短編

「今日は嘘を吐く日ね!」
「四月一日は終わったよ」
「佳いの!ほら何か云って!」
決めたら覆さない其の精神は素晴らしいが今は発揮しないで欲しい。
「もう、我が儘な乱歩さん嫌い!」
瞬間、彼は一瞬驚いて目からポロポロと雫が零れた。

「嘘だよ…」
「不意討ち食らった気分…」


*****


スーツの女性に話し掛けられている芥川に遭遇。
真逆軍警ではと慌てて駆け寄ると、私に気付いたのか彼が振り向いた。
だが突然肩を抱かれ
「連れが来たので失礼する」
と訳の解らぬ事を云い路地裏へ引き込まれる。
「何があったの」
「僕を茶に誘うのは貴女だけで充分だ」

逆ナンだったのか。


*****


女性と親しげに話す太宰さんに遭遇。
困った顔で手を振り女性と別れると一直線に私の処へやって来た。
「やぁ、見られちゃったね」
「断ったんですか?」
「勿論断ったよ」
「折角の心中候補が」
「私が心中したいのは君だけだよ」

「心中は嫌ですが太宰さんは好きですよ」
「…今のは狡いなぁ」


*****


迷子の少女に駄菓子をあげる乱歩さんに遭遇。
超推理で親の居場所を特定し引き渡す時に
「大きくなったらお嫁さんにしてね!」
と云われていた。
「困ったなぁ。そう思わない?」
「流石です、バレてましたか」
「僕の結婚相手は君なのにね」

「それは初耳です」
「うん、今初めて云ったからね」


*****


「国木田さん、頼まれてた仕事終わりました」
報告に来たけど忙しいのか聞こえていない様子で
「国木田さん…、国木田さんってば!」
「!!」
後ろから抱き付くと漸く気付いてくれたのだが
「は、離れろ!!」
何故か国木田さんの顔が真っ赤。

「国木田君はムッツリだねぇ」
「黙れ太宰!!」


*****


仕事中、何故か急に涙が止まらなくなった。
隣の席の国木田さんがギョッとしハンカチをくれる。
敦くんが心配の言葉をくれる。
乱歩さんはお菓子をくれる。
「如何したんだい。可愛い顔が台無しじゃあないか」
太宰さんが私を包んでくれる。
其処で漸く涙が止まった。

少し根詰めすぎたみたい。


*****


探偵社が襲撃を受けた際に怪我をしてしまった。
大した傷でもないのに、乱歩さんは何故か私を抱き締めて離さない。
「ごめん、ごめんね。僕が異能力を使えたら、君の事を護れたかもしれないのに」
其の言葉が傷口に染み込んで痛みが引いていく。

貴方は既に立派な異能力者ですよ。


*****


少し遅れると云う太宰さんを待ちながら珈琲に口を付ける。
「済まない、待たせたね」
後ろからの声に振り返ると、其処には小さなブーケを持った彼。
「太宰さん、此れは…?」
「初デートだから、贈り物をさせて貰おうと思ってね」

さぁ行こうか、と手を引く彼からはふわりと花の薫りがした。


*****


「白雪姫を知っているかい」
「唐突ですね太宰さん」
「あのお話の最後は王子様の接吻で姫が目覚めるだろう」
「そうですね」
「でも、接吻によって王子にも毒が移り死んでしまったとしたら?」
「嫌な予感」
「良い心中方法だと思わない?早速試してみようじゃあないか!」

「お断りします!」


*****


昔よく読んで貰った赤ずきんの絵本が出て来た。
「赤ずきんって途中で寄り道してからおばあちゃんの家に行くんだよね」
「そうですね」
隣で乱歩さんが物珍しそうに絵本を覗きこむ。
「この子僕より偉いよね!寄り道してもちゃんと辿り着くんだから!」

