短編
最近、芥川先輩の様子が可笑しい。
普段からは想像も出来ない程に落ち着きが無く、時々何かを思い出して顔を赤らめる。
体調が悪化しているのだろうか、それとも…
「龍之介さん!」
聞き覚えの無い声に振り向いた先輩の顔は「愛しい」と云う言葉が似合った。
嗚呼、先輩は恋をしているのだ。
*****
「太宰さん、ポートマフィアに掴まってたって聞きましたけど」
「えっ、心配してくれるの!?」
「報告が聞きたいだけです」
そう云うとあからさまに膨れる彼は直ぐに立ち直ってニコリと嗤う。
「内股で捨て台詞を吐く帽子野郎に会ったよ!」
「…そうですか」
心配して損した。
*****
「乱歩さん、焼き菓子を作ったんです」
と目の前に差し出せば秒で口に含む彼。
美味しい!なんて嬉しそうな顔に微笑んでいると手を出して来る。
「まだあるんでしょ、全部頂戴」
「え、全部ですか?そんなに気に入ってくれたんですか」
「うん、他の子達に渡したくない位にね」
*****
「お仕事は如何したんですか」
「そんな国木田君みたいな事云わないで構ってよ~」
此方は絶賛仕事中だというのに、太宰さんに後ろからホールドされ、仕事が進まない。
「仕方ないですね…」
クルリと振り向いた先に在る彼の鼻先に唇を寄せた。
「お仕事終わったらご褒美あげます」
*****
「見てみて、綺麗なビー玉!」
「わぁ、此れは珍しいですね」
二人して日に翳したビー玉を観察する。
「あ、君の顔がビー玉色になってる。すっごく可愛い」
そう云うとまるで子供の様な軽いキスを頬に貰った。
「ビー玉は社長に上げるけど、君は僕のだよ」
こうして今日も絆されていく。
*****
何時も在る物が急に無くなると吃驚する様に、昨夜は隣に居た筈の芥川が居なくて思わず飛び起きる。
隣室から漏れる光が見えて扉を開けると、彼は少し大きめの咳をした後薬を呑んで居た。
「嗚呼、お早う」
「布団に居ないから吃驚した」
「僕はお前を置いては行かぬ」
*****
「お早う!絶好の心中日和だよ!」
起きて最初に聞いた言葉が不吉過ぎて再度布団に潜り込む。
「ねぇねぇ起きてよ」
「嫌です、まだ死にたくないです」
「じゃあ一緒に探偵社に行こう」
「…そもそも如何やって入って来たんですか」
外に敵が居たから撃退してくれた何て私はまだ知らない。
*****
「乱歩さん、朝です」
「ん~」
「遅刻しますよ」
「……」
私に引っ付いて離れない二十六歳児を起こさなければ二人共仕事に遅刻してしまう。
「早く出社したら社長褒めてくれますって」
「…君は褒めてくれないの?」
薄目を開けて上目遣いなんて確信犯だ。
「沢山褒めますよ」
「じゃあ起きる」
*****
席に居ないと思ったらソファで居眠り中の太宰さん。
「国木田さんが探してましたよ」
揺さぶっても起きる気配が無いので、寝ている間に悪戯でもと眠り姫を起こす王子様の真似てキスを落とした直後
私はガッチリと捕らえられた。
「姫と王子様逆じゃない?」
「起きないからですよ」
*****
ポートマフィアから解放された私と太宰さん。
「最後に居た方は誰だったんですか」
当時意識が明瞭しなかった私は彼に尋ねると
「気になるかい?」
彼は何故か面白そうに笑った。
「お嬢様口調の素敵帽子君だ。覚えておき給え」
「二度目はなくってよ!」は空耳じゃなかったのか。
*****
「国木田さんの理想の女性ってどんな人何ですか?」
隣の席の部下からの唐突な質問にキーを叩く指が止まる。
「…仕事中だぞ」
「だって敦君が手帳見たって云うから」
敦を睨むと逃げる様に仕事に戻る。
「教えて下さいよ国木田さん!」「断る」
お前の名前が書いて在るなんて云えるか!
