Genius10
【たんこぶの理由】
※下ネタ注意
ゴンッッ
という鈍い音が耳ではなく額から聞こえた。
二段ベッドの下に寝ていたことを忘れ勢いよく起き上がった結果である。
同室のチームメイトに皮膚を切ったのか血が出ていることを指摘され、俺は医務室へと向かった。
「これで大丈夫です。朝から大変でしたね」
「おおきに。助かったわ」
「気ぃつけてくださいよ」
医務室には大石と白石がいて、手際よく額の手当てをしてくれた。
手際のよさの理由を聞くと学校で保健委員をしているからと返ってきたが、俺も保健委員なのにそこまで手際よくはない。
「しかし、悪夢でも見たんですか?」
「え、なんで?」
「そない慌てて飛び起きるようなことなんて滅多にありませんから」
「あー、あはは…」
言えない。
目の前で純粋に心配してくれる純情な少年たちには絶対に言えない。
好きな子のちょっとアレな妄想が夢の中でエスカレートしたやなんて。
絶対に言えない。
「あっ、思い出すのもツラいなら良いんです。無理に話す必要はありませんからね」
「…ありがとう」
大石、ええヤツやな。
すまんけどそういうことにさせてもらうわ。
「毛利先輩、頭打ったって聞きましたけど大丈夫ですか?」
「!!」
落ち着きかけていた心臓が口から出そうになった。
振り向けば夢の中であんなことやこんなことをした彼女が心配そうに佇んでいる。
現実で何かした訳では無いのに強烈な罪悪感に襲われた。
「た、大したこと無いで。ちょっと擦りむいただけやから」
「そうですか、それなら良かったです」
「いやたんこぶ出来てますからね?」
「えっ」
白石、お前もええヤツやな。
でも言わんでええときもあるんや。
たんこぶと聞いた彼女が近付いてきて、傷に触らんようにソッと俺の前髪を上げた。
至近距離にある整った顔に思わず目を閉じる。
「わぁ、結構腫れてるじゃないですか。今日は安静にしておいた方が良いんじゃ…」
「大丈夫やって。ほっとったらその内治るから」
「でも頭だし…」
本気で心配してくれているのがヒシヒシと伝わっては来るが、近くに感じる彼女の匂いと目を閉じてしまったせいで昨夜の夢が鮮明にリプレイされていてそれどころではない。
「安静にしてほしい気持ちもあるんだけど、今日は俺と英二が越知先輩と毛利先輩に練習つけてもらうことになってて」
「えー、いいなぁ」
「自分しょっちゅう練習見てもろてるやん」
「それはそうだけど、私のは初心者講習だし」
大石の発言を皮切りに三人で話が弾んでいる。
交流を深めるのはとても良いことだ。
だが今じゃない。
夢のリプレイが進んで取り返しがつかないことになる。俺が。
「…そろそろ手離してもろてええ?」
「あっ、すみません。…先輩熱あります?」
「な、なんで?」
「顔真っ赤ですよ」
その指摘に大石が慌てて体温計を差し出してくれた。
大石、ホンマええヤツやな。
でも多分熱はない、熱を持ってるのは別のとこ…ってこの子の前では流石にマズイ頼む早よ静まってくれ!!
