Genius10
【笑顔】
謎の相槌を読んでから読むのをおすすめします。
俺の好きな子は笑顔がとても可愛い。
いつものニコニコした顔も、ちょっと気の抜けたふにゃっとした顔も、いたずらっ子なキメ顔だってバッチリ。
俺の心臓を何回破壊したかもう覚えてないくらい、彼女はよく笑う。
そんな彼女が、この世の終わりのような顔をしてロビーのソファに座っている。
これでもかと体を丸め真っ青な顔を膝に乗せるその姿は安易に話し掛けられる雰囲気ではなく、俺以外の選手も遠巻きに見守るしかない。
「具合が悪くなる前に部屋に戻りなさいと言ったでしょう」
そこを無遠慮に話し掛けた一人の猛者がいた。
彼女の従兄弟の木手永四郎である。
徐に顔を上げか細く「だって…」と呟く彼女の肩に毛布を掛け、袋に入った何かを足と腹の間に横から差し込んでいる。
…ちょっと遠慮なさすぎんか?
「薬は?」
「ご飯食べてない…」
「水大量に飲んで流し込みなさい」
「うぅ…」
流石、幼少期を共に過ごし双子と呼ばれただけある。
彼女に必要なものが全部わかっているようだ。
しかし薬という単語が引っ掛かる。
よほど酷い状態なのか?もしかして持病があるとか…。
「あの、大丈夫か?」
「……毛利先輩」
心配しすぎて思わず話し掛けてしまった。
少しだけ頭を動かしこちらを向いた彼女は本当に具合が悪いのが一目で分かる。
口を開くのもしんどいのかそれ以上喋らない彼女の代わりに木手が話し始めた。
「すみません。ただでさえ目立つのにこんなところで丸まってたら気になりますよね」
「そうやけどそうやなくて…この子具合悪いんやろ?医務室連れてったろか?」
「いえ、しばらくしたら動けるようになりますから」
「ホンマけ?チラッと会話聞こえたけど、薬がどうとか言っとったやん。飲まなヤバいんちゃうん?」
「飲めば落ち着きはしますが義務ではないので」
くっ、なんかあしらわれてる気がする。
当の彼女はこっちに顔を向けたまま焦点の合わない目でどこかを見ている。
ほっとけって事なんか?こんな具合の悪そうな子を?
いや俺には無理や。
「ちゃーい☆そろそろ練習するで~!ん?どしたんそんな丸まって」
医務室に行こうと声を掛ける直前、今までの空気をぶち壊す勢いで種ヶ島さんがやって来た。
そういえば昨夜、明日は種ヶ島さんに練習を見てもらうとか言ってたっけ。
またゆっくりと頭を動かした彼女の顔を見て、種ヶ島さんの表情が変わった。
やっぱビックリするよな。
「顔真っ青やん。アレか、生理か?」
この場から一切の音が消えた。
言葉を発した本人だけは能天気に彼女からの返答を待っている。
チラリと横を見ると木手が眼鏡を上げながら溜め息をついている。心中察するに余りある。
「……えーしろぉ」
「俺に八つ当たりしないよ。だから早く部屋に戻りなさいと言ったでしょう」
「え?何なん当たり?そら大変やわ。温かくして寝てき」
「いやお前、ノンデリにも程があんだろ」
頭を掻きながら現れた大曲さんに首根っこを掴まれ、種ヶ島さんは強制退場した。
また体調落ち着いたら練習しよな、と叫び大曲さんに拳骨を食らいながら。
周りで心配していた選手たちもそそくさと練習に向かう中、この場の空気が重すぎて足が動かない。
…どうしよう。月光 さん、もうコートで待ってるよな。
「……すみません」
彼女が膝に突っ伏して小さな声で謝った。
恐らく今出せる最大の声なのだろうことが掠れ具合から伝わってくる。
俺も姉がいる身。女性特有の現象を知らないわけではない。
姉も機嫌が悪かったりしんどそうにしているときに「生理?」と聞くとキレるので、やはり異性に知られるのは気まずいものなのだろう。
「謝らんといて。自分は何も悪くないやん」
気付けばそう言葉を発していた。
彼女がまたゆっくりとこちらを向いてくれる。
「……さっきまで、何ともなかったんです」
「急にしんどなったんやな。動けんで辛かったやろ」
また膝に顔を埋めたと思ったらゆっくりと縦に頷いた。
「部屋まで運んだろ。今日は一日大人しく寝らんせーね」
「でも…」
「ここに放ってったら心配で練習できひんわ。俺のためやと思って大人しく運ばれといて」
返事を待たず出来る限り慎重に彼女を抱え上げる。
そう言えば木手がいない、どこに行ったのだろう。
「先輩…すみません」
「そういうときはお礼言うてくれた方が嬉しいわ」
「…ありがとう、ございます」
辛いはずなのに何とか笑顔を作ろうとする姿に俺の心臓がまた悲鳴を上げた。
「ほら着いたで…おっ?」
「ああ、やっぱり運んでくれましたね。ありがとうございます」
彼女の部屋に辿り着くと、木手がベッドメイクから必要なものの補充まで完璧にやって待っていた。
俺が運ぶと思って放って行ったな?
