壱頁完結物
「うぅー…龍兄ぃ…銀姉ぇ…、開けてぇ…」
弱々しい声とは正反対のけたたましい騒音が部屋を包む。
「澄ちゃん、澄ちゃん!」
「開かないよ太宰さん…」
「判ってるから扉叩くの止めて!」
しょんぼりと肩を落とし頷くと騒音はすぐに止んだ。
「もう…手も真っ赤じゃないか」
「だって怖いんだもん…」
*****
「私が居るだろう?」
「密室で心中しようとか、云わない?」
「云わ…ない」
「龍兄ぃー!助けてー!!」
「云わない!云わないから!!」
再度鳴り響く騒音を慌てて止める。
あまりの音量に鼓膜にヒビが入りそうだ。
「やっぱり怖いよぉ…」
「でもほら、キスをすれば出られるんだよ?」
「キス…?」
*****
「彼処に監視カメラがあるだろう?あれに見えるように私達がキスをすれば扉を開けてくれるんだ」
「ふぅん」
素っ気ない返事をする澄の頬が少し赤くなっているのを太宰は見逃さなかった。
「澄ちゃん、キスは初めて?」
無言で小さく頷く澄に太宰の心拍数が上がっていく。
「初めて、貰っていい?」
*****
「だって、そうしないと出られないんでしょ?」
「だからって無理強いはしないよ。誰でも初めては大事だもの」
優しく微笑む太宰を見つめ、澄は一つ深呼吸をして向き合った。
「い、良いよ…」
「…へ?」
「だから!…キス、して良いよ」
直視出来ないのか目を逸らす澄の向かいで太宰も真っ赤になった。
*****
「ほ、本当に…?」
「恥ずかしいから…早く…」
嗚呼、此の恥じらい方は銀ちゃんそっくりだなぁ、等とぼんやり考え乍ら太宰は両手で澄の顔を包んだ。
「ふふ、真っ赤な顔。此方向いて」
額同士をくっ付けると視線が交わる。
「目、閉じて…」
澄は云われた通りゆっくり目を閉じ、太宰は顔を近付ける。
*****
「「月下獣羅生門!!」」
突然扉が粉砕され、バタバタと人が入ってきた。
「太宰さん!大丈夫ですか!?」
「澄、大事無いか!」
其の二人を呆然と見つめ、澄は指差す。
「…開くじゃん」
「否、アレは例外と云うか…」
「私の覚悟返してー!」
「痛っ!痛いよ澄ちゃん!」
胸を叩く手を何とか止める太宰。
*****
其の侭手を引っ張られ澄がバランスを崩した瞬間、頬に柔らかい感触がした。
「ひぁ!?」
「今日は此方で我慢するけど、私とキスするのが厭じゃないなら、此処は予約させて貰うよ」
人差し指で唇を軽く押され、澄はまた茹で蛸の様に真っ赤になった。
「さ…さて!帰ろうか敦くん!」
「え!?あ、はい!!」
*****
残された澄は放心状態で兄を見つめる。
「りゅ、龍兄…」
「…今回は太宰さんの方が上手だったな」
ゆっくり頭を撫でてやると益々真っ赤になる顔。
「私ね…先刻の『予約する』って云われたの、厭じゃないって…思っちゃった」
困惑の表情に女が見え隠れするのに気付き、内心頭を抱える兄だった。
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