壱頁完結物
太宰に拾われポートマフィアへと入った芥川兄妹。
兄の龍之介と姉の銀は遊撃隊へと入隊し、日々血を流して家に帰っていた。
「おかえり龍兄、銀姉」
「只今」
「尾崎さんに救急セット補充して貰ったから後で治療するね」
「有難う」
其の二人を末妹は毎日心配していた。
箱を持つ手が震える。
*****
「はいおしまい」
「有難う」
手当が終わり息を吐く末妹に礼を云う兄。
「龍兄、毎日怪我酷いね…大丈夫?」
「問題ない」
「なら善いけど…太宰さん厳しいの?」
「お前は知らなくて佳い」
包帯を触る兄の手が心配そうな末妹の頭に乗った。
「まあ、余り近付かない方が善いだろう」
*****
翌日、また救急セットを補充して貰おうと尾崎の部屋へ向かう。
「こんにちは」
「おお来たか、入りなんし」
迎えられ中へ入ると何時もは尾崎以外無人の部屋に人が居た。
其の人物は頭に包帯を巻いている。
「太宰、さん…?」
昨夜近付かない方が善いと云われた張本人が目の前に居る。
*****
「今太宰の名前を出すんじゃねえ!」
「ひぇ…!」
大声に驚いて救急箱を落とすのも構わず尾崎の後ろに隠れる。
「中也、大声を出すでない」
「す、済みません姐さん」
庇ってくれる尾崎に感謝しつつ先程の人物を覗き見る。
「…誰?」
「私の弟分でな、中原中也じゃ」
如何やら人違いらしい。
*****
「ご免なさい…間違えちゃって」
「いや、急に怒鳴って悪かったな」
尾崎の後ろから出てお詫びする末妹に中也も素直に謝る。
「俺と太宰を間違えるなんざ何処を見たんだよ」
「包帯…巻いてたから」
末妹が頭の包帯を指差すと疑問符を浮かべる中也。
「手前、太宰を見た事無いのか?」
*****
「…無い。銀姉の後ろついて来ただけだから」
「銀?嗚呼、手前芥川の末妹か」
頷く末妹に近付いて顔を覗き込む中也。
「昨日龍兄に近付かない方が善いって云われたばっかりだから。ご免なさい」
「佳いって。謝るなよ」
そう云う中也は何故か嬉しそうで。
「確かに近付かない方が善いな」
*****
「やっぱり太宰さんは怖い人なんだ…」
「見掛けたら直ぐに逃げた方が善いぜ。殺されるぞ」
「そ、そんなに…」
青ざめる末妹に対し楽しそうに笑う中也を見て尾崎が溜め息を吐く。
「ほれ、補充終わったぞ」
「あっ、有難う尾崎さん」
「それと中也」
「余り此の子を脅かすでない」
*****
「太宰は見掛けほど悪い奴ではない。一度話してみれば佳いぞ」
「…うん」
返事をする末妹が面白く無いのか不貞腐れる中也。
ふと末妹は何かに気付いて中也に近寄った。
「包帯外れそう」
「嗚呼、さっき太宰と殴り合いした時に解けちまったか」
「えっ、殴り合い…?」
*****
包帯を巻きながら一連の流れを聞いた末妹はまた顔を真っ青にした。
「太宰さん怖い…」
「中也、話を盛るでない」
「盛ってませんよ」
もう何が本当の話かも判らず混乱する末妹の手は綺麗に包帯を巻いていた。
「へえ、手際佳いんだな」
「毎日二人の包帯巻いてるから」
*****
「そうか。彼奴等の包帯は手前が…綺麗に巻いてんな」
「其れ位しか出来る事無いから…」
最後の仕上げに端を結びながら末妹は呟いた。
「彼奴等にとっちゃ心強い筈だ。もっと胸を張れ」
「ひぃぁ!」
背中をベチンと叩かれ悲鳴を上げると
中也は帽子を被って部屋を出て行ってしまった。
*****
「済まんの、彼奴は不器用でな」
扉を閉じる尾崎が口を開く。
「中也も口は悪いが根は善い奴じゃからまた相手してやって貰えるかの」
「うん」
「さ、そろそろ兄達が戻って来る頃じゃないかえ?」
時計を見るともう日の傾く時間だった。
「また来るね」
「何時でも来なんし」
*****
「そう、しくじっちゃったの」
部屋に戻る途中、誰かの声が聞こえて身を潜める。
チラリと見えた其の姿は中也が説明した太宰の特徴其の物。
「あれが太宰さん…」
電話をしている其の声は余り機嫌が佳くなさそう。
「次やったら…2回殴って5発撃つ」
「ぴゃ…」
やっぱり怖い人だと思った。
*****
「その包帯如何したの」
鉢合わせた太宰と中也。
殴り合いの後は緩んでいた包帯が元通りなのに気付く。
「芥川の末妹にやって貰ったんだよ」
「芥川君の妹ちゃん!?君会ったのかい!?」
「嗚呼、手前は会った事無いらしいな」
「そうなんだよ!」
「何処探しても居ないんだよ!」
*****
「そういや彼奴手前の事怖がってたぞ」
「えー、私はこんなに優しいのに」
「だから云っといてやったぞ。危ねえから近付くなって」
「君つくづく癪に障ることしてくれるよねぇ…」
「事実だろうが」
飄々とする中也に、珍しく太宰が拗ねた。
「此れで怖がられたら中也のせいだからね!」
*****
また殴り合いの喧嘩が始まる中、誰かが近付いて来た。
「中原さん、替えの包帯いる…」
「あっ、手前」
中也を探していたらしい末妹は中也に掴み掛かる太宰を見て顔を真っ青にし
「ひぁぃ!!」
叫びながら逃げて行った。
「一寸!待って!」
「龍兄、太宰さん怖い人だった…」
「…そうか」
.