「乱歩さんは其の儘で良いです」


*****


何時も飛び込む目の前の川に今日は私以外の人間が流れていた。
「大丈夫かい?」
「有難う御座いました」
思わず助けてしまった彼女の体は明らかに他人が付けた傷で覆われている。
聞けば連れの男に毎日傷付けられて居たようだ。

「私の名前は太宰治、折角死ぬなら一緒に心中は如何ですか?」


*****


「うぅ~」
「眠くなると機嫌が悪くなる癖は如何にかしろ」
もう月も高いのに、独歩さんは手帳の見直しに忙しいらしく全然寝る気配が無い。
「独歩さんまだ?」
「…分かった」
袖を引っ張ると観念したのか、彼はやっと布団に入ってくれた。
「これで満足か?」

「お休み、ゆっくり寝ろよ」


*****


「あれ、お昼寝してる」
今日は外に出る仕事も無いのか自分の机でスヤスヤ眠る名探偵。
背中に当たる太陽が気持ち善さそう。
「佳いなぁ」
「じゃあ君も一緒に寝よ」
急に腕を引っ張られ彼の足の間にスッポリ収まった。
「はい、お休み」

太陽を吸った彼は干したての布団みたいに温かかった。


*****


バチン、と云う音と共に真っ暗になる部屋。
「停電!?」
「何も見えませんわ!」
慌てふためく探偵社で誰かに腕を捕まれた。
「ぎゃっ!」
「そんな色気の無い声を出さないでくれ給えよ」
耳元で聞こえたのは太宰さんの声。
「ピンチはチャンス、だね」

そのまま抱き締められ手探りで接吻された


*****


駄目元で誘ったら念願叶って二人で遊園地デート。
しかし…
「あれ乗りたい!」
「嗚呼」
「次はあっち!」
「解った」
要望を云うのは私ばかり。
やはり嫌だったのだろうか…
「ねえ龍之介、」
「次は何れだ」
私の言葉を待つ其の顔は微笑を浮かべていて。

「じゃあ、観覧車…」
「嗚呼、行こう」


*****


最近あの子が構ってくれない。
ご飯もお茶も外出も全部社長と一緒。
「最近社長と何してるの?」
「推理出来ないの?」
「手掛かりが少なすぎるよ」
膨れっ面で彼女を見つめれば勝ち誇ったような顔。
「乱歩さんに告白したいって話をね」
「……えっ!?」

吃驚し過ぎて椅子から転げ落ちた。


*****


「太宰さん」
「何かな?」
「太宰さんの目って綺麗ですよね」
急に話し掛けられたと思ったら予想もしない事を云われドキッとする。
「それだけ綺麗だと何でも出来そうですね」
「ふふ、惚れちゃった?」
「はい、なので…」
其の隣では国木田君が大量の書類を持っている。

「仕事して下さいね」


*****


乱歩さんと付き合って初めてのデェト。
でも鼻唄を歌う彼の手はポケットに入れられた儘。
最初だしと我慢していたら、目の前にスッと手が出て来た。
「本当に君は甘えるのが下手だなあ。ほら」

「乱歩さん大好きです!」
満面の笑みで手を取れば
「僕もだよ」
なんて一寸照れ臭そうな彼。


*****


「お菓子購いに行くよ」
が二人の合図。
誰も居ない倉庫で秘密の会瀬。
「んっ…乱歩さん…」
「ふふ、可愛い」
柔かな接吻の後に優しく笑う彼が大好き。
「早く仕事終わらないかなぁ」
体のラインをなぞる彼の手を慌てて掴む。
「もう…私だって、我慢してるんですよ」

「今夜は覚悟しといて」


*****


「テストぉ?」
顔面蒼白な私に乱歩さんは心底呆れた顔をする。
「真逆、赤点何て云わないよね?」
「そ、そんな事は…」
実際微妙な処だなんて口が裂けても云えないが彼は見透かしているようで。
「しょうがない、終わったら褒めてあげるから」
頭を撫でる手は優しくて。

「頑張っておいで」


*****
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