*****
「何か面白い事件無いかなぁ」
暇なのか机に突っ伏す乱歩さん。
「自分で事件作れば佳いじゃないですか」
「如何やって?」
「私を殺してみるとか」
はい、と玩具の銃を渡すと子供みたいに目を輝かせて無遠慮に此方に向けて来た。
「バキューン!!」
「えっ、何で吐血してるの!?」
*****
軍警の応援に呼ばれ、案内係として乱歩さんと現場へ。
何度見ても慣れない死体を視界に入れられずに居ると
「ホラ、此れ貸してあげるから」
と帽子を目深に被せられた。
「死者はちゃんと弔わないと」
「…有難う御座います」
其の帽子は現場に似つかわしく無い甘い匂いがした。
*****
朝、味噌汁の匂いが部屋に広がる。
眠い目を擦りながら台所に向かうと満足そうに味見をする愛しい彼女。
「お早う、太宰さん」
笑顔で振り向く君が眩しくて、後ろから抱き締めて作業を続ける彼女の頬に口付けた。
「という夢を見たから同棲しようよ」
「唐突ですね佳いですよ」
「えっ」
*****
「何れが佳いと思う?」
「他人への贈物何て解りませんよ」
「君の意見が欲しいのだよ」
太宰さんが意中の女性への贈り物を一緒に選んでくれと頼んで来て早三時間。
「漸く買えた」
「佳かったですね」
彼は徐に袋を私に突き出す。
「では此れを君に」
意味が解らない程君は莫迦じゃないだろう?
*****
国木田さんが怒ってる。
原因は私がミスをしたからだと解って居るのだが、頭痛のせいで頭に入って来ない。
「国木田…一寸は察してあげなよ」
痺れを切らしたのか乱歩さんが外套を貸してくれた。
「女の子は大変なんだよ」
彼是心配してくれる乱歩さんに国木田さんは何かを悟ったらしい。
*****
「彼シャツってのをやってみたい」
「また君は何処で覚えて来るんだい」
呆れ顔の太宰さんに外套を借りる。
「わぁ大きい、太宰さんの匂いする」
「…引き摺らないでくれ給えよ」
裾を上げながらふと思う
「何か太宰さんに抱っこされてるみたい!」
其の瞬間外套を脱がされ直に抱き締められた。
*****
「彼シャツってやつやってみたい」
「其れってあれでしょ、やむを得ず着替える時とかにするやつでしょ」
「あれ、よくご存知で」
褒めるとふんぞり返る26歳児に再度お願いするも断られ続ける。
此方が折れようと思った矢先。
「明日の朝なら佳いよ、その代わり」
「今夜は楽しみにしてるね」
*****
「つれないなぁ」
「そんな事云って無いで仕事して下さい」
怒られたので渋々机に戻るが書類の山を見て一気にやる気が失せる。
「ねぇ、手伝って…」
「其の位直ぐ終わるでしょう」
「終わるように見える?」
「え、だって太宰さんですし」
其れは褒めてるの?貶してるの?
*****
太宰が俺の墓に来た。
俺が視えて居るのか、何やら話し始める。
「織田作、武装探偵社と云う組織に入ったよ」
其処は異能力者を集めて人助けを行う処らしい。
「其の中にね、とても可憐な美少女が居るのだよ」
「私は其の子に、恋をしたようだ」
そう語る太宰の顔を見て、俺は心から安堵した。
*****
「今日も可憐で美しいね」
「愛しているよ」
太宰さんの膝に乗せられたかと思うとそんな事を云われ続けて早30分。
国木田さんも怒る気力が尽きたのか黙々と仕事をしている。
「太宰さんあの」
「ふふ、何かな?」
意を決して聞いてみる。
「また毒キノコでも食べましたか」
号泣されてしまった。
.
