「お先に失礼します」
国木田は定時きっかりに仕事を終わらせた。
其れは何時もの事なのだが
「国木田さん、此れから何処か行くんですか？」
敦の質問に肩を跳ねさせる国木田。
「…何故そう思う」
すると隣の太宰がニヤリと笑いながら頬杖を付いた。

「国木田君は顔に出やすいからねぇ」


*****


二人の視線に耐えられなくなり、国木田は逃げる様にその場を後にした。
其れを見てふむ、と呟く乱歩。
「太宰、国木田に女でも紹介した？」
「偶々居合わせただけですよ」
鼻唄混じりに席を立つ太宰に敦が話し掛ける。
「何処に行くんですか」

「決まってるじゃないか、会瀬を見守るのだよ」


*****


「お待たせしました」
「お仕事お疲れ様です」
社から少し離れた喫茶店に、国木田は先日名刺を渡した女性と一緒に居た。
珈琲を飲みながら談笑する二人を離れた席から覗き見る太宰と敦、と
「何で手前等が此処にいんだよ」
「いや君の方こそ何で居るのさ中也」

マフィアの幹部様。


*****


「偶々此処で仕事だったんだよ」
「はいはい」
「本当だっつってるだろ！」
「ちょ！声大きいですって！」中也の大声で注目を集めてしまった。
「国木田君達には何とか気付かれてないね」
「僕もう帰って良いですか…」
「おー帰れ帰れ」
「駄目、帰らないで」

「どっちですか…」


*****


「それでその人蹴り飛ばしちゃって」
「自業自得ですね」
内容は物騒だが和やかに談笑を続ける二人。
「国木田さんって話しやすいですね」
「そ、そうですか？」
「ええ、ついつい喋りすぎちゃう」
「…！」
控えめに笑う女性に国木田の顔が紅潮する。

「ご迷惑じゃないですか？」


*****


「いえそんな、迷惑等とは」
突然の質問に慌てて否定する国木田にまた笑う女性。
「またお話させて下さい」
「ええ、此方こそ」
腕時計を確認して席を立つ女性に続いて国木田も立ち上がる。
「では家までお送りします」
「すみません、反対方向なのに」

入り口で話す二人に誰かが近付いてきた。


*****


「よお、奇遇だな」
黒い帽子に黒い外套のマフィア幹部が声を掛けた。
「あら中原さん」
律儀に挨拶を返す女性に国木田の顔が険しくなる。
「今帰りか？」
「ええ、国木田さんに送って頂くんです」
自分に笑顔を向けられ一瞬で眉間の皺を解く。

「あれ？あの人何時の間に…」
「修羅場だねぇ」


*****


国木田の家が自分と逆方向だと云う話を聞き、中也の口角が上がる。
「だったら俺が送ってやるよ。家その辺だしな」
「えっ、でも」
狼狽える女性の後ろで中也を睨み付ける国木田。
「何なら手前も来い。どうせ車だ」
懐から車のキーを出し、含み笑いをする中也に

国木田は承諾した。


*****


先に女性を家まで送る。
「すみません、国木田さんからの方が」
「良いんですよ。夜遅くなっては大変ですから」
と云いつつ運転席の中也に視線を送ると何やら楽しそうだ。
「俺は別に手前を先に降ろしても佳かったんだがな」
「巫山戯た事を」
「割と本気だぜ？」

そして女性は送り届けられた。


*****


「太宰なら兎も角、手前と恋敵になるとはな」
「全くだ」
彼女が去った瞬間顔から笑顔が消える二人。
「抜け駆けたぁ狡ぃじゃねえか」
「彼女から連絡が来たんだ」
「どうせ嘘だろ」
と余裕の中也に国木田は本腰を入れた。

「明日国木田君を揶揄うネタが出来たね」
「止めて下さい太宰さん…」



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