Genius10

【以心伝心】


「はぁ…」

「どうしたんですか毛利先輩、そんな溜め息吐いて」



合宿所のロビーにて、スマホを見つめながら大きな溜め息を吐いていると、月光ツキさんの後輩である氷帝の鳳が不思議そうに声を掛けてきた。



「あの子がコンビニに行ってしもた。声掛けてくれたら俺も行ったのに…」

「ああ、さっき丸井先輩や向日先輩と一緒に歩いてるの見ましたよ」

「そうなんや。『何かいるものありますか』てチャット入ってんねんけど、行く前に聞いてほしかったわ」

「あはは…タイミングが悪かったんでしょうか」



『今は何もいらん』と返事をした画面が映ったままのスマホにはまだ既読がつかない。
聞いといて無視か?いや、通知だけ見て開いてないだけかも。
中学生たちと楽しそうに買い物をしているであろう彼女を想像してガチめに凹む俺を鳳は何とか励まそうとしてくれている。
すまん、今は何言われてもテンション戻りそうにないわ…。



「ただいま戻りましたー」



するとエントランスからあの子の声が聞こえた。
同じように「戻りました」と数人の男子の声もする。
どうやら帰ってきたようだ。
目当てのものが買えたのか楽しかったのか、ウキウキしている彼女を正面から見れず目をそらす。
しかし彼女はそんなのお構いなしにこっちに歩いて来た。



「先輩、ただいま戻りました。どうしたんですか?」

「…何でもない」



視線を合わせようとする彼女から逃げてプイと横を向くと、彼女はコンビニの袋からガサガサと何かを取り出した。
そこには一袋に二つ入ったアイスの包み。



「パピコや。それ買うて来たん?」

「はい。お風呂あがったら半分こしましょうね」

「え」



ニッコリ笑って冷凍庫入れて来ます、とその場を離れた彼女が見えなくなるまで呆然と見送る。
何もいらんって送ったのに、お土産買ってきてくれたん?
しかも風呂上がりに一緒に食べようって…ことやんな?



「良かったですね、先輩」

「……おん」



隣の鳳がにこやかに話しかけるのを直視できず、俺は両手で顔を覆った。



「もう同棲中のカップルの会話やん」

「あれで付き合ってねえとか頭バグりそうだし」
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