壱頁完結物

たまに探偵社に来ては太宰さんに怯えて帰る芥川の妹さん。
そんな彼女を気にしている人物がもう一人いる。
「…帰った?」
「帰ったよ鏡花ちゃん」
複雑そうな顔で僕を見つめるのは元ポートマフィアの鏡花ちゃん。
「気になるなら話し掛ければ良いのに」

勢い佳く首を横に振られてしまった。


*****


「芥川の身内だとやっぱり怖い?」
「ううん…あの人が戦闘員じゃないのは知ってる」
そう云いつつ少し不安そうな鏡花ちゃんに眉が下がる。
「敦はあの人と仲良しだよね」
「仲良し…なのかな。姿を見れば話しはするけど」
「仲良し…」

今度は少し不機嫌になってしまった。


*****


「一度話してみなよ」
「でも…何を話せば良いか解らない…」
携帯を握り締める鏡花ちゃんに助言が出来ずもどかしくなる。
「何々、妹ちゃんの話?」
「太宰さん」
話し声が聞こえたのか太宰さんが寄って来た。
「鏡花ちゃんが彼女と話したいみたいで」
「嗚呼それなら」

「その兎好きだったよ」


*****


翌日から鏡花ちゃんは家に置いていた兎の縫いぐるみを会社に持って行く様になった。
国木田さんに少し怒られたり乱歩さんに遊ばれたりしたけど、今日も兎は会社に鎮座している。
数日後。
「こんにちは、書類取りに来まし…」
「あ、妹ちゃん!」
「ふぉぁ!」

また彼女がやって来た。


*****


太宰さんを避けつつ社長室から書類を受け取った彼女は足早に探偵社を後にしようとして、兎の前で止まった。
「人虎」
「何?」
「此れ、誰の?」
判りやすく目が輝いている。
「嗚呼、それは…」
ふと、僕の隣に人が立った。
「わ、私の…」

鏡花ちゃんは真っ赤な顔で何とか云い切った。


*****


「…確か、泉鏡花ちゃん」
「うん…」
怖いのか恥ずかしいのか、どんどん僕の後ろに隠れていく。
「元気?」
「えっ」
彼女の言葉に更に慌てる。
「あ…御免なさい。尾崎さんに元気にしてるか見て来てくれって云われてたから」

ねえ元気?と再度聞かれ、鏡花ちゃんはおずおずと首を縦に振った。


*****


「解った。尾崎さんに伝えとくね」
ニコリと微笑む彼女に鏡花ちゃんも少しずつ僕の後ろから出て来た。
「あの…」
「ん?」
「あの兎、好きなの?」
鏡花ちゃんの指差す先の兎を見た彼女は思い出した様に手を叩く。
「そう!この兎大好きなの!何で知ってるの?」

「太宰さんに聞いた」


*****


「え、太宰さん何で知ってるの…」
「君昔四六時中持ってたの覚えてないの?」
疑惑の目を向けられた太宰さんが呆れた顔で返事をする。
「此れ、敦がゲェムセンタァで取ってくれたの」
「げぇむせんたぁ?」
しかし聞き慣れない単語を拾って瞬時に興味を変えた。

「聞いたこと無いや」


*****


「上からガシャーンて兎を捕まえてね…」
「そんな機械があるの!?」
「敦上手だった」
「人虎機械も操れるのかー」
何だか誤解されてる様だけど、鏡花ちゃんがすっかり表に出て来た事に安堵する。
「今度一緒に行こう」
「良いの!?行く行く!」

如何やら打ち解けたみたいだ。


*****


「じゃあまた連絡するね」
「うん」
お互いの連絡先を交換し、彼女は帰って行った。
「良かったね鏡花ちゃん」
「うん…!」
嬉しそうに携帯の画面を見つめる鏡花ちゃんに、太宰さんが寄って来た。
「その日私も一緒に行っちゃ駄目?」
「駄目」

「何で私以外とは直ぐ仲良くなるのかな…」



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