壱頁完結物

「中也様」
仕事が終わりアジトに帰ると姐さんの妹が近寄って来た。
今日は薄紅色の着物か。
毎度の事ながら姐さんのセンスには脱帽する。
「何だ」
「お仕事お疲れ様でした。お茶をお入れしますが如何ですか」
「えっ」
「姉様には許可を頂いております」

突然の誘いに動きが止まる。


*****


「じゃあ頼む」
「畏まりました」
平静を装い誘いに乗るが正直顔の筋肉が緩み過ぎて誰にも見せられない。
彼奴が帰って来る前に如何にかしなくては。
「何だい中也ニヤニヤして。顔の筋肉無くなったの?」
「げっ、太宰…」
何でコイツは何時も何時も…!

そしてタイミング悪く彼奴も帰って来た。


*****


「太宰様、お戻りでしたか」
「やあ。今日の着物は薄紅色か、佳いじゃないか」
「有難う御座います、太宰様もお茶飲まれますか?」
彼奴の言葉に太宰が何かを察する。
「中也、抜け駆けは許さないよ」
「手前にゃ関係ねぇだろうが、姐さんの許可も出てる」

「私とお茶するのも許可出てる?」


*****


「はい、先日はお出掛けのお誘いを断ってしまったのでお詫びにと」
得意気な顔で見下ろしてくる太宰に血管が切れそうになる。
「でも私は君と二人でお茶がしたいなぁ」
「手前、後に来て何云ってやがる俺が先だ」
隣に腰掛けた太宰を引き摺り下ろそうとするがなかなか動かない。

「あの…」


*****


「この件は何時か決着着けなきゃって思ってたんだよねぇ」
「上等だコラァ!」
「あ、あの…」
彼奴が湯飲みを俺達の前に置く。
「お二人で話す事があったのですね。ではまた別の機会に致しましょう」
「「えっ」」
「またお手隙の時にでもお呼び下さい」

そう云って彼奴は去って行った。


*****


「…と云う訳でして」
「彼奴等、折角人がお膳立てしてやったと云うに」
溜め息を吐く私に妹も少し気を落とす。
「姉様、私がお二人ともっと接したいと思うのは傲慢なのでしょうか」
其の言葉に吃驚して聞き返すと
「何時もお二人で楽しそうにして居らすから…」

「お前は其れで佳いのじゃよ」



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