兄の龍之介と姉の銀は遊撃隊へと入隊し、日々血を流して家に帰っていた。
「おかえり龍兄、銀姉」
「只今」
「尾崎さんに救急セット補充して貰ったから後で治療するね」
「有難う」
其の二人を末妹は毎日心配していた。
箱を持つ手が震える。
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「はいおしまい」
「有難う」
手当が終わり息を吐く末妹に礼を云う兄。
「龍兄、毎日怪我酷いね…大丈夫?」
「問題ない」
「なら善いけど…太宰さん厳しいの?」
「お前は知らなくて佳い」
包帯を触る兄の手が心配そうな末妹の頭に乗った。
「まあ、余り近付かない方が善いだろう」
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翌日、また救急セットを補充して貰おうと尾崎の部屋へ向かう。
「こんにちは」
「おお来たか、入りなんし」
迎えられ中へ入ると何時もは尾崎以外無人の部屋に人が居た。
其の人物は頭に包帯を巻いている。
「太宰、さん…?」
昨夜近付かない方が善いと云われた張本人が目の前に居る。
*****
「今太宰の名前を出すんじゃねえ!」
「ひぇ…!」
大声に驚いて救急箱を落とすのも構わず尾崎の後ろに隠れる。
「中也、大声を出すでない」
「す、済みません姐さん」
庇ってくれる尾崎に感謝しつつ先程の人物を覗き見る。
「…誰?」
「私の弟分でな、中原中也じゃ」
如何やら人違いらしい。
*****
「ご免なさい…間違えちゃって」
「いや、急に怒鳴って悪かったな」
尾崎の後ろから出てお詫びする末妹に中也も素直に謝る。
「俺と太宰を間違えるなんざ何処を見たんだよ」
「包帯…巻いてたから」
末妹が頭の包帯を指差すと疑問符を浮かべる中也。
「手前、太宰を見た事無いのか?」
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「…無い。銀姉の後ろついて来ただけだから」
「銀?嗚呼、手前芥川の末妹か」
頷く末妹に近付いて顔を覗き込む中也。
「昨日龍兄に近付かない方が善いって云われたばっかりだから。ご免なさい」
「佳いって。謝るなよ」
そう云う中也は何故か嬉しそうで。
「確かに近付かない方が善いな」
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「やっぱり太宰さんは怖い人なんだ…」
「見掛けたら直ぐに逃げた方が善いぜ。殺されるぞ」
「そ、そんなに…」
青ざめる末妹に対し楽しそうに笑う中也を見て尾崎が溜め息を吐く。
「ほれ、補充終わったぞ」
「あっ、有難う尾崎さん」
「それと中也」
「余り此の子を脅かすでない」
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「太宰は見掛けほど悪い奴ではない。一度話してみれば佳いぞ」
「…うん」
返事をする末妹が面白く無いのか不貞腐れる中也。
ふと末妹は何かに気付いて中也に近寄った。
「包帯外れそう」
「嗚呼、さっき太宰と殴り合いした時に解けちまったか」
「えっ、殴り合い…?」
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包帯を巻きながら一連の流れを聞いた末妹はまた顔を真っ青にした。
「太宰さん怖い…」
「中也、話を盛るでない」
「盛ってませんよ」
もう何が本当の話かも判らず混乱する末妹の手は綺麗に包帯を巻いていた。
「へえ、手際佳いんだな」
「毎日二人の包帯巻いてるから」
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「そうか。彼奴等の包帯は手前が…綺麗に巻いてんな」
「其れ位しか出来る事無いから…」
最後の仕上げに端を結びながら末妹は呟いた。
「彼奴等にとっちゃ心強い筈だ。もっと胸を張れ」
「ひぃぁ!」
背中をベチンと叩かれ悲鳴を上げると
中也は帽子を被って部屋を出て行ってしまった。
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「済まんの、彼奴は不器用でな」
扉を閉じる尾崎が口を開く。
「中也も口は悪いが根は善い奴じゃからまた相手してやって貰えるかの」
「うん」
「さ、そろそろ兄達が戻って来る頃じゃないかえ?」
時計を見るともう日の傾く時間だった。
「また来るね」
「何時でも来なんし」
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「そう、しくじっちゃったの」
部屋に戻る途中、誰かの声が聞こえて身を潜める。
チラリと見えた其の姿は中也が説明した太宰の特徴其の物。
「あれが太宰さん…」
電話をしている其の声は余り機嫌が佳くなさそう。
「次やったら…2回殴って5発撃つ」
「ぴゃ…」
やっぱり怖い人だと思った。
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「その包帯如何したの」
鉢合わせた太宰と中也。
殴り合いの後は緩んでいた包帯が元通りなのに気付く。
「芥川の末妹にやって貰ったんだよ」
「芥川君の妹ちゃん!?君会ったのかい!?」
「嗚呼、手前は会った事無いらしいな」
「そうなんだよ!」
「何処探しても居ないんだよ!」
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「そういや彼奴手前の事怖がってたぞ」
「えー、私はこんなに優しいのに」
「だから云っといてやったぞ。危ねえから近付くなって」
「君つくづく癪に障ることしてくれるよねぇ…」
「事実だろうが」
飄々とする中也に、珍しく太宰が拗ねた。
「此れで怖がられたら中也のせいだからね!」
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また殴り合いの喧嘩が始まる中、誰かが近付いて来た。
「中原さん、替えの包帯いる…」
「あっ、手前」
中也を探していたらしい末妹は中也に掴み掛かる太宰を見て顔を真っ青にし
「ひぁぃ!!」
叫びながら逃げて行った。
「一寸!待って!」
「龍兄、太宰さん怖い人だった…」
「…そうか」
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