Genius10
【手作りバレンタイン】
テニラビ時空
俺の好きな子は料理が苦手だ。
だからこそ俺の飯を遠慮なく食わせられるし胃袋を掴めているのだが。
そんな彼女が、挑戦するらしい。
「お菓子作りするん!?…卵割れるか!?」
「失礼ですね、ちゃんと割れますよ」
「この前卵握り潰したことバレてんじゃね?」
「丸井君、今のでバレたよ」
「握り潰したんや…」
忌々しそうに睨まれた丸井はチューインガムを膨らませながら笑っている。
あ、そうか。丸井と一緒に作るのか。
合宿所でもよくお菓子作りをしている丸井と一緒なら安心だ。
「でもホンマに大丈夫か?この前塩と白砂糖間違えそうになったやん」
「あっはははは!マジかよお前!」
「おいブン太、そんなに笑ってやるなよ……フッ」
「本音が漏れてるよ…もう暴露大会するのやめてください。そんなに心配なら見ててくださいよ」
腹を抱えて笑う丸井を宥める桑原の横でますます膨れっ面になってしまった彼女に謝り、お菓子作りを見学することにした。
しかし、引き出しからボウルが6~7個ほどゴロゴロ出てくる。
「どんだけ作るん?あ、種類が多いんか?」
「この5個は俺のです。残りはあっちの」
「…一緒に作るんちゃうん?」
「めっちゃ不安がられてんぞ」
「もー!見返してやりますから黙って見ててください!!」
「は、はい!」
怒られてしまった。
今は2月、お菓子作りといえば…と期待がないと言われると嘘になる。
それも好きな人からの手作りチョコなんて貰ったら天にも昇る気持ちになる、はずなのだが。
……俺、手伝った方がええんやろか。
そんな心配を余所に、意外にも作業はスムーズに進んでいく。
ただひとつ気になるのが新しい材料を入れる度に俺に報告に来ること。
バター、卵、砂糖、チョコレート、粉類まで全部。
心配しすぎていらんこと言い過ぎたかな…。
「180℃で30分、と」
そして混ざった材料がオーブンへと姿を消し一段落したので洗い物を手伝いながら聞いてみた。
「あれは何作ってるん?」
「ガトーショコラですよ」
「そうなんや。しっかしお菓子作るん上手いなぁ。めっちゃ手際よかったやん」
「私だってやる時はやるのです」
視界の端で丸井と桑原が肩を震わせてるのは見なかったことにしよう。
得意気にヘラを洗う彼女が可愛いから。
そうこうしている内にガトーショコラが焼き上がり、キッチンに良い香りが漂う。
竹串を刺した彼女が満足そうに笑うので成功したのだと理解した。
「これを1日置くので明日練習終わったら食べましょう」
「おん!……ん?」
「え?」
「今ナチュラルに俺も食べる流れになった?」
「苦手でした?」
「ちゃうちゃう!俺見てただけやし貰える思わんくて」
慌てて説明すると尚も不思議そうな顔で俺を見る彼女。
「手作りが良いって言ったの先輩じゃないですか」
「………ん?」
彼女の言葉に一瞬身に覚えがなく、その場で必死にここ最近の記憶を掘り起こした。
そういえば一週間ほど前、雑誌のバレンタイン特集を見ていた彼女に話し掛けたとき───
せっかくなら手作りのお菓子が食べたい。
───とか口走った記憶が甦ってきた。
目の前の彼女は作業が一段落したらしい丸井たちに出来上がったお菓子を見せている。
それを見た彼らが彼女を労っているのを見て、さっきの手際のよさは丸井たちと何度か練習した結果なのではと想像が出来た。
───この前卵握り潰したことバレてんじゃね?