普段からは想像も出来ない程に落ち着きが無く、時々何かを思い出して顔を赤らめる。
体調が悪化しているのだろうか、それとも…
「龍之介さん!」
聞き覚えの無い声に振り向いた先輩の顔は「愛しい」と云う言葉が似合った。
嗚呼、先輩は恋をしているのだ。
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「太宰さん、ポートマフィアに掴まってたって聞きましたけど」
「えっ、心配してくれるの!?」
「報告が聞きたいだけです」
そう云うとあからさまに膨れる彼は直ぐに立ち直ってニコリと嗤う。
「内股で捨て台詞を吐く帽子野郎に会ったよ!」
「…そうですか」
心配して損した。
*****
「乱歩さん、焼き菓子を作ったんです」
と目の前に差し出せば秒で口に含む彼。
美味しい!なんて嬉しそうな顔に微笑んでいると手を出して来る。
「まだあるんでしょ、全部頂戴」
「え、全部ですか?そんなに気に入ってくれたんですか」
「うん、他の子達に渡したくない位にね」
*****
「お仕事は如何したんですか」
「そんな国木田君みたいな事云わないで構ってよ~」
此方は絶賛仕事中だというのに、太宰さんに後ろからホールドされ、仕事が進まない。
「仕方ないですね…」
クルリと振り向いた先に在る彼の鼻先に唇を寄せた。
「お仕事終わったらご褒美あげます」
*****
「見てみて、綺麗なビー玉!」
「わぁ、此れは珍しいですね」
二人して日に翳したビー玉を観察する。
「あ、君の顔がビー玉色になってる。すっごく可愛い」
そう云うとまるで子供の様な軽いキスを頬に貰った。
「ビー玉は社長に上げるけど、君は僕のだよ」
こうして今日も絆されていく。
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何時も在る物が急に無くなると吃驚する様に、昨夜は隣に居た筈の芥川が居なくて思わず飛び起きる。
隣室から漏れる光が見えて扉を開けると、彼は少し大きめの咳をした後薬を呑んで居た。
「嗚呼、お早う」
「布団に居ないから吃驚した」
「僕はお前を置いては行かぬ」
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「お早う!絶好の心中日和だよ!」
起きて最初に聞いた言葉が不吉過ぎて再度布団に潜り込む。
「ねぇねぇ起きてよ」
「嫌です、まだ死にたくないです」
「じゃあ一緒に探偵社に行こう」
「…そもそも如何やって入って来たんですか」
外に敵が居たから撃退してくれた何て私はまだ知らない。
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「乱歩さん、朝です」
「ん~」
「遅刻しますよ」
「……」
私に引っ付いて離れない二十六歳児を起こさなければ二人共仕事に遅刻してしまう。
「早く出社したら社長褒めてくれますって」
「…君は褒めてくれないの?」
薄目を開けて上目遣いなんて確信犯だ。
「沢山褒めますよ」
「じゃあ起きる」
*****
席に居ないと思ったらソファで居眠り中の太宰さん。
「国木田さんが探してましたよ」
揺さぶっても起きる気配が無いので、寝ている間に悪戯でもと眠り姫を起こす王子様の真似てキスを落とした直後
私はガッチリと捕らえられた。
「姫と王子様逆じゃない?」
「起きないからですよ」
*****
ポートマフィアから解放された私と太宰さん。
「最後に居た方は誰だったんですか」
当時意識が明瞭しなかった私は彼に尋ねると
「気になるかい?」
彼は何故か面白そうに笑った。
「お嬢様口調の素敵帽子君だ。覚えておき給え」
「二度目はなくってよ!」は空耳じゃなかったのか。
*****
「国木田さんの理想の女性ってどんな人何ですか?」
隣の席の部下からの唐突な質問にキーを叩く指が止まる。
「…仕事中だぞ」
「だって敦君が手帳見たって云うから」
敦を睨むと逃げる様に仕事に戻る。
「教えて下さいよ国木田さん!」「断る」
お前の名前が書いて在るなんて云えるか!