…いや、練習行ったんちゃうかと疑ってたからそこは謝っとく。ごめん。
その後月光 さんには遅いって怒られたけど事情を説明したら分かってくれたし、彼女が自室で休んでいるのが分かっているから安心やし、ロビーにほったらかして行かんで良かったと心の底から思った。
「ちゃうねん。ウチの妹割とオープンやからいつもの調子でついうっかり」
「言い訳してねーでサッサと謝れし」
「いだだだ!竜次、背中踏まんといて!」
練習後、少し体調が良くなったらしい彼女に土下座する(させられている)種ヶ島さんがいた。
彼女の顔には笑顔が戻っていた。
うん、やっぱりいつものニコニコ笑顔が一番かわええわ。
謎の相槌を読んでから読むのをおすすめします。
俺の好きな子は笑顔がとても可愛い。
いつものニコニコした顔も、ちょっと気の抜けたふにゃっとした顔も、いたずらっ子なキメ顔だってバッチリ。
俺の心臓を何回破壊したかもう覚えてないくらい、彼女はよく笑う。
そんな彼女が、この世の終わりのような顔をしてロビーのソファに座っている。
これでもかと体を丸め真っ青な顔を膝に乗せるその姿は安易に話し掛けられる雰囲気ではなく、俺以外の選手も遠巻きに見守るしかない。
「具合が悪くなる前に部屋に戻りなさいと言ったでしょう」
そこを無遠慮に話し掛けた一人の猛者がいた。
彼女の従兄弟の木手永四郎である。
徐に顔を上げか細く「だって…」と呟く彼女の肩に毛布を掛け、袋に入った何かを足と腹の間に横から差し込んでいる。
…ちょっと遠慮なさすぎんか?
「薬は?」
「ご飯食べてない…」
「水大量に飲んで流し込みなさい」
「うぅ…」
流石、幼少期を共に過ごし双子と呼ばれただけある。
彼女に必要なものが全部わかっているようだ。
しかし薬という単語が引っ掛かる。
よほど酷い状態なのか?もしかして持病があるとか…。
「あの、大丈夫か?」
「……毛利先輩」
心配しすぎて思わず話し掛けてしまった。
少しだけ頭を動かしこちらを向いた彼女は本当に具合が悪いのが一目で分かる。
口を開くのもしんどいのかそれ以上喋らない彼女の代わりに木手が話し始めた。
「すみません。ただでさえ目立つのにこんなところで丸まってたら気になりますよね」
「そうやけどそうやなくて…この子具合悪いんやろ?医務室連れてったろか?」
「いえ、しばらくしたら動けるようになりますから」
「ホンマけ?チラッと会話聞こえたけど、薬がどうとか言っとったやん。飲まなヤバいんちゃうん?」
「飲めば落ち着きはしますが義務ではないので」
くっ、なんかあしらわれてる気がする。
当の彼女はこっちに顔を向けたまま焦点の合わない目でどこかを見ている。
ほっとけって事なんか?こんな具合の悪そうな子を?
いや俺には無理や。
「ちゃーい☆そろそろ練習するで~!ん?どしたんそんな丸まって」
医務室に行こうと声を掛ける直前、今までの空気をぶち壊す勢いで種ヶ島さんがやって来た。
そういえば昨夜、明日は種ヶ島さんに練習を見てもらうとか言ってたっけ。
またゆっくりと頭を動かした彼女の顔を見て、種ヶ島さんの表情が変わった。
やっぱビックリするよな。
「顔真っ青やん。アレか、生理か?」
この場から一切の音が消えた。
言葉を発した本人だけは能天気に彼女からの返答を待っている。
チラリと横を見ると木手が眼鏡を上げながら溜め息をついている。心中察するに余りある。
「……えーしろぉ」
「俺に八つ当たりしないよ。だから早く部屋に戻りなさいと言ったでしょう」
「え?何なん当たり?そら大変やわ。温かくして寝てき」
「いやお前、ノンデリにも程があんだろ」
頭を掻きながら現れた大曲さんに首根っこを掴まれ、種ヶ島さんは強制退場した。
また体調落ち着いたら練習しよな、と叫び大曲さんに拳骨を食らいながら。
周りで心配していた選手たちもそそくさと練習に向かう中、この場の空気が重すぎて足が動かない。
…どうしよう。
「……すみません」
彼女が膝に突っ伏して小さな声で謝った。
恐らく今出せる最大の声なのだろうことが掠れ具合から伝わってくる。
俺も姉がいる身。女性特有の現象を知らないわけではない。
姉も機嫌が悪かったりしんどそうにしているときに「生理?」と聞くとキレるので、やはり異性に知られるのは気まずいものなのだろう。
「謝らんといて。自分は何も悪くないやん」
気付けばそう言葉を発していた。
彼女がまたゆっくりとこちらを向いてくれる。
「……さっきまで、何ともなかったんです」
「急にしんどなったんやな。動けんで辛かったやろ」
また膝に顔を埋めたと思ったらゆっくりと縦に頷いた。
「部屋まで運んだろ。今日は一日大人しく寝らんせーね」
「でも…」
「ここに放ってったら心配で練習できひんわ。俺のためやと思って大人しく運ばれといて」
返事を待たず出来る限り慎重に彼女を抱え上げる。
そう言えば木手がいない、どこに行ったのだろう。
「先輩…すみません」
「そういうときはお礼言うてくれた方が嬉しいわ」
「…ありがとう、ございます」
辛いはずなのに何とか笑顔を作ろうとする姿に俺の心臓がまた悲鳴を上げた。
「ほら着いたで…おっ?」
「ああ、やっぱり運んでくれましたね。ありがとうございます」
彼女の部屋に辿り着くと、木手がベッドメイクから必要なものの補充まで完璧にやって待っていた。
俺が運ぶと思って放って行ったな?
…いや、練習行ったんちゃうかと疑ってたからそこは謝っとく。ごめん。
その後
「ちゃうねん。ウチの妹割とオープンやからいつもの調子でついうっかり」
「言い訳してねーでサッサと謝れし」
「いだだだ!竜次、背中踏まんといて!」
練習後、少し体調が良くなったらしい彼女に土下座する(させられている)種ヶ島さんがいた。
彼女の顔には笑顔が戻っていた。
うん、やっぱりいつものニコニコ笑顔が一番かわええわ。