壱頁完結物


「だ、太宰さん…」
「妹ちゃん…君なんて格好を…」
「今日、お誕生日でしょ…だから、その…贈呈品」
そう云う芥川の末妹の手にはリボンが握られている。
「此れは、其のままの意味として受け取って良いね?」
「う、うん…」
「ふふ、そっか」

「今迄で一番嬉しい贈呈品だ…」


*****


末妹の腰を引き寄せると小さく悲鳴を上げるが、太宰の耳には入っていない。
「一番欲しかったものが手に入った」
「ホント?」
「うん。ね、良いでしょ…?」
顔を近付けると真っ赤になって目を閉じる末妹の顎に手を掛けた。

「これは夢だ!!」
直後、太宰は布団から飛び起きた。


*****


「敦くん…今日を私の命日にするよ…」
「誕生日に物騒な事云わないで下さい!」
探偵社の机で太宰は項垂れていた。
「最近妹ちゃんに対する下心が酷くなっている気がするのだよ…」
「え、最近?」
真顔で云い放つ敦に傷を深く抉られた。

「矢張り入水を…」
「わー!待ってください!!」


*****


外に出ようと入口の扉を開いた瞬間
「今日は賑やかだね」
「い、妹ちゃん…!」
「誕生日会でもしてるの?」
「否、そう云う訳じゃ…ん?」
太宰は目を疑った。
末妹が書類封筒以外に何かを持っている。
そして其れは夢で見た光景と重なった。

「其のリボン…真逆…!?」


*****


「そうそう!太宰さんに誕生日贈呈品!」
はいどうぞ、と差し出されたリボンに手を伸ばす。
そんな、正夢になるなんて…と興奮を隠せない太宰はふと、其の下に白い箱が見えるのに気が付いた。
「箱?」
「誕生日ケヱキだよ!」

「そ、そうだよね!有難う妹ちゃん!!」
「何で慌ててるの?」


*****


「何でもないよ!本当!妹ちゃんが贈呈品だとか考えてないから!」
「私が?」
「あっ」
「彼女の前になるとよく口が滑りますね」
呆れる敦の隣で冷や汗をかく太宰。
「私が贈呈品だったら如何なるの?」
「其処突っ込んじゃ駄目だよ」

「世の中知らない方が良い事だってあるんだからね」


*****


「よく判らないけど、お誕生日おめでとう!」
「有難う妹ちゃん!今日はもう入水しない!」
「入水する心算だったの!?」
「妹ちゃんが一緒にいてくれたらしない!!」

末妹をぎゅうぎゅう抱き締める後ろで名探偵が既に箱を開けていた。


*****


「龍兄、私が贈呈品だよって云われたら如何思う?」
拠点内で純粋な疑問を口にした末妹に対し、兄と其の横にいる幹部が飲んでいた茶を同時に噴いた。
「…何処で覚えて来た」
「どうせ太宰に云われたんだろ」
「凄い!よく判ったね!」

「そんな事云うのは彼奴しかいねえよ」


*****


「人虎に聞いても知らない方が良い事もあるって云われて」
「…まあそうだな」
「でも知っておいた方が良いと思うの」
「何故だ」
「最近龍兄に『軽率だ』ってよく云われるから」
二人は顔を見合わせ、コクリと頷いた。

「俺が教えてやるよ」
「え?如何云う事?」


*****


「僕では役不足故」
頭に疑問符を浮かべる末妹の隣に幹部が腰を下した。
「何が始まるの?」
「おい、もっと寄れ」
腰に手を回され大袈裟に飛び上がる。
「顔、近い…!」
「贈呈品ってこたぁ、好きに出来んだよ」
「好きにって…はひゃ!」

「そうだな…人前じゃ出来ねぇ事でもするか?」


*****


「な、な…!」
末妹が茹で蛸の様に真っ赤になり、更に近付く幹部に顔を逸らして目を固く瞑る。
何時の間にか足を這い始めた手に小さく悲鳴を上げる。
「だ、駄目…!」
「何が駄目なんだよ、手前は贈呈品だろ。大人しくしろ」

「中也さん、其処までです」
二人の間に黒獣が割って入った。


*****


「龍兄ぃ…」
半泣きで兄に呼び掛けると、向かいで幹部がクツクツと笑い始めた。
「ま、大抵はこうなる」
「ええ…?本当に?」
「然り、不用意に口にする物では無い」
「彼奴の場合はこうなった後に心中も有り得るぞ」
「ひぃ!」

幹部の悪乗りのお陰で太宰に対する警戒心が増した末妹だった。



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