壱頁完結物


「あかちゃんってどやってできるの?」
梶井の娘は白衣を着て膨れていた。
実験台の上に大の字に寝転がり、棚から瓶を取り出す梶井を見つめる。
「君は好奇心の塊だな。研究者に向いているよ」
薬品を机に並べる梶井に釣られて娘が起き上がった。
「だってあたし、ぱぱとままからうまれたんでしょ?」


*****


「どやってうまれたのかしりたい」
「君は純粋で良い子だ」
頭を撫でられ嬉しそうな娘はふと、大量の瓶に首を傾げた。
「これは?」
「此れは、人間を形成する成分が入っているんだ。理論上此れらを混ぜ合わせると人間が出来る計算なんだ」
「すごーい!じゃああたしもこれからできたの!?」
「いいや」


*****


「此れらで人間の“外側”は造れるけど、大事な物が創れないんだ」
「だいじなもの?」
目を真ん丸にする娘の胸をトントンと叩く。
「“心”だ」
「こころ?」
「君が楽しい、嬉しい、悲しいと思う心は此の成分からは創れないんだよ」
娘を抱き上げしっかりと抱き締めるとくすぐったいのか笑い声が上がった。


*****


「“心”を形成する一番の成分はね、愛なんだ。パパとママが互いを愛し合い、生まれて来る君に愛を注いだからこそ君は生まれて来たんだよ」
「よくわかんない」
「今は判らなくて良いさ。何時か結婚したい程好きな人が出来たら自然と理解するよ」
娘を机に下ろすと満足したのかニコニコと笑っていた。


*****


「ご満足頂けたかな?」
少しちゃかす梶井に娘はまた抱き着いた。
「あたし、ぱぱとままがだいすき!」
「僕もだよ。此れからもパパとママは君に沢山愛を注ぐから、元気に育ってくれるね?」
「うん!」
「さて、沢山喋って喉が渇いたな。お茶にしようか」
大きく頷く娘に梶井の頬が緩んだ。



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