壱頁完結物
朝起きたら家に誰も居ない事なんてよくあるのに、今日誰も居ないのは何だか物悲しい。
「降誕祭の招宴、家族でしたかったな…」
芥川家でポツリと呟いたのは末妹。
任務だから仕方無いと云い聞かせるも、寂しい気持ちが治まらない。
ふと、コンコンと窓を叩く音がした。
「何だろ?」
*****
閉じられた儘の厚手のカーテンを小気味良い音を立てて開いた先を見て、末妹は盛大に悲鳴を上げた。
「ぎゃわにゃあああ!!」
「また新しい叫び声だね」
「だ、太宰さん!何で此処に!?」
「外で芥川君達を見かけてね。若しかしたら家に一人だろうと思って」
「空き巣…」
「人聞き悪いよ」
*****
寒いと訴える太宰を部屋に入れ暖房を付けると溶け始めの雪達磨のようにソファに寝そべった。
「何で玄関から来なかったの?」
「驚かそうと思って」
ホット珈琲を渡され礼を云う。
「私が起きてなかったら如何するの?」
「うーん、凍死かな」
「人の家のベランダで勝手に自殺しないで…」
*****
「勝手に入って来て何だけど、今日は予定はあるの?」
「無いよ。本当は朝二人が居たら降誕祭の招宴をしたいって云う心算だったの…」
しょんぼりと項垂れる末妹の頭に太宰の手が乗る。
「なら私と招宴しよう。玄関に色々置いてあるんだ」
「本当に何で玄関から来なかったの…?」
*****
太宰は玄関から二つの紙袋を持って来た。
「何が入ってるの?」
「此方はケエキ」
「ケエキ!」
目を輝かせる末妹に微笑み掛け乍ら、太宰はもう一つの紙袋を掲げる。
「但しケエキを食べるには此れを着て貰うよ」
「着る?」
「降誕祭の衣装だ」
「何で私のサイズ知ってるの?」
「…目測」
*****
「此れで良いの?」
「うん、とても似合ってるよ」
赤に白のファーをあしらったワンピースを見に纏った末妹が恥ずかしそうに部屋に戻って来た。
「あれ、太宰さんも着替えたの?」
「そうだよ、君だけじゃ不公平だろう」
「そうだけど…格好良いね」
太宰がテーブルの角に膝をぶつけた。
*****
ケエキを食べながら話をしていると、末妹が頻りに太宰を見ているのに気が付いた。
「何か付いてる?」
小恥ずかしいのか少し頬を染め乍ら尋ねる。
「ううん、頭巾が気になって」
「頭巾…此れか」
「帽子じゃないのかなって」
「帽子にしたら彼の蛞蝓と同じになるじゃないか」
「ならないよ…」
*****
「あっ」
「如何したの?」
「太宰さんにあげる贈答品が無いや…」
ケエキと衣装を貰ったのに、と悩む末妹。
「良いよ、急に押し掛けたのだから」
「でも…」
「じゃあ、お願いを聞いてくれる?」
「うん良いよ」
頷く末妹に、太宰は自分の膝をペチペチと叩いた。
「膝枕させて?」
*****
「私がする側じゃないの?」
素直に寝転がりながら問う末妹。
「私がしたいのだよ」
「ふぅん」
背凭れに描けてあった毛布を胸から下に掛けられ、此の儘昼寝が出来そうだ。
「眠くなったら寝ても良いからね」
「…何もしない?」
「……しないよ」
「やっぱり起きる」
「嘘だよ!何もしない!!」
*****
押し問答の末何とか説得に成功した太宰は満足そうに膝の上でぐっすりと眠る末妹を見つめ乍ら彼女が眠る少し前の会話を思い出した。
「降誕祭の招宴一緒にしてくれて有難う、か」
押し掛け、追い返されるのを覚悟していた太宰は泣きそうな笑みを浮かべる。
「君は本当に変わったよ」
*****
「出会った当初は外套の裾が見えただけでも逃げていたし、私の前で眠るなんてあり得なかったのに」
ゆっくりと髪に手櫛を通すが末妹は起きない。
「少しずつ近付いてくれる君が堪らなく愛しいんだ。だからもし贈答品をくれると云うなら…」
太宰は其処で言葉を切った。
「否、やめておこう」
*****
「君を驚かせたのも、私と過ごす日を少しでも心に留めて欲しかったからなんだ。私の方こそ一緒に招宴してくれて有難う」
そう云うと太宰は末妹の額にゆっくりと口付けた。
「贈答品は此れで我慢しよう。何時か君が差し出してくれた時は、喜んで受け取るよ」
「メリークリスマス。妹ちゃん」
.
