壱頁完結物
「太宰さん聞いて!」
「また変な男に引っ掛かったのかい?」
うずまきにたまに来る女の子。
最初は口説くつもりで話し掛けたが、今では愚痴の聞き役になっている。
何故かって?
私と心中は嫌なんだってさ。
「付き合うまでは俺が養うとか云って付き合った途端に金貸せってさ」
「酷い男だね」
*****
「私にすれば良いのに」
「太宰さんすぐ死のうとするから嫌」
全く手強いなあ。
「休憩時間は終わってるぞサッサと仕事しろ太宰!」
「やあ国木田君」
其処に鬼の形相の国木田君がやって来た。
が、隣の女の子を見て動作を止める。
「し、失礼しました」
「お気になさらず」
*****
余所行きの笑顔を浮かべる女の子に複雑な顔をしていると、国木田君が微動だにしないのに気が付いた。
「…国木田君?」
私の声で我に帰った国木田君は一つ咳払いをする。
「仕事に戻れ」
「今此の子の愚痴を聞いていて忙しいのだよ」
私の冗談に血管が浮き上がるのが見える
「怒られてやんの」
*****
「あのねぇ…」
君のせいなんだけど、と云いたい処だが云えば何をされるか解らないので黙っておく。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「どちらかに用事ですか?」
席を立つ女の子に国木田君が話し掛けると
「また怒っちゃうかもしれませんが」
「太宰さん荷物持ちにお借りしますね」
*****
無言で此方を睨み付ける国木田君。
でも彼女も強情で断れないのも事実。
「あ、そうだ」
最善策を閃いた。
「国木田君も一緒に行こう!」
「…は?」
「午後は外回りだろう?ついでだと思ってさ!」
我ながら完璧な策だ。
思惑通り国木田君は揺らいでいるし。
「…お邪魔なのでは?」
*****
「ご心配なく。彼は本当に只の荷物持ちですから」
同意を求める彼女に渋々頷くと、少しだけ国木田君の顔が晴れやかになった、気がする。
「15時に帰社、それで良ければ」
「充分です」
ニコリと笑う彼女に国木田君が目を逸らす。
…おや?
「国木田君は判りやすいなぁ」
「行くよ太宰さん」
*****
「国木田君…少しは手伝ってよ」
「駄目よ太宰さん。荷物持ちは貴方一人なんだから」
両手一杯に紙袋を下げ、そろそろ手が千切れそうなのだが救いの手は差し伸べられない。
「国木田さんはお仕事なの」
「私も仕事中なのだけど」
「サボってた奴が何を云う」
辛辣過ぎて涙が出そう。
*****
紙袋が千切れるか腕が千切れるかの瀬戸際を彷徨って居ると後ろから声がした。
「随分情けねえ面してんじゃねえか太宰」
げっ…此の声は…。
「中原中也」
「探偵社の国木田か」
最悪だ、私を揶揄いに中也が寄って来た。
彼女が国木田君に尋ねる。
「お知り合いですか?」
「ええまあ何と云うか」
*****
「へぇ、太宰にしちゃ上玉だな」
彼女の顔を覗き込みながら中也が笑う。
「彼は荷物持ちです」
「そりゃ佳い、傑作だ」
後ろからでも莫迦にした顔が見えて腹が立つ。
けれど中也は興味を彼女に移したのか懐から一枚のカードを出して彼女に渡す。
「生憎仕事中でな、生きてたらまた逢おうぜ」
*****
腹立つ位颯爽と立ち去る中也を早々に視界から外し、彼女の手にするカードを覗き見る。
「…逢う気満々じゃないか」
ねえ?と国木田君を見ると、少し不機嫌そうな顔をしていた。
「時間がありません、そろそろ行きましょうか」
「あ、はーい」
一歩出遅れたねえ国木田君。
*****
漸く荷物から解放され息を吐く私の横で談笑する二人。
「太宰に愚痴を、ですか」
「ふふ、お恥ずかしい」
何がお恥ずかしいのか。
何時も大声で喋ってる癖に。
「太宰さんもなかなか捕まらないですし」
「そんなに話す事があるんですか」
「色々溜まっちゃって」
「それは…大変ですね」
*****
「俺で良ければ聞きますよ」
国木田君の営業スマイル以外の笑顔なんて初めて見た。
「太宰が掴まらない時にでも呼んで下さい」
まるで中也の様に名刺を差し出して彼女に渡す。
「遠慮しませんよ?」
「ええ、遠慮なくどうぞ」
少し安心した表情の国木田君。
「国木田君、そろそろ15時だよ」
*****
帰路に着きながら今日の出来事を振り返る。
元彼の愚痴を云った彼女は其の日に二人の男に目を付けられた。
一人は理想主義者、もう一人はマフィア幹部。
「本当、変な男を引っ掻けるのが上手いなぁ…」
「急げ太宰、もう時間がない」
「…困ったねぇ」
この物語の行方を見守るとしようかな。
.
