壱頁完結物

「太宰さん、壁ドンって知ってます?」
外出の際に耳にした言葉を投げ掛けてみると、珍しく彼は驚いて居る。
「何処で覚えたんだい…まあ佳いや、やってあげようか」
立ち上がり手招きする太宰さんに近寄ると、壁に押し付けられ逃げられなくなった。

「あ…、暗殺術ですか?」
「…違うよ」


*****


「何でそんな考えになるの」
「て、敵を逃がさないぞ的な…」
「ちがーう!!」
太宰さんは何故か怒ってしまった。
が、今度は顔の横に優しく手が置かれ、ゆっくりと顔が近付いて来る。
「だ、太宰さん…!」
思わず顔を背けると彼はニヤリと笑う。
「今のが本物。ドキドキした?」

やられた…。


*****


「乱歩さん壁ドンって知ってます?」
外出の際に耳にした言葉を投げ掛けてみると、彼は一寸悩んでから口を開いた。
「隣の部屋が五月蝿い時に叩くやつでしょ」
「なるほど」
「あ、でも」
急に立ち上がった彼は私を壁に押し付け、顔を覗き込んできた。

「此れも壁ドンなんだって、知ってた?」


*****


「芥川、壁ドンって知ってる?」
世間話のつもりで投げ掛けてみると
「壁を壊す事ですか」
と真顔で返して来た。
「違うなぁ。そうだ、やってあげるよ」
そう云って彼を壁際まで連れて行き両手を顔の横に置くと
彼の顔が見た事も無い程真っ赤になった。

何だか申し訳ない気持ちになった。


*****


「中也、壁ドンって知ってる?」
世間話のつもりで投げ掛けてみると、一瞬動きが止まった後、鼻で嗤う彼。
「なんだ、やって欲しいのか?」
「出来るもんならやってみ」
売り言葉をつい購った瞬間、私は抱え上げられ、壁に縫い付けられ、顎を掬われた。

「何か云うことはねぇか」
「…ごめん」



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