壱頁完結物
「妹ちゃん、ケヱキ美味しい?」
「うん、とっても美味しい!有難う太宰さん!」
ニコニコと笑う太宰の向かいでフォークを片手に幸せそうな表情をする芥川の末妹。
今日は珍しく休日が被り、太宰曰くデヱトにやって来たのだ。
太宰曰く、と云ったのは末妹がそう思っていないからである。
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「今度鏡花ちゃんに教えてあげよ!」
「…きっと喜ぶよ」
末妹の中では鏡花と太宰は同じ立ち位置にいるらしく、太宰から特別な感情を向けられている事など全く感知していないのである。
「でも二人だけの内緒ってのも悪くないんじゃない?」
「そう?じゃあそうする!」
加えてこの鈍感さだ。
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流石の太宰も此処まで意識されていない事に若干焦っていた。
此の儘では何時までも進展しない処かぽっと出の男に盗られかねない。
「ねえ妹ちゃん」
「ん?」
「私ってそんなに魅力無い?」
「如何云う事?」
「いや、その…」
「私と一緒に居て、ドキドキしたりとか…無い?」
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末妹はフォークを置いてキョトンとした顔で首を傾げた。
「ドキドキ?」
「うん」
今の私みたいに、と云いかけて格好悪すぎると口を閉じる。
「太宰さん照れてる?」
「てっ、照れてない」
「あはは」
「何で笑うのさ」
口をへの字に曲げて末妹を見ると。
少し頬を染めて笑っていた。
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「だって太宰さん顔真っ赤なんだもん!」
「珈琲飲んで熱くなっただけだから」
「先刻から一口も飲んでないのに?」
「うぐ…でも君も今顔赤いよ」
頬を突くと
「太宰さんのが移っちゃった!」
とヘラリと笑う姿に太宰が負けた。
「まぁ、君のそう云う処が好きなんだけれどね」
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程無くして中也に見つかった末妹は太宰に礼を云って帰路に着いた。
「ねえ中也さん」
「あ?」
「何か先刻からずっとドキドキしてるの」
「何でだよ」
「…判んない」
「んだよそれ」
「だから聞いてるのに」
「俺が知るか」
太宰にあんな事を云われたからだ、とは何故か中也には云えなかった。
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