「また変な男に引っ掛かったのかい?」
うずまきにたまに来る女の子。
最初は口説くつもりで話し掛けたが、今では愚痴の聞き役になっている。
何故かって?
私と心中は嫌なんだってさ。
「付き合うまでは俺が養うとか云って付き合った途端に金貸せってさ」
「酷い男だね」
*****
「私にすれば良いのに」
「太宰さんすぐ死のうとするから嫌」
全く手強いなあ。
「休憩時間は終わってるぞサッサと仕事しろ太宰!」
「やあ国木田君」
其処に鬼の形相の国木田君がやって来た。
が、隣の女の子を見て動作を止める。
「し、失礼しました」
「お気になさらず」
*****
余所行きの笑顔を浮かべる女の子に複雑な顔をしていると、国木田君が微動だにしないのに気が付いた。
「…国木田君?」
私の声で我に帰った国木田君は一つ咳払いをする。
「仕事に戻れ」
「今此の子の愚痴を聞いていて忙しいのだよ」
私の冗談に血管が浮き上がるのが見える
「怒られてやんの」
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「あのねぇ…」
君のせいなんだけど、と云いたい処だが云えば何をされるか解らないので黙っておく。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「どちらかに用事ですか?」
席を立つ女の子に国木田君が話し掛けると
「また怒っちゃうかもしれませんが」
「太宰さん荷物持ちにお借りしますね」
*****
無言で此方を睨み付ける国木田君。
でも彼女も強情で断れないのも事実。
「あ、そうだ」
最善策を閃いた。
「国木田君も一緒に行こう!」
「…は?」
「午後は外回りだろう?ついでだと思ってさ!」
我ながら完璧な策だ。
思惑通り国木田君は揺らいでいるし。
「…お邪魔なのでは?」
*****
「ご心配なく。彼は本当に只の荷物持ちですから」
同意を求める彼女に渋々頷くと、少しだけ国木田君の顔が晴れやかになった、気がする。
「15時に帰社、それで良ければ」
「充分です」
ニコリと笑う彼女に国木田君が目を逸らす。
…おや?
「国木田君は判りやすいなぁ」
「行くよ太宰さん」
*****
「国木田君…少しは手伝ってよ」
「駄目よ太宰さん。荷物持ちは貴方一人なんだから」
両手一杯に紙袋を下げ、そろそろ手が千切れそうなのだが救いの手は差し伸べられない。
「国木田さんはお仕事なの」
「私も仕事中なのだけど」
「サボってた奴が何を云う」
辛辣過ぎて涙が出そう。
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紙袋が千切れるか腕が千切れるかの瀬戸際を彷徨って居ると後ろから声がした。
「随分情けねえ面してんじゃねえか太宰」
げっ…此の声は…。
「中原中也」
「探偵社の国木田か」
最悪だ、私を揶揄いに中也が寄って来た。
彼女が国木田君に尋ねる。
「お知り合いですか?」
「ええまあ何と云うか」
*****
「へぇ、太宰にしちゃ上玉だな」
彼女の顔を覗き込みながら中也が笑う。
「彼は荷物持ちです」
「そりゃ佳い、傑作だ」
後ろからでも莫迦にした顔が見えて腹が立つ。
けれど中也は興味を彼女に移したのか懐から一枚のカードを出して彼女に渡す。
「生憎仕事中でな、生きてたらまた逢おうぜ」
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腹立つ位颯爽と立ち去る中也を早々に視界から外し、彼女の手にするカードを覗き見る。
「…逢う気満々じゃないか」
ねえ?と国木田君を見ると、少し不機嫌そうな顔をしていた。
「時間がありません、そろそろ行きましょうか」
「あ、はーい」
一歩出遅れたねえ国木田君。
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漸く荷物から解放され息を吐く私の横で談笑する二人。
「太宰に愚痴を、ですか」
「ふふ、お恥ずかしい」
何がお恥ずかしいのか。
何時も大声で喋ってる癖に。
「太宰さんもなかなか捕まらないですし」
「そんなに話す事があるんですか」
「色々溜まっちゃって」
「それは…大変ですね」
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「俺で良ければ聞きますよ」
国木田君の営業スマイル以外の笑顔なんて初めて見た。
「太宰が掴まらない時にでも呼んで下さい」
まるで中也の様に名刺を差し出して彼女に渡す。
「遠慮しませんよ?」
「ええ、遠慮なくどうぞ」
少し安心した表情の国木田君。
「国木田君、そろそろ15時だよ」
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帰路に着きながら今日の出来事を振り返る。
元彼の愚痴を云った彼女は其の日に二人の男に目を付けられた。
一人は理想主義者、もう一人はマフィア幹部。
「本当、変な男を引っ掻けるのが上手いなぁ…」
「急げ太宰、もう時間がない」
「…困ったねぇ」
この物語の行方を見守るとしようかな。
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