*****
「何か面白い事件無いかなぁ」
暇なのか机に突っ伏す乱歩さん。
「自分で事件作れば佳いじゃないですか」
「如何やって?」
「私を殺してみるとか」
はい、と玩具の銃を渡すと子供みたいに目を輝かせて無遠慮に此方に向けて来た。
「バキューン!!」
「えっ、何で吐血してるの!?」
*****
軍警の応援に呼ばれ、案内係として乱歩さんと現場へ。
何度見ても慣れない死体を視界に入れられずに居ると
「ホラ、此れ貸してあげるから」
と帽子を目深に被せられた。
「死者はちゃんと弔わないと」
「…有難う御座います」
其の帽子は現場に似つかわしく無い甘い匂いがした。
*****
朝、味噌汁の匂いが部屋に広がる。
眠い目を擦りながら台所に向かうと満足そうに味見をする愛しい彼女。
「お早う、太宰さん」
笑顔で振り向く君が眩しくて、後ろから抱き締めて作業を続ける彼女の頬に口付けた。
「という夢を見たから同棲しようよ」
「唐突ですね佳いですよ」
「えっ」
*****
「何れが佳いと思う?」
「他人への贈物何て解りませんよ」
「君の意見が欲しいのだよ」
太宰さんが意中の女性への贈り物を一緒に選んでくれと頼んで来て早三時間。
「漸く買えた」
「佳かったですね」
彼は徐に袋を私に突き出す。
「では此れを君に」
意味が解らない程君は莫迦じゃないだろう?
*****
国木田さんが怒ってる。
原因は私がミスをしたからだと解って居るのだが、頭痛のせいで頭に入って来ない。
「国木田…一寸は察してあげなよ」
痺れを切らしたのか乱歩さんが外套を貸してくれた。
「女の子は大変なんだよ」
彼是心配してくれる乱歩さんに国木田さんは何かを悟ったらしい。
*****
「彼シャツってのをやってみたい」
「また君は何処で覚えて来るんだい」
呆れ顔の太宰さんに外套を借りる。
「わぁ大きい、太宰さんの匂いする」
「…引き摺らないでくれ給えよ」
裾を上げながらふと思う
「何か太宰さんに抱っこされてるみたい!」
其の瞬間外套を脱がされ直に抱き締められた。
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「彼シャツってやつやってみたい」
「其れってあれでしょ、やむを得ず着替える時とかにするやつでしょ」
「あれ、よくご存知で」
褒めるとふんぞり返る26歳児に再度お願いするも断られ続ける。
此方が折れようと思った矢先。
「明日の朝なら佳いよ、その代わり」
「今夜は楽しみにしてるね」
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「つれないなぁ」
「そんな事云って無いで仕事して下さい」
怒られたので渋々机に戻るが書類の山を見て一気にやる気が失せる。
「ねぇ、手伝って…」
「其の位直ぐ終わるでしょう」
「終わるように見える?」
「え、だって太宰さんですし」
其れは褒めてるの?貶してるの?
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太宰が俺の墓に来た。
俺が視えて居るのか、何やら話し始める。
「織田作、武装探偵社と云う組織に入ったよ」
其処は異能力者を集めて人助けを行う処らしい。
「其の中にね、とても可憐な美少女が居るのだよ」
「私は其の子に、恋をしたようだ」
そう語る太宰の顔を見て、俺は心から安堵した。
*****
「今日も可憐で美しいね」
「愛しているよ」
太宰さんの膝に乗せられたかと思うとそんな事を云われ続けて早30分。
国木田さんも怒る気力が尽きたのか黙々と仕事をしている。
「太宰さんあの」
「ふふ、何かな?」
意を決して聞いてみる。
「また毒キノコでも食べましたか」
号泣されてしまった。
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