「降誕祭の招宴、家族でしたかったな…」
芥川家でポツリと呟いたのは末妹。
任務だから仕方無いと云い聞かせるも、寂しい気持ちが治まらない。
ふと、コンコンと窓を叩く音がした。
「何だろ?」
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閉じられた儘の厚手のカーテンを小気味良い音を立てて開いた先を見て、末妹は盛大に悲鳴を上げた。
「ぎゃわにゃあああ!!」
「また新しい叫び声だね」
「だ、太宰さん!何で此処に!?」
「外で芥川君達を見かけてね。若しかしたら家に一人だろうと思って」
「空き巣…」
「人聞き悪いよ」
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寒いと訴える太宰を部屋に入れ暖房を付けると溶け始めの雪達磨のようにソファに寝そべった。
「何で玄関から来なかったの?」
「驚かそうと思って」
ホット珈琲を渡され礼を云う。
「私が起きてなかったら如何するの?」
「うーん、凍死かな」
「人の家のベランダで勝手に自殺しないで…」
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「勝手に入って来て何だけど、今日は予定はあるの?」
「無いよ。本当は朝二人が居たら降誕祭の招宴をしたいって云う心算だったの…」
しょんぼりと項垂れる末妹の頭に太宰の手が乗る。
「なら私と招宴しよう。玄関に色々置いてあるんだ」
「本当に何で玄関から来なかったの…?」
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太宰は玄関から二つの紙袋を持って来た。
「何が入ってるの?」
「此方はケエキ」
「ケエキ!」
目を輝かせる末妹に微笑み掛け乍ら、太宰はもう一つの紙袋を掲げる。
「但しケエキを食べるには此れを着て貰うよ」
「着る?」
「降誕祭の衣装だ」
「何で私のサイズ知ってるの?」
「…目測」
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「此れで良いの?」
「うん、とても似合ってるよ」
赤に白のファーをあしらったワンピースを見に纏った末妹が恥ずかしそうに部屋に戻って来た。
「あれ、太宰さんも着替えたの?」
「そうだよ、君だけじゃ不公平だろう」
「そうだけど…格好良いね」
太宰がテーブルの角に膝をぶつけた。
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ケエキを食べながら話をしていると、末妹が頻りに太宰を見ているのに気が付いた。
「何か付いてる?」
小恥ずかしいのか少し頬を染め乍ら尋ねる。
「ううん、頭巾が気になって」
「頭巾…此れか」
「帽子じゃないのかなって」
「帽子にしたら彼の蛞蝓と同じになるじゃないか」
「ならないよ…」
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「あっ」
「如何したの?」
「太宰さんにあげる贈答品が無いや…」
ケエキと衣装を貰ったのに、と悩む末妹。
「良いよ、急に押し掛けたのだから」
「でも…」
「じゃあ、お願いを聞いてくれる?」
「うん良いよ」
頷く末妹に、太宰は自分の膝をペチペチと叩いた。
「膝枕させて?」
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「私がする側じゃないの?」
素直に寝転がりながら問う末妹。
「私がしたいのだよ」
「ふぅん」
背凭れに描けてあった毛布を胸から下に掛けられ、此の儘昼寝が出来そうだ。
「眠くなったら寝ても良いからね」
「…何もしない?」
「……しないよ」
「やっぱり起きる」
「嘘だよ!何もしない!!」
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押し問答の末何とか説得に成功した太宰は満足そうに膝の上でぐっすりと眠る末妹を見つめ乍ら彼女が眠る少し前の会話を思い出した。
「降誕祭の招宴一緒にしてくれて有難う、か」
押し掛け、追い返されるのを覚悟していた太宰は泣きそうな笑みを浮かべる。
「君は本当に変わったよ」
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「出会った当初は外套の裾が見えただけでも逃げていたし、私の前で眠るなんてあり得なかったのに」
ゆっくりと髪に手櫛を通すが末妹は起きない。
「少しずつ近付いてくれる君が堪らなく愛しいんだ。だからもし贈答品をくれると云うなら…」
太宰は其処で言葉を切った。
「否、やめておこう」
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「君を驚かせたのも、私と過ごす日を少しでも心に留めて欲しかったからなんだ。私の方こそ一緒に招宴してくれて有難う」
そう云うと太宰は末妹の額にゆっくりと口付けた。
「贈答品は此れで我慢しよう。何時か君が差し出してくれた時は、喜んで受け取るよ」
「メリークリスマス。妹ちゃん」
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