壱頁完結物


何時もの帰り道、太宰と末妹が並んで歩いていると、ふとショーウィンドウに目が行った。
「わぁ、綺麗!」
「ん?嗚呼、ウェディングドレスか」
「真っ白で素敵!」
目を輝かせる末妹に太宰が一歩近付く。
「着せてあげようか」
「え?」

「着てみたいんじゃないのかい?ウェディングドレス」


*****


「着てみたいけど…」
「じゃあ良いじゃない。私も君のドレス姿見てみたいなあ」
楽しそうな太宰に首を傾げる。
「但し一つだけ条件が有るんだ」
「条件?」
「そう」
頷き乍ら太宰は末妹の手をゆっくりと取った。
「私とヴァージンロードを歩いてくれるなら、ね」

「だ、太宰さん…それって…」


*****


困惑する末妹を見詰める太宰。
此れで少しは意識してくれそうだと頬を緩める。
「太宰さん、私のお父さんになるの…?」
「…そうだね、君はそう云う子だ」
盛大な溜め息と共に手を離すと同時に後ろから気配がした。
「いくら太宰さんと云えど…」

「妹のヴァージンロードは譲りませぬ」


*****


「龍兄!」
「迎えに来た」
「やったぁ有難う!!」
兄の登場に喜び走り寄る末妹。
「否、芥川君…私は君の代わりを狙ってる訳じゃ」
「存じております」
「え?」
外套の後ろ手に羅生門がチラついている。
「妹はまだ嫁には行かせぬと云っているのです」

「…君、そんなにシスコンだったっけ」


*****


暫く睨み合いを続ける二人を後目に末妹がショーウィンドウを眺め続けていると、頭に何かが被せられた。
「手前等遅いと思ったら何やってんだよ」
「あっ、御免なさい」
「中也まで…随分妹ちゃんを甘やかすじゃないか」
「俺は偶々通り掛かっただけだ」

「んで、何してんだこんな処で」


*****


「ウェディングドレス見てたの」
「ドレス…?嗚呼此れか」
硝子をコンコンと叩き中を見る中也。
「ヴァージンロードをどっちが歩くかで揉めてるの」
「は?太宰手前保護者側に転換すんのか」
「しないよ、其の子の勘違いだ」

「私、何か勘違いしてる?」
「してはいるが云わねえでおく」


*****


「然し末妹、知ってるか?ヴァージンロードは二回歩くんだぜ」
「二回?」
「入って来たら出て行かなきゃだろ」
「そっか!」
初めて知ったのか末妹がハッとする。
「帰りは誰と歩くの?」
「そりゃ伴侶になる奴に決まってンだろ」
「伴侶…旦那さんってこと?」

「そうだよ妹ちゃん!」


*****


「旦那さんかぁ…」
まだ想像が出来ないのか考え込んでいると、頭に乗っていた帽子が宙に浮いた。
「何なら帰りのヴァージンロード一緒に歩いてやろうか?」
「…えっ!?」
中也の突然の発言に末妹は顔を真っ赤にした。

「そ、それってつまり…えっと、あの…」


*****


パニックに陥る末妹に中也が吹き出した。
「莫ぁ迦、冗談に決まってンだろ」
「えー!?」
冗談と聞いて頬がはち切れんばかりに膨らんでいく。
「酷いよ中也さん!乙女心を弄ぶなんて!!」
「ははは、ちったぁ冗談も見分けやがれ」

「そう云や姐さんが探してたからサッサと帰れよ」


*****


手を振り乍ら兄と共に帰路に着く末妹を見送る二人。
「手前、彼奴の前だと本当ポンコツだな」
「…放っておいてよ」
「ま、彼奴を落とすなら心中の誘い文句ばっか考えてねぇで先刻みたいな口説き文句一つ考えろってんだ」

ケラケラ笑い乍ら去る中也を背に、太宰は苦い顔をした。



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