壱頁完結物
何時もの探偵社に、何時もの様にポートマフィアの書類係が封筒を持ってやって来た。
「こんにちは鏡花ちゃん!」
「久しぶり」
キャッキャとはしゃぐ年頃の娘達に社員の顔が綻ぶのも束の間。
「あれ、太宰さんは?」
その問いに、国木田が眼鏡を押し上げ乍ら答えた。
「食中毒で入院中だ…」
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「はあぁ…」
太宰は病室で盛大な溜め息を吐いた。
扉の隙間から看護士がこぞって彼を見ている事など気にも留めていない。
「失念していた…今日は妹ちゃんが来る日だったのに」
今頃探偵社で団欒しているだろう想い人を浮かべ、気を紛らわす為窓の外を見た。
「看護士さん達、何してるの?」
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耳に入った声に慌てて視線を扉に向ける。
其処には走り去る数人の看護士と、脳裏に描いていた想い人の姿。
「妹ちゃん…真逆、お見舞いに来てくれたのかい?」
「うん。食中毒って聞いたけど大丈夫?」
大きく頷く彼女に、太宰の涙腺が決壊した。
「そろそろお迎えが来そう…」
「えっ!?」
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「驚かさないでよ…」
「御免、余りにも嬉しくて」
誤解を解いた太宰は寝台横の椅子を勧めた。
「急だったから何も持って来れなかった…」
「君が来てくれるだけで充分だよ。有難う」
「治ったらまたケヱキ食べに行こうね!」
有頂天な太宰を、扉の隙間からまた看護士が観察し始めた。
*****
「処で君、受付は如何したんだい。正直に芥川なんて書いてないよね?」
「流石に書かないよ。だから太宰さんの妹って事にしたの」
「え、私の…?」
「うん。名字の処、太宰って書いて来たよ」
太宰は考えた。
受付に行けば、自分の名字と彼女の名前が直筆で書かれた公的書類が存在するのだと。
*****
面会が終わり病室を後にする彼女を見送った太宰は、ゾロゾロと入って来た看護士に怪しい笑みを向ける。
「今日の面会リストが欲しいんだ、重要書類として」
「其れは…」
「持って来れた人にはアレしてあげるよ。個室でね」
こうして手に入れた面会リストは今でも社の引き出しにあるらしい。
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