壱頁完結物
「末妹、一つ頼まれてくれ」
書類を届けに来た探偵社にて、神妙な面持ちの国木田に話し掛けられる芥川の末妹。
「お届け物?」
「否、此彼を見張って欲しいのだが」
彼の持つ縄の先には、体に縄を巻き付けられた太宰の姿があった。
「…何してるの、太宰さん」
「助けて妹ちゃん…」
*****
聞けば明日は休業日なのに未だ太宰だけ報告書が書き終わっていないと云う。
「休み明けに書くよ」
「そう云い続けての今だろうが。社長もそろそろお怒りだ、良いから早く書け!」
そのやり取りを見守っていた末妹に太宰がチラリと目配せをするが…
「お仕事ちゃんとしなきゃ、織田作に笑われるよ!」
*****
「此の椅子を使え」
「有難う国木田さん!」
結局、末妹は太宰の横で見張りをする事になった。
やる気が出ず溜め息を吐く上司を敦が呆れ顔で眺めている。
「太宰さん明日お休みなんだね」
「そうだよ。今日はサッサと帰ってお酒飲もうと思ってたのに…」
渋々パソコンに手を伸ばす太宰。
*****
「そういえば、最近お酌の仕方覚えたんだ」
「お酌?」
報告書が少し進んだ辺りで末妹が話し掛けた。
「龍兄や中也さんが色んなお酒飲むからよくやっててね」
其の光景が頭に浮かび、嫉妬から口元が歪む太宰。
「報告書頑張ったら太宰さんにもお酌してあげる!」
「ほ、本当かい!?」
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「急にやる気になったな…」
キーボードを叩く音が前から聞こえ、国木田が怪訝そうに太宰を窺う。
対称的に太宰はウキウキと仕事をこなしていく。
「明日は槍が降るな…」
「まあ、仕事してるなら良いじゃないですか」
谷崎が苦笑し乍ら近付き、二人はまた怪訝そうに太宰を眺めた。
*****
「終わった!」
太宰の雄叫びが社内に響くと共に、彼は社内から姿を消した。
唖然とする国木田の机には報告書が置かれ、太宰の隣に座っていた筈の末妹もいない。
「彼奴…」
「僕、報告書を社長に出して来ます…」
国木田の心労を悟った敦がそっと紙束を抱え社長室へと向かった。
*****
「妹ちゃんのお酌で酒が飲めるなんて、生きてて良かった!」
「お疲れ様、太宰さん」
太宰と末妹は近くの居酒屋に腰を下ろしていた。
家で飲まないのと問う末妹に理性が如何こう云っていた事など既に末妹は忘れている。
「其れにしても本当に上手だね。お酒が進んじゃうよ」
「本当?良かった!」
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「そういえば、お仕事直ぐ終わらせちゃったね」
「あれ位なら直ぐ終わるさ」
「じゃあ如何して直ぐやらないの?」
純粋な眼差しに心臓を抉られ、太宰は机に肘を付いた。
「…今の凄い心にキた」
「はいお酒」
「君本当お酌上手いね…」
注がれた酒を飲み干し、太宰は満足そうに溜め息を吐いた。
*****
「君がこうしてお酌してくれるなら仕事も頑張れるのになぁ」
「お仕事頑張ったらまたお酌してあげるよ」
「お、云ったね?」
ニヤリと笑う太宰にニコリと返す末妹。
「お仕事頑張ってる太宰さん格好良かったから、また見せてね!」
今度は別の意味で心臓を抉られ、酔いが一気に回りお開きとなった。
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