最初はきっと上手くいかなかったのだろう。
それでも俺の何気ない一言のために必死になってくれたのだと思うと内から込み上げるものがあった。
「言うたわ、手作りのお菓子食べたいて」
「やっと思い出したんですか?こちとら大変だったんですよ」
「…おおきに。明日が楽しみやわ」
「期待しててください!」
満面の笑みでガトーショコラを冷蔵庫に入れる姿を見て、ホワイトデーはこれ以上に頑張らないとと気合いを入れたのは来月までの内緒。
「そいや何で材料入れる度に見せに来たん?」
「素人の手作りは何が入ってるか分からないじゃないですか」
「そうかもしれんけど、そこまでせんでも」
「じゃあ明日急に出して何も疑わずに食べたと思います?」
「………気ぃ遣てくれてありがとう」
「あ、俺らは試作品食べまくったんで気にしなくて良いっすよ」
「…お、おう」
テニラビ時空
俺の好きな子は料理が苦手だ。
だからこそ俺の飯を遠慮なく食わせられるし胃袋を掴めているのだが。
そんな彼女が、挑戦するらしい。
「お菓子作りするん!?…卵割れるか!?」
「失礼ですね、ちゃんと割れますよ」
「この前卵握り潰したことバレてんじゃね?」
「丸井君、今のでバレたよ」
「握り潰したんや…」
忌々しそうに睨まれた丸井はチューインガムを膨らませながら笑っている。
あ、そうか。丸井と一緒に作るのか。
合宿所でもよくお菓子作りをしている丸井と一緒なら安心だ。
「でもホンマに大丈夫か?この前塩と白砂糖間違えそうになったやん」
「あっはははは!マジかよお前!」
「おいブン太、そんなに笑ってやるなよ……フッ」
「本音が漏れてるよ…もう暴露大会するのやめてください。そんなに心配なら見ててくださいよ」
腹を抱えて笑う丸井を宥める桑原の横でますます膨れっ面になってしまった彼女に謝り、お菓子作りを見学することにした。
しかし、引き出しからボウルが6~7個ほどゴロゴロ出てくる。
「どんだけ作るん?あ、種類が多いんか?」
「この5個は俺のです。残りはあっちの」
「…一緒に作るんちゃうん?」
「めっちゃ不安がられてんぞ」
「もー!見返してやりますから黙って見ててください!!」
「は、はい!」
怒られてしまった。
今は2月、お菓子作りといえば…と期待がないと言われると嘘になる。
それも好きな人からの手作りチョコなんて貰ったら天にも昇る気持ちになる、はずなのだが。
……俺、手伝った方がええんやろか。
そんな心配を余所に、意外にも作業はスムーズに進んでいく。
ただひとつ気になるのが新しい材料を入れる度に俺に報告に来ること。
バター、卵、砂糖、チョコレート、粉類まで全部。
心配しすぎていらんこと言い過ぎたかな…。
「180℃で30分、と」
そして混ざった材料がオーブンへと姿を消し一段落したので洗い物を手伝いながら聞いてみた。
「あれは何作ってるん?」
「ガトーショコラですよ」
「そうなんや。しっかしお菓子作るん上手いなぁ。めっちゃ手際よかったやん」
「私だってやる時はやるのです」
視界の端で丸井と桑原が肩を震わせてるのは見なかったことにしよう。
得意気にヘラを洗う彼女が可愛いから。
そうこうしている内にガトーショコラが焼き上がり、キッチンに良い香りが漂う。
竹串を刺した彼女が満足そうに笑うので成功したのだと理解した。
「これを1日置くので明日練習終わったら食べましょう」
「おん!……ん?」
「え?」
「今ナチュラルに俺も食べる流れになった?」
「苦手でした?」
「ちゃうちゃう!俺見てただけやし貰える思わんくて」
慌てて説明すると尚も不思議そうな顔で俺を見る彼女。
「手作りが良いって言ったの先輩じゃないですか」
「………ん?」
彼女の言葉に一瞬身に覚えがなく、その場で必死にここ最近の記憶を掘り起こした。
そういえば一週間ほど前、雑誌のバレンタイン特集を見ていた彼女に話し掛けたとき───
せっかくなら手作りのお菓子が食べたい。
───とか口走った記憶が甦ってきた。
目の前の彼女は作業が一段落したらしい丸井たちに出来上がったお菓子を見せている。
それを見た彼らが彼女を労っているのを見て、さっきの手際のよさは丸井たちと何度か練習した結果なのではと想像が出来た。
───この前卵握り潰したことバレてんじゃね?
最初はきっと上手くいかなかったのだろう。
それでも俺の何気ない一言のために必死になってくれたのだと思うと内から込み上げるものがあった。
「言うたわ、手作りのお菓子食べたいて」
「やっと思い出したんですか?こちとら大変だったんですよ」
「…おおきに。明日が楽しみやわ」
「期待しててください!」
満面の笑みでガトーショコラを冷蔵庫に入れる姿を見て、ホワイトデーはこれ以上に頑張らないとと気合いを入れたのは来月までの内緒。
「そいや何で材料入れる度に見せに来たん?」
「素人の手作りは何が入ってるか分からないじゃないですか」
「そうかもしれんけど、そこまでせんでも」
「じゃあ明日急に出して何も疑わずに食べたと思います?」
「………気ぃ遣てくれてありがとう」
「あ、俺らは試作品食べまくったんで気にしなくて良いっすよ」
「…お、おう」