処刑されるらしいので」

「……君島キミさんに交渉してもらう?」



力無く首を横に振る彼女の隣に腰を下ろす。
『図解!世界の処刑法』と書かれた本はかなり分厚く、有名なものからマイナーなものまで様々な処刑法が載っているらしい。
そんなん図解せんでええねん。
しかし何せ使用目的自体残酷だから目を覆いたくなる物も多数。
いや、正直全ページ見たくない。



「なんかこう、見てて楽しい処刑法ってないんですかね」

「…それはそれで怖ない?」

「うーん…あっ」

「え?」



翌日。



「おい、ちゃんと選んで来ただろうな!」



練習前のロビーにて、腕を組み仁王立ちした遠野さんが彼女に睨みを利かせている。
俺を含む他の一軍メンバーが固唾を飲んで見守る中、彼女は昨日読んでいた本をおずおずと差し出した。
開かれたページには『ファラリスの雄牛』の文字。
遠野さんの隣にいる君島キミさんが気味悪そうに目を背けるが、本人は満更でもない様子。
これで彼女が処刑されることはなさそうだ。



「火刑たぁ良い趣味してるじゃねぇか。理由を聞かせてもらおうか」

「良い趣味ですか!良かったです。これエンタメ性があるなと思って」



その瞬間、目を背けていた君島キミさんが光の速さで振り向いた。



「エンタメ性だと?」

「これ、処刑執行中は中の人の断末魔が牛の鳴き声に聞こえるようになってるんですよね。ギャラリーは生々しい叫び声を聞かなくて済むし、本人も最期に観客を楽しませられるなら良いのかなと」

「は………」

「「「……………」」」



その場が一瞬で凍りついた。
言ってることは間違ってないけど、処刑のことを笑顔で語るあの子が普通に怖い。
口を開くのすら躊躇する絶対零度の空間は試合よりも辛かったと後に当事者たちは語る。



「あと、燃やすなら後片付けが楽そうでいいですね」

「……話なら聞くぞ」

「ビックリし過ぎてアツが気ぃ遣っとるやん」

「いや、でも…そうなるだろ」

「目が笑っていない」

「カウンセラー呼びましょうか…?」



その日一日、彼女は遠野さんに気を遣われまくり、練習後に呼び出された食堂ではアップルパイと緑茶が振る舞われたらしい。
…平等院さんも険しい顔してたからなぁ。



「おいしいです!」

「好きなだけ食ってサッサと能天気に戻りやがれ」
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