心配の視線が突き刺さる中、居たたまれなさと共に電子音が鳴った体温計を出せばやはり平熱だった。
「ほら平熱やったやろ」
「そうですね…でも無理はしないでくださいね」
「おん。そうするわありがとう」
会話が途切れた今がチャンスと、若干前屈みになりつつ足早に医務室を後にした。
もうこんな思いはこりごりやと思う反面続きを見たい気持ちもあり、グダグダの調子で挑んだ練習ではミスを連発し彼女の顔もマトモに見られなかった。
その日の練習後。
「やっぱり毛利先輩具合悪かったんですかね?ちょくちょく前屈みになってましたしお腹も痛かったとか…」
「「「……………」」」
「なんで誰も返事してくれないんですか?先輩方??」
「…今窓から猫が見えた。一緒に来てくれ」
「ホントですか!行きましょう!」
二人が部屋を出て行った後、大曲さんがソファの後ろに隠れていた俺に向けて一言。
「……後で越知に礼言っとけよ、毛利」
「ホンマすんません…」
※下ネタ注意
ゴンッッ
という鈍い音が耳ではなく額から聞こえた。
二段ベッドの下に寝ていたことを忘れ勢いよく起き上がった結果である。
同室のチームメイトに皮膚を切ったのか血が出ていることを指摘され、俺は医務室へと向かった。
「これで大丈夫です。朝から大変でしたね」
「おおきに。助かったわ」
「気ぃつけてくださいよ」
医務室には大石と白石がいて、手際よく額の手当てをしてくれた。
手際のよさの理由を聞くと学校で保健委員をしているからと返ってきたが、俺も保健委員なのにそこまで手際よくはない。
「しかし、悪夢でも見たんですか?」
「え、なんで?」
「そない慌てて飛び起きるようなことなんて滅多にありませんから」
「あー、あはは…」
言えない。
目の前で純粋に心配してくれる純情な少年たちには絶対に言えない。
好きな子のちょっとアレな妄想が夢の中でエスカレートしたやなんて。
絶対に言えない。
「あっ、思い出すのもツラいなら良いんです。無理に話す必要はありませんからね」
「…ありがとう」
大石、ええヤツやな。
すまんけどそういうことにさせてもらうわ。
「毛利先輩、頭打ったって聞きましたけど大丈夫ですか?」
「!!」
落ち着きかけていた心臓が口から出そうになった。
振り向けば夢の中であんなことやこんなことをした彼女が心配そうに佇んでいる。
現実で何かした訳では無いのに強烈な罪悪感に襲われた。
「た、大したこと無いで。ちょっと擦りむいただけやから」
「そうですか、それなら良かったです」
「いやたんこぶ出来てますからね?」
「えっ」
白石、お前もええヤツやな。
でも言わんでええときもあるんや。
たんこぶと聞いた彼女が近付いてきて、傷に触らんようにソッと俺の前髪を上げた。
至近距離にある整った顔に思わず目を閉じる。
「わぁ、結構腫れてるじゃないですか。今日は安静にしておいた方が良いんじゃ…」
「大丈夫やって。ほっとったらその内治るから」
「でも頭だし…」
本気で心配してくれているのがヒシヒシと伝わっては来るが、近くに感じる彼女の匂いと目を閉じてしまったせいで昨夜の夢が鮮明にリプレイされていてそれどころではない。
「安静にしてほしい気持ちもあるんだけど、今日は俺と英二が越知先輩と毛利先輩に練習つけてもらうことになってて」
「えー、いいなぁ」
「自分しょっちゅう練習見てもろてるやん」
「それはそうだけど、私のは初心者講習だし」
大石の発言を皮切りに三人で話が弾んでいる。
交流を深めるのはとても良いことだ。
だが今じゃない。
夢のリプレイが進んで取り返しがつかないことになる。俺が。
「…そろそろ手離してもろてええ?」
「あっ、すみません。…先輩熱あります?」
「な、なんで?」
「顔真っ赤ですよ」
その指摘に大石が慌てて体温計を差し出してくれた。
大石、ホンマええヤツやな。
でも多分熱はない、熱を持ってるのは別のとこ…ってこの子の前では流石にマズイ頼む早よ静まってくれ!!
心配の視線が突き刺さる中、居たたまれなさと共に電子音が鳴った体温計を出せばやはり平熱だった。
「ほら平熱やったやろ」
「そうですね…でも無理はしないでくださいね」
「おん。そうするわありがとう」
会話が途切れた今がチャンスと、若干前屈みになりつつ足早に医務室を後にした。
もうこんな思いはこりごりやと思う反面続きを見たい気持ちもあり、グダグダの調子で挑んだ練習ではミスを連発し彼女の顔もマトモに見られなかった。
その日の練習後。
「やっぱり毛利先輩具合悪かったんですかね?ちょくちょく前屈みになってましたしお腹も痛かったとか…」
「「「……………」」」
「なんで誰も返事してくれないんですか?先輩方??」
「…今窓から猫が見えた。一緒に来てくれ」
「ホントですか!行きましょう!」
二人が部屋を出て行った後、大曲さんがソファの後ろに隠れていた俺に向けて一言。
「……後で越知に礼言っとけよ、毛利」
「ホンマすんません…」
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